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ギフト犯罪探偵リゼット~冒険者パーティーを追放された俺は、天才探偵にスカウトされ、過去を視るギフトで事件と運命を書き換える~  作者: 久遠遼


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不穏な大剣

「これは……」


「うん……あの大剣だよ」

 

 派手さはないものの、Aランク上位の冒険者が持つものとして、上質な素材を使ったオーダーメイド品なのは一目で分かる。


 だけど、俺の意識が向けられたのはそこではない。

 刃に付着した、乾きかけの生々しい血液だった。


 昨夜は状況を把握するのに必死だった。

 だからだろう。改めてこれが、人の手によって人を殺す道具となった事実に、今頃になって寒気を覚えた。


「ノア……大丈夫?」


 俺の様子がおかしいことに気づいたリゼットが、顔を覗き込んでくる。


「あ、ああ……冒険者の死には慣れていたつもりだったんだけどな。

 それが人の手によるものだと思ったら……」


 その時、そっと背中に温かなものが触れた。

 振り返ると、エルナさんの手が俺の背に添えられていた。


「ノア様は優しいのでしょう……慣れないでくださいね。

 人が人を殺すということは、恐ろしいことです」


 慰めでも、元気づけでもなく、それは願いのように聞こえた。


 俺は小さく頷いてから、大剣へと視線を戻す。

 気づけば、さっきまでの寒気は少しだけ薄れていた。


「これから過去を抜き出せばいいんだな?」


「うん、頼むね」


 エルナさんが鍵を開け、ケースを開く。

 微かに血の臭いが鼻腔を刺激し、不快感が胃の底から競り上がってくる。


 それを無理やり飲み込み、俺は大剣へと触れた。


「――対象、《血に塗れた大剣》。《残響記録》」


 言葉を口にした瞬間、胸の奥でギフトが起動する。


 光の本が開き、白い頁に文字が刻まれていく。

 それを確認してから、俺はリゼットへ声をかけた。


「リゼット」


 リゼットは頷き、俺の腕に触れる。

 そして、にっと口元を緩ませた。


 俺たちは、残響記録によって引き出された過去の記録に目を通す。


 大剣は、ヴェイル・アディスの手によって振るわれた。

 対象は、影。

 ヴェイルへ害意を向け、襲いかかった者。

 交戦の末、影は勢いを失い、ヴェイルは反撃へと転じる。

 振り下ろされた大剣は、影の身体へ深く食い込んだ。

 刃は肉を裂き、骨を砕き、命を奪うに足る傷を刻む。

 その後、短い空白があった。

 大剣は、ヴェイル・アディスの手を離れた。

 血に濡れた刃は、地面へと落下した。


「これで確定したね」


「ああ。少なくとも、この大剣がヴェイルを殺したわけじゃない」


 記録が示している事実は明確だった。


 大剣はヴェイルによって振るわれ、犯人に致命傷を負わせた。

 その後、短い空白を挟んで、ヴェイルの手から離れ、地面へと落ちている。


 つまり、大剣が最後に記録しているのは、ヴェイルが殺される瞬間ではない。


 ヴェイルが、影に致命傷を負わせた瞬間だ。


「なのに、死んでいたのはヴェイルだった」


 影が受けたはずの傷。

 それが、なぜかヴェイルの死と繋がっている。


 少なくとも、そう考えなければ、この記録と現場の状況は噛み合わない。


「状況だけ見たら、カウンター型のギフトか、死を肩代わりさせるギフトみたいに見えるね」


 リゼットの言葉に、俺も頷く。


「念のため確認だが、そういう魔法術式は存在するのか?」


「ないよ。少なくとも、王都で正式に登録されている術式にはないよ」


 リゼットは即答した。

 俺も同意見だった。


 魔法でできるのは、起きる前の現象に干渉することだ。


 攻撃を防ぐ。逸らす。跳ね返す。

 あるいは、受けた傷を治す。


 そこまでは現象操作――魔法でできる。


 だけど、すでに刻まれた傷を別の誰かへ移すことはできない。

 それは現象操作ではなく、起きた事実の因果を書き換える行為だからだ。


 血の乾いた大剣へ視線を落とす。


 だから、これは魔法ではなくギフトが使われた可能性が高いというわけだ。


「状況を整理してみよう。まず、被害者ヴェイル・アディスは影――犯人に呼び出された。

 犯人は被害者に怒り、またはそれに類する何かを抱いていて、冷静ではなく襲いかかった」


 昨夜、残響記録で記述された内容を確認するように話す。


「そして、被害者は抵抗し、逆に犯人に致命傷を負わせた。

 ここまでは違和感を感じるところはないよな?」


 リゼットは頷く。


「うん。でも問題はそのあとだね」


「ああ。致命傷を負ったはずの犯人が、何らかの手段を使った。高い確率でギフトだと思うが……その結果、ヴェイルは死んだ」


「でも、まだ断定はできないね」


 リゼットの言葉に頷く。


「そうだな。移ったのが“傷”なのか、“死ぬはずだった結果”なのか。それとも、もっと別のものなのか。

 そこが分からないうちは、ギフトの正体を決めつけるのは危険だな」


 状況だけ見れば、犯人の傷がヴェイルへ移ったように見える。

 だけど、起きた現象の見た目と、ギフトの本質が同じとは限らない。


「これなら、治安維持局側で鑑定した内容に整合性がなかったことも説明できるな」


 ヴェイルの胸の傷は大剣のもの。

 だけど、付着した血液は別人のもの。


 その矛盾が、残響記録で導き出された過去の情報によって、一つの仮説へと繋がった。


 ただし、それはまだ仮説にすぎない。


「現状で得られるのはここまでだな」


「そうだね。次は被害者本人のこと、それから彼女のパーティーメンバーについて調べるよ」


 俺とリゼットは、お互いの顔を見て頷き合う。


「ふふ、息ぴったりですね。二人ともとても“良い色”をしています」


 今まで俺たちの様子を静かに見守っていたエルナさんが口を開いた。


「たまたまですよ……」


 何となく気恥ずかしくなり、俺は視線を外して後ろ髪に触れる。

 エルナさんはそんな俺の様子を見て、また、ふふっと笑った。


 けれど次の瞬間、その表情はすっと真剣なものへ変わる。


「被害者ヴェイル・アディスと、そのパーティー《不滅の残火》について調べた資料があります」


 エルナさんは、机の上に一冊の資料を置いた。


「……どうやら数日前、彼女たちの間で事件があったようです」


 ヴェイルが殺されてしまった理由。

 そこへ今、触れようとしていた。

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