食屍鬼の少女
アドワースから顔面に一撃を受けた神父は、鼻から血を流しながら、怒声をあげた。
「ぎさまぁ! よぐも……よぐも、わだしの顔にぃっ!!」
アドワースは距離をとって、再び木刀を構え直した。
「俺は、レイナードみたいに甘くないぜ」
全身を使って放たれる斬撃が右へ、左へと神父を激しく打ちつけた。
アストライア大陸の北東部……大精霊の森で採取されるロゥウッドから作られた木刀は、高い硬度と柔軟さを併せ持ち、ひと振りすると唸りをあげてしなった。
流れる刀身は、まるでおとぎ話に出て来る蛇の怪物そのものだった。腹を空かした多頭の蛇が、神父の身体を引きち切ろうと襲い掛かった。
「あばばっ、ぶっごろじてや……ぼえっ」
神父は木刀に打たれながら、操り人形の様に身体を揺らし続けた。
「きてぃやあぁぁぁーっ!!」
掛け声と共にアドワースが最後の一撃を放つと、白目を剝いた神父は膝からくずおれるように倒れて、ピクリとも動かなくなった。
「本当は、ぶっ殺してやりたいところだけどよ……お前には色々と喋ってもらわなきゃあならないからなぁ」
その瞬間、アドワースは本能的に危険を察知して後ろに下がった。
轟音と共に地面が砕け、砂埃が舞った。
「こいつは、一体!?」
視界が開けると、一人の少女がアドワースをじっと見ていた。
「へええ、これを避けるんだ。おにいさん、見かけよりも凄いんだねえ!」
少女は被っていたフードをまくり上げ、金髪の髪とその素顔を晒した。
それを見たアドワースは、ぎょっとした。星明りに照らされた少女の顔は、驚くほどに美しかった。だけれども、それは先程まで戦っていた子どもたちと一線を画していた。
「なあに? 僕の顔に何かついてる?」
無機質な表情は死者の体温を連想させた。艶のない肌は見知った人間のものではなく、蜜蠟で作られた塊の様だった。
かつて美しい令嬢であったであろうその容姿は、既に人ならざる者へと変化していた。
少女は、愛玩人形の様な顔をアドワースに向けると、ぺこりと頭を下げた。
「ごめんね。コレを持って帰らないと、僕が怒られちゃうの……だから、見逃してくれると嬉しいな」
そういうと、気絶した神父を軽々と抱え、あっという間に森の中へと姿を消した。
「ま、待ちやがれ、くそっ! 何なんだ、あいつは」
アドワースの体力も限界に近かった。追跡を諦めると、倒れているレイナードに駆け寄った。
「おい、レイナード、しっかりしやがれ! こんな所で死なれたら、お前の顔を一生忘れられなくなっちまうだろうが!!」
抱き起こされたレイナードは、呼びかけに答えなかった。




