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8 勇者と姫

ニナの声がした後すぐにふわっと顔に何か毛のようになものが当たっていることに気が付いた。



目を開けると、視界は獣の毛でいっぱいであった。



驚いて呆けていると



「やっと会えタ。」



獣はそうつぶやいた。



僕は状況がわからず、されるがままにされていたが、まるで獣に包まれているかのようだった。獣も僕も動かないまま、しばらくそうしていた。


なんだか驚きで思考が止まってしまったが、そのうち獣臭さが我慢できなくなってどうにか獣から抜け出した。


どうやら獣は僕の前に膝を折って、僕を抱きしめていたらしい。


大熊の獣は名残惜しそうに僕を見ている。


ガローを探すと、傍に倒れたままで僕らを見ていた。彼も相当驚いているみたいで、見たこともないような間抜けな顔をしていた。


駆け寄って大丈夫だった、と伝えるとほっと息を吐く。


するとニナは突然獣の方に駆けてゆき獣に抱き着いた。


「あなただったのね!元気みたいでよかったわ!あのね、私ね、もう寂しくなくなったわよ!あなたももう大丈夫そう!それに、なんだかうれしそうね。」と獣に声をかけた。



僕とガローは目が飛び出るほど驚いて、声も出なかった。



獣は爪先でニナを優しく器用に撫でる。


「そうカ」


大熊の獣はニナに抱き着かれたまま、しばらく僕を見た後、僕の前に鞄をゆっくり置く。



「久しぶりに昔に戻った気分だっタ。ありがとう、ロアンの勇者ヨ。そして優しき姫もありがとウ」



そう残して、森の奥に消えていった。僕はほっと胸をなでおろす。何が何だかわからなかった。その後は、周りにいた森ザルなる獣たちも次第に散っていって数を減らしていった。


帰り道ニナにどうしてあの獣を知っているのかと聞く。


「昔のことでまだ小さかったからあまり覚えていないのだけれどここに来たばかりの時に、あの大きな熊さんが家に挨拶に来たのよ!ずいぶん前だからすっかり忘れていたわ。」



それを聞いたガローは狼狽えていた。


ニナはそれ以上例の獣については知らないようだった。まさかとは思うが、お隣さんとでも思っていたのだろうか。コミュ力お化け。



その後は何事もなく森の中の小屋に到着した。僕は緊張が解けてどっと押し寄せる疲労のせいで、しばらくは何もせずうなだれていた。


ガローは部屋の隅で何か考え込んでいた。


僕は疲れて寝っ転がりながら森の小屋の中を見渡してみる。ほぼ、普段住んでいる家と変わらないが、少し小さい。


真ん中に変わらず囲炉裏がある。


小屋の中には狩の道具であろうか、いろいろなものが吊り下げており、小屋に入る前には僕とニナはガローにそれらに触れないように言われていた。


きっとガローが普段の狩りでこの小屋を使っているのかもしれない。



ガローはしばらく考え込んでいたが、そのうち食材を鞄から出して料理を作り始めた。僕もニナもそれをみて手伝い、三人でいつものように晩御飯を作った。


今日は簡素な山菜の鍋だった。


三人と一匹で夕食を食べはじめてしばらくしてから僕は今日の獣のことをガローに尋ねる。


「あれは、森の主じゃ。」


そうガローは答えた。


「森の主というのはな、あの森を守っている魔獣じゃ。滅多に森の奥から出てこんし、一度それらしき足跡を見たっきりぱったりと現れなかったのじゃが。


ただ、たいそう大きい熊の魔獣であり、恐ろしく強いということは聞いたことあった。


実際、文字通り刃も立たんかったわい。」


ガローはそう言って笑いながらも目は笑っていなかった。


僕らを守れなかったことを引きずっているのかもしれない、と思った。


彼は僕らの方を向くと、怖い思いをさせてすまんのう、と申し訳なさそうに僕に謝った。



「あの子は、ジークを大切なものを見る目で見ていたわ。だから襲うはずなかったのよ」


どうしてわかるのか、と僕が彼女に聞くと


「見ればわかったもの。だってそうでしょ。ジークもガローを見れば、ガローが怒っているのがわかる、落ち込んでいるのがわかる。それと同じでしょ。あの子は嬉しそうだった。嬉しくて今にも泣いちゃいそうだった。どうしてガローたちはわからないの」


と少し怒っていた。


僕らは人間以外の動物の感情なんてわからない。人間でさえよくわからないものだ。


だから、違うと彼女に言い返そうと口を開こうとしたとき


カッカッカッとガローは笑って「それは天性というやつじゃの」と彼女を撫でた。


僕はその様子を見て、気が削がれてしまう。ガローはニナの扱い方を本当によく知っている。彼女は相変わらずぷんすかとしながら、頭に置かれたガローの手を気にせず、ご飯をもぐもぐ食べていた。


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