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ギフト犯罪探偵リゼット~冒険者パーティーを追放された俺は、天才探偵にスカウトされ、過去を視るギフトで事件と運命を書き換える~  作者: 久遠遼


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ギガントバジリスクの巣穴へ

リゼットが自身のギフト《真理宣言》を発動させた、その日の午後。


 エルナさんと合流した俺たちは、《不滅の残火》がギガントバジリスク討伐に挑んだ森の奥――その巣穴へと向かっていた。


 目的は二つ。


 一つは、ガルドの残りの武具の回収および調査。


 もう一つは、エリシア・ルーンが討伐前に購入していたという、設置型魔道具の痕跡を探すためだ。


「完成品じゃなくて、空の器だったんだよね」


「ああ、その通りだ」


 森の中を進みながら、リゼットの問いかけに答える。


 空の器。それは、あらかじめ術式が組み込まれた魔道具ではなく、使用者があとから任意の術式を入れ込む形式のものだ。

 情報屋の話では、エリシアは任務の前に大量の設置型魔道具を買い込んでいたらしい。


 それ自体は、決して不自然なことではない。


 相手はギガントバジリスクだ。

 巨体に加え、石化のブレスを吐く危険な魔物。正面から挑むだけでなく、罠や拘束、障壁、足止め用の魔道具を準備するのは、冒険者として当然の判断と言える。


 けれど、問題はそこではなかった。


「利便性は高い。使い手の技量さえあれば、状況に応じて様々な魔法を発動できる。けど……」


「購入時の段階では、それが何の魔法を発動するための魔道具なのか分からないな」


 俺がそう続けると、リゼットは小さくうなずいた。


「討伐準備としては自然だよ。でも、何を仕込んだか分からない形を、わざわざ選んでいるようにも見えるね」


「まるで、証拠を残しにくくするためみたいに、か」


「うん。そういうこと」


 リゼットは、前を向いたまま淡々と言った。


「ジェイクとエリシアに動きはなかったわ。勘づかれる前に調べてしまいましょう」


 エルナさんの言葉に、俺とリゼットはうなずく。


 森の奥へ進むにつれ、空気が重くなっていった。

 木々はまばらになり、ところどころ地面が大きく抉れている。巨大な何かが暴れ回ったような跡が、今も生々しく残っていた。


 やがて、視界の先に大きく口を開けた洞穴が見えた。

 ギガントバジリスクの巣穴だ。


 その手前には、ギルド職員らしき男が二人立っていた。簡易的な柵が置かれ、周囲は封鎖されている。


「お疲れ様。中の様子はどう?」


 リゼットが声をかけると、職員の一人が訝しげに眉をひそめた。


「なんだ、お前たちは? ここから先は立ち入り禁止だ。ギルドの許可なく入ることは――」


「まあまあ。これを見てよ」


 リゼットは懐から一枚の書類を取り出し、差し出した。


 それを受け取った職員は、書面に目を通した瞬間、露骨に顔色を変える。


「ギ、ギルドマスターの指示書……?」


「そう。ここの持ち場は、今からギフト犯罪対策課が引き継ぐよ。危険だから、君たちは一度下がってね」


「し、しかし……」


「ギガントバジリスクの巣穴周辺には、未発動の設置型魔道具や、毒性のある残留魔力が残っている可能性があるの。対応を間違えたら君たちにも被害が及ぶかもしれないよ」


 リゼットは脅しているわけではなく事実を並べているだけだ。 

 だからこそ、職員たちの表情が一気に強張る。


「それに、ギルドへ交代のことを伝えてほしいから、二人とも戻ってくれるかな?」


 職員たちは互いに顔を見合わせた。

 反論する理由はなかったのだろう。二人は小さく頭を下げると、足早にその場を後にした。


「……いつの間にそんなもの手に入れたんだ?」


「マスターにお願いしたらくれたよ」


「お願いで出るものなのか……いや、そうか」


 リゼットの本名は、リゼルディア・セレスト・フォン・エクセリア。

 その正体が、この国の王女だと知った今となっては、ギルドマスターに働きかけていたとしてもたいして驚きはなかった。


「そうそう。使えるものは使うべきだよ」


 リゼットは当然のように言った。


「ノアくんは、もうリゼットのことを?」


「ああ。さっき、話の流れで知ることになった」


「びっくりしたよ。急に膝まずいて敬語になったんだよ?」


「びっくりしたのはこっちだ。不敬罪で処されるのはごめんだからな」


「でも、もう普通に喋ってるわよね?」


「本人から許可をもらったからな」


 そう言いながら、俺は懐から小さな魔道具を取り出した。


「それは? 音声記録用の魔道具かしら?」


「ああ。リゼットから許可を得た証拠を取っておけば安心だからな」


「そんなことしなくても大丈夫なのに」


 リゼットは口を尖らせるけれど、不満げではなかった。

 むしろ、その方がいいと言いたげに見える。


 リゼットが王女なのかもしれないというのは、薄々感じてはいた。

 けれど、本人から明かされていないうちは、知らなかったで通すつもりだった。


 だけど、知ってしまった以上、そうもいかない。

 自分の身を守るためにも、記録できる魔道具を常に持ち歩いていてよかった。


 ……というのは建前で。


 今となっては、リゼット相手に遠慮したり、恭しく接したりする方が、どうにも癪だった。

 こいつとは、このまま対等でいたかった。


 俺たちのやりとりを見て、エルナさんはふふっと優しげな笑みを見せる。


「ほんと、二人ともいいコンビだこと」


 その言葉に、胸の奥がわずかにざわついた。


 リゼットから告げられた衝撃の事実。

 それを表に出さないようにはしているけれど、エルナさんには《感情色覚》がある。

 俺たちが彼女を怪しんでいることなど、とっくに見透かされているかもしれない。


 ちらりと彼女の横顔を見る。

 静かで、落ち着いていて、いつも通りのエルナさんに見える。


 だからこそ、余計に分からなかった。

 なぜ、エルナさんがリュカの四肢を持ち去っていたのか。

 本当に彼女が、この事件に関わっているのだろうか。


「……エルナ」


 ふいに、リゼットが口を開いた。


「やっぱり、わたしとノアからは良い色が出てる?」


 エルナさんは、じっと俺たちを見つめて、ほんの少しだけ間をあける。


「……ええ。とても良い色をしていると思うわ」


「そっか」


 リゼットは小さく笑った。


「うん。わたしとノアは、もう最高のバディだよ」


「まだ結成して二日だぞ。早すぎるだろ」


「時間は関係ないよ。大事なのは相性。信頼できるかどうかだよ。ね、エルナ?」


「ええ、そうね。リゼット」


 優しく微笑んだエルナさんに、リゼットも微笑み返した。

 けれど、その笑みが俺には、どうしようもなく悲しげなものに見えた。


 リゼットは視線を洞穴の奥へ向ける。


「……行こうか」


 「ああ。そうだな」


 真っ暗な洞窟の口を前に、俺は魔導書を取り出した。


「ルイン」


 ぽう、と丸い光が闇の中に浮かび上がる。

 

 リゼットの声にうなずき、俺たちは洞穴へと足を踏み入れた。

 この一連の事件の、はじまりとなったであろう場所へ。

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