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ギフト犯罪探偵リゼット~冒険者パーティーを追放された俺は、天才探偵にスカウトされ、過去を視るギフトで事件と運命を書き換える~  作者: 久遠遼


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ギフト犯罪対策課へ

 ギフト犯罪対策課への短期所属契約を屋敷で済ませたあと、「さっそく調査開始だよ!」というリゼットの鬼のような行動力に引きずられる形で、俺たちは王都政務庁舎へとやってきていた。


 まだ朝だというのに、広い廊下を行き交う職員たちは皆、書類や木箱を抱え、せわしなく足を動かしている。そんな中を、リゼットは迷いのない足取りで進み、俺とエルナさんはその後ろをついていく。


 すれ違う職員たちが、リゼットの姿を見るたびに足を止め、軽く頭を下げていくのが妙に印象的だった。


「なんだか、思ってた以上に偉いんだな」


 小声で呟くと、前を歩いていたリゼットがぴくりと肩を揺らし、振り返った。


「まあね~。わたし、すごいんだよ?」


 胸を張ってどや顔を決めるリゼットに、思わずため息が漏れる。


「お嬢様は実際、かなり特別なお立場ですから」


 横からエルナさんがさらりと補足した。


「そこを詳しく聞くと面倒なことになりそうだから、今は聞かないでおく」


 俺はあえてリゼットの正体について考えることを放棄した。

 遅かれ早かれ知ることになるだろうけど、心の準備がもう少しだけ欲しかった。


 やがてリゼットが立ち止まったのは、庁舎の中でもかなり端に寄った一角だった。


 廊下の空気が、少しだけ静かになる。人の気配も他の部署に比べて薄く、どこか新しい場所特有の落ち着かなさがあった。


 壁には真新しい金属板が掛けられている。


 そこには、整った文字でこう刻まれていた。


 治安維持局 ギフト犯罪対策課


「ここが、わたしたちの職場だよ!」


 リゼットが両手を広げ、少し誇らしげに言う。


 俺は看板と、その奥にある部屋の扉を見つめた。


 昨日まで、俺はただの追放された冒険者だった。


 それが今は、王国の治安維持局。その中でも聞いたこともない新設部署の前に立っている。


 ……人生ってのは、本当に何が起こるか分からないな。


 室内は思っていたよりも広かった。


 中央には大きな机がいくつも並び、壁際には書類棚と鍵付きの保管棚が整然と配置されている。さらに奥には別室へ続くらしい扉が二つあり、そのうち片方の前には、見ただけで厳重そうだと分かる金属錠が取り付けられていた。


 ただ、人が少ない。


 いや、少ないというより、ほとんどいない。


「……随分静かだな」


「新設部署だからね。まだ人員は少ないの」


 リゼットはそう言いながら、窓際の机へ向かった。


「お嬢様の独断と権限と勢いで立ち上げたばかりの部署なので」


「エルナ、その言い方だと無理やり作ったみたいに聞こえるよ?」


「事実では?」


「うっ……」


 否定できないのか。


 リゼットはぐぬぬと唸りながらも、気を取り直すように一枚の書類束を机の上へ置いた。


「と、とにかく、さっそく捜査に取りかかるよ!」


 資料を軽く叩きながら、リゼットは話し出した。


「昨日、現場にあった大剣。あれが被害者ヴェイルに致命傷を与えた凶器だということは分かったよ」


 それについては、別段驚きはしなかった。


 遺体の状況から考えても、その可能性は高かった。だけど、それをわざわざ改めて確認したこと。そして、リゼットの言い方には、少し引っかかるものがあった。


「妙な言い回しだな。なにかあったのか?」


 リゼットは「うーん」と眉間にシワを寄せた。


「今回、現場にあった大剣について、二つの鑑定方法を使って調べてみたの。一つは対象同士の因果関係を調べるギフト。もう一つは、治安維持局が独自に開発した、成分を調べる魔法術式」


「それで? その二つでなにが分かったんだ?」


 俺がそう言うと、リゼットは紙の上にペンを走らせた。


「簡単に言うとね、まずは“被害者の傷が、あの大剣によってつけられたものか”を調べたの」


 リゼットは紙に、大剣と遺体らしき簡単な絵を描き、その間に線を引く。


「因果関係を調べるギフトは、対象を二つ、あるいは複数選んで、それらに関係があるかどうかを判定するものなの。今回は似た系統のギフトを持つ複数人で確認して、結果はすべて一致したよ」


「つまり?」


「被害者の傷は、間違いなくあの大剣によってつけられた。あの大剣が被害者を死に至らしめた凶器だということは、ほぼ確定しているね」


 俺は素直に感心した。


 ギフトの力は、魔法とは違い、世界そのものに干渉する特別な力だ。その価値は高いが、同時に不安定でもある。


 だからこそ、複数のギフトで同じ結果を確認し、情報の精度を上げたのだろう。


 ギフトを盲信するのではなく、裏付けを取りながら使う。


 治安維持局という組織は――いやリゼットは、思っていた以上にギフトの扱い方を心得ているらしい。


「そうだな……それなら間違いないと思う」


 俺がうなずくと、リゼットは再びペンを動かした。


「で、問題なのが次。成分を調べる魔法術式の方」


「成分?」


「魔法でサンプル同士を比較して、同じものかどうかを調べる術式よ。血液なら、血液同士を比べて一致するかどうかを確認できる」


 リゼットは、そこでわずかに表情を引き締めた。


「その術式で、大剣に付着していた血液と、被害者の血液を調べたの」


「……結果は?」


「一致しなかったの」


 その言葉に、俺は思わず目を見開いた。


「それは……どういうことだ? 傷は大剣と一致しているのに、血液は別人のものがついているってことか?」


 二つの異なる方法で導き出した結果が、噛み合っていない。


 一方は、大剣が凶器で間違いないと言っている。


 だけど、もう一方は、大剣に付着していた血が被害者のものではないと言っている。


 普通ならありえない矛盾だ。


「そう。だから、ノアのギフトの力が必要なの」


 リゼットが、エルナさんに視線を送る。


「ノア様、こちらへ」


 エルナさんに案内され、俺は奥の部屋へと向かった。


 金属錠のついた扉の前で、エルナさんが鍵を取り出す。


 重たい音を立てて、錠が外れた。


 扉が開いた瞬間、冷えた空気が頬を撫でる。


 部屋の中に入った俺は、思わず息を飲んだ。


 そこには、透明なケースに入れられた大剣があった。


 あの夜、森の中で見た血の匂いが、記憶の底から蘇る。


 冒険者ヴェイル・アディスの命を奪った、死の象徴。


 その大剣が、不気味な存在感を放ちながら保管されていた。

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