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7 密林の大熊


森の中はまるでジャングルだった。薄暗く、湿った感じがした。足場も悪く、案内してくれる人がいなければ、すぐに迷ってしまいそうだ。



しばらく森の中を歩いていると、あたりできーきーと獣の鳴き声が聞こえ始める。徐々にその鳴き声は増えていく。



「森ざるじゃ。大丈夫、何もせん奴らじゃ。わしから離れるなよ」


そのままガローを先頭に歩いてゆく。一同はやや緊張しながらも森を進んでいく。


それは「しかし、多いのう」とガローがあたりを見回した直後だった。



突然ガローが、僕たちを制止する。身振りで声を出すな、隠れていろと伝えている。僕とニナは無言でうなずき、ポロとともにガローの後ろに隠れる。



すると僕らの前にのっそりと、大きな獣が現れた。


それは熊のような獣であった。3mはあろうかという大きさである。


「これは……、驚いた。どうしたものかのぅ」


ガローが熊を睨むようにして、呟く。


獣は黙ってこっちを見ている。


ガローはゆっくりとした口調で獣に「わしらはここを通り、町に行くだけじゃ。大丈夫、なにもせん。」と伝えた。



果たして獣には伝わっているのだろうか。



獣は鼻をスンスン鳴らした後


「ロアンのにおいすル。」


と言った。



僕は獣が話したことに驚く。



獣は再び鼻をスンスンと鳴らすと、僕の方を見た。



「お前、ロアンのにおいすル。」



獣はゆっくりと、僕に近づいてくる。



ガローが獣を睨んだまま剣に手をかける。



ニナはガローに隠れているように言われてから、怖がってずっとポロの後ろに隠れて顔をうずめていた。


僕はそうしている彼女を見て、とりあえずニナは大丈夫だろうと考える。ポロが守ってくれる。



問題は僕だ。あの熊の獣が僕の方に向かってきているのは確かみたいだ。獣は止まる気配もなくずんずんと僕の方に向かってくる。


焦りながらもどうするか頭の中で考える。獣は、ロアンのにおい、と言った。


僕はとっさに、本が入っている鞄を魔物側に投げた。


ロアンとは確か僕の持っている本で前書きあった者の名だ。だからおそらくロアンのにおいとはこの本から発せられているのだろう。そう考えた。


この本を獣に渡せばどうにかなるかもしれない。本は惜しいが、命に比べたら、なんてことはない。



獣は僕の投げた本をみた。


よし、うまくいったか。


獣はそれを拾いはしたが、だがしかし、持ったまま再び、僕の方に寄ってくる。


淡い期待はすぐに消え失せてしまった。


ほかに何かできることはないかと僕は頭をフル回転させる。



しかしこのわずかな時間に何もできることが思いつかずに、僕らまでわずか数mと獣が迫ったとき、


「はあぁぁぁ」


目の前のガローが意を決し、声を上げながら、前に飛び、獣に切りかかった。ガローの剣が火を纏い、目に見えぬほどの一閃を獣に向かって放つ。



こちらまで熱風が届くほどの熱さだった。




ガローが声を上げたことに驚いたらしいニナが、獣とガローを見た瞬間、


「だめっ」と叫んだ。


ガローはそのニナの叫びに驚き、剣先がすこし戸惑ったように見えたが、それでも僕らを守るために、獣に剣を振るう。


刃が獣に届く。


高い金属音が響いた。



ガローの炎の剣は獣に届いていた。



が、しかし、獣に弾かれたらしく剣を握ったまま彼は横に数メートル飛ばされていた。



目の前の獣はまるで何もなかったかのように、のそのそと僕に近づいてくる。



ガローはすぐに起き上がろうとするが力が入らないようだった。もはや獣は僕の目の前である。僕は恐怖で体が動かない。


獣が腕を大きく振り上げる。


終わった。



思わず目をつぶる。





「ジーク、大丈夫だよ」後ろからニナの声がした。


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