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ギフト犯罪探偵リゼット~冒険者パーティーを追放された俺は、天才探偵にスカウトされ、過去を視るギフトで事件と運命を書き換える~  作者: 久遠遼


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裏切りの刃?

《不滅の残火》リーダー、ガルド・ロックフォードの討伐依頼中の死亡。


 事故として処理されていたそれは、彼の善性と、恋人を守りたいという思いを利用した計画的な殺人だった。


 討伐失敗による悲劇ではない。


 実際には、仲間による裏切りだったのだ。


「決まりだね……ここを本格的に捜査すれば、決定的な証拠が出てくるかもしれないね」


「ギガントバジリスクがどの天井を攻撃するか、ガルドがその時どこにいるかまでは予測できない。だから、まだ原形を留めている魔道具が残っている可能性がある、ということか?」


 リゼットの言葉の意味を察してそう答えると、どうやら当たりだったらしい。彼女はパチンと指を鳴らした。


「さっすが! 名助手だよ、ノア」


「それに、ジェイクも一枚噛んでいるだろうな。やつは金の扱い方でガルドと揉めていたしな」


「うん。それに、ここまで入念な計画だよ。戦闘時の実際の立ち位置や流れを作るには、後衛で魔法職のエリシアだけじゃ難しいよ。同じ前衛のジェイクがうまくコントロールしないと、成功確率は下がるだろうね」


 そこまで俺とリゼットが話した時だった。


 洞窟の奥ではなく、俺たちが来た道の方から、小石が転がるような音がした。


 反射的に振り返る。


「ちっ、やっぱり勘付きやがったか。腐っても元Sランク冒険者様ってわけか」


「感心してる場合じゃないでしょ? 相手、三人いるんだけど。本当に大丈夫なわけ?」


 暗がりから姿を現したのは、ジェイクとエリシアだった。

 二人とも、冒険者の装備をしっかり身にまとい、いつでも戦闘ができる格好だ。


「そんなんで気配を消してたつもり? 殺気、だだ漏れだよ?」


「ああ、そりゃ殺す気だからよ」


 まったく隠す様子もなく、ジェイクは言い放った。


 その言葉に、エルナさんの表情が厳しくなる。


「なぜ、そんなことをするのかしら?」


 ジェイクは大きくため息をつくと、大袈裟に頭を振った。


「ああ? そんなの分かりきってんだろ?」


 そして、醜悪な笑みをこちらへ向けてくる。


「お前たちは、知りすぎたってやつだよ。もうちっと探偵ごっこでもしてりゃ、こんなに早く死ぬこともなかったのによ」


 品性のかけらもないその表情は、まるで理性のない獣のように思えた。


「ふーん。つまり、自分たちがガルドの殺人計画を立てて実行しましたって認めるんだ?

 ずいぶんとあっさり認めるんだね、動機はなに?」


「死人に口なしっていうじゃねぇか」


 ジェイクは、自分が優位な立場にいると疑っていないのだろう。

 隠す気すらない下卑た笑みを浮かべ、べらべらと不快な言葉を垂れ流している。 

 

