表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/30

クレアミス

 鐘が鳴り響いていた。空を見上げると、石の様な物体が浮き沈みしている。


 或るものは、自然界にあるような粗野な流線を形作っており、また或るものは、構造物とはいわないまでも整然としたその姿を(さら)していた。


 遥か彼方には、山脈の様に途方もない大きさの歯車が鎮座(ちんざ)しており、上空のそのまた更に向こうで、灼熱の炎とそれに引かれる車駕(しゃが)が紅い線を描きながら進み、時折降下してきた。


 混沌(こんとん)の中に世界が成立していた。その全てが出鱈目(でたらめ)だった。石が敷き詰められた足元でさえ、それが踏みしめるべき大地だと確信が持てなかった。


 レイナードは、当てど無く、その場所を彷徨っていた。果てを目指して歩いてみたが、それがない事に気が付いて歩みを止めた。


 すると、奇妙な事が気になりだした。自身がすっぽりと巨大な影に覆われていた。しかし、その影は空に浮かんでいる物体のそれではなかった。


 不思議に思い、辺りを見回すと無防備な心の内に念話(ロゴス)が響いてきた。


『時の管理人、トーマス・ラズウェルの息子よ』


 父の名前に驚いて、レイナードは辺りを見まわした。


『時の管理人の息子よ、我が名はクレアミス』


 その時、レイナードは初めて理解した。自分を覆っていた影の主が目の前に存在しているという事実を。


『今、お前がどうして、此処に存在しているのかがわかるか?』


 燦然(さんぜん)たる眩しさに目を細めるレイナードに時の支配者は告げた――


『レイナード・ラズウェルという人間は、今まさに死を迎い入れようとしている。しかし、我がこの場所に呼び寄せた。その卑小(ひしょう)な魂だけが肉体から離れて存在をしているのだ』


「此処はどこなのですか?」


『クレア山脈の頂の遥か上空……人の子らが時の神殿と呼ぶ場所だ』


「僕は死んでしまったのでしょうか?」


『今まさに冥府の門を潜ろうとしている。その前にお前に問いたい』


 ふと、足元を見ると少女が裾を引っ張っていた。


『ねえ、お兄ちゃんは何をそんなにも恐れているの?』


「僕が恐れている?」


『左様、(ぬし)は恐れているんじゃ。父親(トーマス)と同様に時に愛される事を。時の祝福を受けることを』


 背後で老婆が(ささや)いた。


「そんなこと、な……」


『いいえ、覚えがあるでしょう? 貴方はそんな時、いつも後ろを振り返る』


 目の前で司書の様な女性がいった。


『貴方は、時を拒んでいる。その結果――今、死を迎えようとしている。私は貴方に問います』


 真っ直ぐな瞳が(レイナード)を見つめていた。


『生きることを望みますか? それとも、全てを諦めますか?』


(愛するものを護るために、僕は騎士になった。けれど、僕は何も成し得ていない。僕は……)


『僕は生きたい……生きていたいんだ! 愛する人に、その全てを捧げるために!!』


 風がレイナードの頬を撫でた。司書の様な女性は、長い髪を揺らしながら微笑んだ。


『よかろう。ならば、後ろを見よ』


 振り返ると、(レイナード)がいた。いや、僕ではない(レイナード)だ。彼は、驚く僕を両手で抱きしめた。


『それがお前が恐れていたものの正体。お前が置き去りにしてきた自身の本質。全てを受け入れたお前は、その死を覆すことすら出来るだろう。忘れるな。時は、お前と共に在る』


 鐘が鳴り響いた。


 吹き付ける暴風に閉じた目を再び開けると、(レイナード)はあの瞬間に存在していた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