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ギフト犯罪探偵リゼット~冒険者パーティーを追放された俺は、天才探偵にスカウトされ、過去を視るギフトで事件と運命を書き換える~  作者: 久遠遼


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過去の事件

 エルナさんが机の上に置いた資料は、数枚の報告書を革紐で束ねただけの簡素なものだった。


「もしかして、あの事件か……」


「ノア、知ってるの?」


 リゼットの問いかけに、俺は頷いた。


「ああ。冒険者の間ではかなり噂になったからな。《不滅の残火》がSランク昇格任務に失敗した事件は」


 エルナさんが肯定するように頷く。


「はい。おっしゃる通りです。数日前、《不滅の残火》はSランク昇格試験を受けています」


 Sランク昇格試験――Aランク上位のパーティーが、正式にSランクへ上がるために受ける特別任務。

 どの任務もかなりの難易度を誇り、俺もかつて受けたことがあるけれど、その時は本当に死ぬかと思った。


 昔を思い出すと同時に、胸の奥がきりりと痛む。

 俺は小さく首を振り、意識を資料へと戻した。


「通常の依頼とは違って、冒険者ギルドがパーティーの実力、連携、判断力を総合的に見るための任務になる。失敗すれば当然昇格はなし。場合によっては、しばらく再挑戦もできない」


 頷きながら、エルナさんが一枚目の資料へ視線を落とした。


「この任務の際、《不滅の残火》のリーダー兼タンクであるガルド・ロックフォードが死亡しています。そして、今回の被害者となったヴェイル・アディスを除き、現在確認されているメンバーはこの三名です」


 エルナさんが開いたページに記された名前を、俺は目で追った。


 エリシア・ルーン。魔術師兼治癒師。

 ジェイク・オーウェン。前衛剣士。

 リュカ・ハインツ。斥候。


 魔法火力と回復を担うエリシア。前衛火力のジェイク。そして、索敵や罠の発見を担当するリュカ。

 亡くなったガルドが前線を支える前衛盾兼リーダーで、殺されたヴェイルも前衛だったはずだ。


 構成だけ見れば、かなり安定したパーティーだ。

 少なくとも、Aランク上位にいるのは納得できる。


 エルナさんは少し間を置いてから、次の資料をめくった。


「Sランク昇格試験の内容は、ギガントバジリスクの討伐任務。場所は王都北西にある岩窟地帯。冒険者ギルドが選定した討伐対象で、危険度は高いものの、Aランク上位パーティーであれば達成可能と判断されていたようです」


「ギガントバジリスクか……」


 思わず眉をひそめる。

 

 バジリスク種は厄介だ。

 強靭な顎と爪。鱗に覆われた巨体。加えて、視線や毒による異常状態を引き起こす個体もいる。

 それが大型化したギガント種となれば、並の冒険者では近づくことすら難しい。


「でも、Sランク昇格試験なら妥当な相手ではあるね」


 リゼットが資料を覗き込みながら言う。


「はい。ですが報告によれば、戦闘中にリーダーのガルドが死亡。パーティーは戦線を維持できなくなり、撤退。任務は失敗扱いとなっています」


「リーダーが死んだなら、当然か」


 タンク兼リーダー。

 前線を支え、敵の攻撃を受け止め、仲間に指示を出す役割だ。

 そこが崩れれば、パーティー全体が一気に瓦解する。

 特に相手がギガントバジリスクなら、なおさらだ。


 苦楽を共にしてきた仲間の死。

 数日程度で受け入れられるようなものではない。

 俺自身――目の前でその現実を見せつけられ、もう少しで《不滅の残火》と同じ運命を辿っていた可能性がある。


「冒険者ギルドの調査では?」


 リゼットが尋ねる。


「不可解な点は見つかっていません」


 エルナさんは即答した。


「ガルドの死因は、ギガントバジリスクによる攻撃。残された装備、傷の状態、現場の痕跡、同行メンバーの証言。いずれも矛盾はなく、任務中の死亡事故として処理されています」


「つまり、ギルドとしては普通の事故死扱いか」


「はい」


 それなら、ここまでは不自然ではない。


 Sランク昇格試験。

 強力な魔物。

 戦闘中にリーダーが死亡。

 任務失敗。


 冒険者としては、決して珍しい話ではない。


 だけど、今の事件と重ねると、その沈黙には嫌な意味が生まれる。


「《不滅の残火》の活動記録を確認しましたが、ガルドの死亡以降、彼らが新たに依頼を受けた形跡はありません」


 それについても、おかしな点はない。

 メンバーが死亡して欠員が出たのだ。活動休止どころか、パーティー解散も十分考えられる。


 だけど――。


「それから、ギルド内で何度か口論が目撃されています」


「口論?」


「はい。残されたメンバー間で、揉めていたようです」


 エルナさんは資料の端を指で押さえながら続けた。


「ただ、具体的な内容までは確認できていません。ですが、複数の冒険者やギルド職員の証言によれば……」


 そこで、エルナさんは少しだけ言い淀んだ。


「ヴェイル・アディスが、他の三人から責められていたと」


 その一言で、場の空気が変わった。


「ヴェイルが……?」


「はい。複数人が同じように証言しているので、確かだと思います。ですが、怒鳴り声の内容までは聞き取れなかったようです」


 リゼットは目を細める。


「Sランク昇格試験でリーダーが死亡。その後、パーティーは活動停止。残されたメンバーは揉めていて、被害者のヴェイルが他の三人から責められていた?」


「ああ。そして今回、ヴェイルは何者かに襲われ、殺害された」


 昨夜、本に刻まれた言葉が脳裏に浮かぶ。


 ――理性を失った影。

 ――ヴェイルの懺悔。


 あの時の言葉の意味が輪郭を成し始めている。


「犯人が《不滅の残火》の関係者なら、動機はガルドの死か」


「可能性は高いね」


 リゼットは資料に視線を落としたまま言った。


「でも、まだ分からないことが多すぎる。ガルドの死に本当に不可解な点はなかったのか。ヴェイルはなぜ責められていたのか。犯人は誰なのか。そして……」


 リゼットはゆっくりと顔を上げた。


「なぜ、ヴェイルは懺悔していたのかだね」


 その言葉に、俺は息を呑む。


 そうだ。

 昨夜の記録で、ヴェイルはただ襲われていただけではなかった。

 懺悔していた。

 つまり、彼女自身にも何か後ろめたいことがあった可能性がある。


「次に調べるべきは、ガルド・ロックフォードの死亡記録。それから、《不滅の残火》の残されたメンバーだね」


「エリシア、ジェイク、リュカ……か。早速、調査を始めるか?」


 俺は三人の名前を口にする。

 そして死亡したリーダー、ガルド・ロックフォード。

 この中に、ヴェイルが殺される理由がある。


「うん。でも、その前にやるべきことがあるね」


 俺の問いかけに、リゼットは真剣な表情で答えた。


「やるべきこと?」


 なんだ?

 この流れで、調査より先にやるべきことって――。


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