「ずっと目障りだったんだよ。あんだけ稼いでたのに、無駄遣いすんなってうるせぇしよ」


「そんなくだらない理由でか?」


「当たり前じゃない。ノア、あんたも元冒険者なら分かるでしょ? 私たちは命懸けで金を稼いでるの。それなのに自由に使えないなんて、たまったもんじゃないわ」


 エリシアの声には、罪悪感の欠片もなかった。

 ガルド殺害の動機。それは、俺がこいつらを人間として見る気すら失うには十分すぎるものだった。


「そっちは二人で、こっちは三人いるんだぞ? 勝てると思ってるのか?」


「はっ! 馬鹿か、てめぇ」


 俺の問いかけに、ジェイクは鼻で笑い、心底馬鹿にしたように吐き捨てる。


「役立たずってクビになった雑魚の魔法職に、探偵ごっこのガキ、メイド風情なんざ俺の敵じゃねえよ。一人で十分だ」


 そう言って、ジェイクは身の丈ほどあるハルバードを構えた。


 その瞬間、尋常ではない圧が洞窟内に広がり、俺は慌てて魔導書を取り出し、構えた。


 Sランクにも届きうる圧倒的な力を目の当たりにし、じっとりと嫌な汗が背中を伝う。


「くっ……気をつけろ。相手はAランク――」


 俺が声をかけようとした、その時だった。


 淡い光が、俺の視界を横切った。


 次の瞬間、目の前にいたはずのジェイクが、両腕と両足から血を流し、その場に倒れ伏した。


「は? ぐ、ぐがああああああっ!?」


「え、え……ジェイク? なんで、あんた……」


 エリシアは何が起きたのか分からず狼狽し、ジェイクもまた、自分に何が起きたのか理解できないまま絶叫するだけだった。


 痛みに悶えるジェイクを、いつの間にか背後に回り込んでいたリゼットが見下ろす。


「誰がガキなのかな? わたしがガキなら、お前はオークか何かじゃないかな」


「な、何をしやがった……?」


「別に? 普通に近づいて、切り刻んだだけだけど?」


「ば、馬鹿な……!」


 ジェイクの戸惑いに、リゼットは細剣をぷらぷらさせながら答える。


 だけど、リゼットの言う通りだった。


  俺には、かろうじて見えていた。彼女は本当に、ただ凄まじい速さでジェイクに接近し、剣を振るっただけだ。


「リ、リゼット……一体どうなってるんだ?」


 初めてリゼットと出会った日、彼女は俺に斬りかかってきた。あの時も尋常ではない速度で、なんとか反応できる程度だった。


 だけど、今のはその比ではない。


「ん? 言ったでしょ。わたしのギフトは、正しければ祝福を与えてくれるって。その一つがこれ」


「もう少し分かりやすく言ってくれ」


「要するに、超強くなるの!」


 お前、探偵だろ。

 もう少し順序立てて説明しろよ。


「まあ……いいや。とにかく、これでジェイクは無力化できた。それに、本人の口から犯行を認めるような発言も得られたからな。

 証拠もちゃんとある」


 俺は懐から、音声記録用の魔道具を取り出した。


「ちゃんと録音できてる?」


「ああ。もちろんだ」


 俺がそう言って魔力を流し込むと、先ほどジェイクが犯行を認めた音声が流れた。


 それを聞いて、ジェイクは声を荒げる。


「んなもん、証拠になるもんかよ!」


「あはは。さっきまではあっさり認めて、口封じすれば済むみたいな感じだったのに、不利になったらそれ? 小物すぎる」


「な、なんだと……!」


 ここぞとばかりにリゼットは煽る。

 これは相当、鬱憤が溜まっていたらしい。


「ここがわたしたちを口封じする絶好の場所だと思ったでしょ? でも、違うんだよね」


「な、何よ……まるで、うちたちが誘き出されたみたいじゃない」


「そうだよ」


 リゼットはあっさりと言った。


「お前たちがガルドの死に直接絡んでいるかもしれない。そう思ったからこそ、入口にいたギルド職員を帰らせたの。巻き込むわけにはいかなかったからね」


 エリシアの顔色が変わる。


「それにね、前からその可能性はあると思ってたよ。だから二回目に話を聞きに行った時、あえてギガントバジリスクの巣穴へ向かうことを伝えたわけ」


 それについては、俺も初耳だった。


 まさか、あの時点ですでにリゼットはここまで読んでいたのか。


「ここなら、わたしたちをまとめて消せる。そう考えるなら、犯人は必ず動くと思ったから」


「な、そんな……嘘よ。本当に、まんまと誘き出されたっていうの……?」


「そうだよ。方針や状況を簡単に話す治安維持局職員なんて、普通はいないよ。確証はなかったけど、結果的には予想通りだったね」


 地面に倒れ伏すジェイクは、悔しさに血が滲むほど唇を噛み締めた。


 一方のエリシアは、力が抜けたようにその場へ座り込む。


 それを見て、俺は大きく息を吐き、肩の力を抜こうとした。


 その瞬間だった。


 背筋がぞわりと粟立ち身体の奥で、警鐘が鳴った。


 これは、殺意だ!

 悍ましいほどに濃く、強烈な殺意。


「リゼット!」


 叫ぶと同時だった。

 俺の横を、凄まじい速度で何かが駆け抜ける。

 次の瞬間、ギンッ!、と金属同士がぶつかる音が洞窟内に響いた。


「え……今度は、何……?」


 戸惑うエリシアに背を向けるようにして、リゼットが立っていた。


「もう犯人たちは自供した。証拠も揃ってるよ」


 リゼットは、目の前で剣を交える相手へ静かに語りかける。


「だから、もうやめない? エルナ……」


 そこには復讐に取り憑かれた者の目で、剣を振り下ろすエルナさんがいた。

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