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ギフト犯罪探偵リゼット~冒険者パーティーを追放された俺は、天才探偵にスカウトされ、過去を視るギフトで事件と運命を書き換える~  作者: 久遠遼


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切断された手足の行方

「じゃあ、行ってくるわね」


「うん、頼むね。わたしたちは資料と、今後の方針を整理しておくから」


 短いやり取りのあと、エルナさんを見送る。


 広い部屋の中に、俺とリゼットだけが取り残された。

 テーブルの上には、まだ紅茶の香りが微かに漂っている。


 カタン……。


 カップを置く音が、やけに大きく響いた。


 リゼットは伏し目がちに、カップへ視線を落としている。


 いつものように軽口を叩くこともなく、何かを考え込むように黙り込んでいた。


 今まで見たことのないその様子に、話しかけてはいけないような気がして、俺は口を開きかけては閉じる。


 どれくらい、そうしていただろうか。


 こんこん、とドアがノックされた。


「入って」


「失礼いたします」


 ドアが開き、入ってきたのは、屋敷の中で何度か顔を合わせた執事長だった。


 古株の家人で、リゼットがエルナさんと同じくらい信頼している人物だという。


「どう?」


「はい。予定通りに」


「分かった。ありがとう」


 それだけ聞くと、リゼットは静かに立ち上がった。


「ノア……ついてきて」


「あ、ああ」


 返事をする頃には、リゼットはすでに歩き出していた。


 俺は慌ててその背中を追いかける。


「急にどうしたんだ? 予定通りって、何がだよ」


 廊下を歩きながら問いかける。


 けれどリゼットは振り返らず、前を向いたまま口を開いた。


「リュカの事件。彼女の四肢が切断されて持ち去られた理由、ノアは何だと思う?」


「……最初は、身元を隠すためかと思った」


 遺体の状況を思い出しながら、俺は答える。


「手足に残る指紋や足紋が人物特定に繋がるなら、それを隠す意味はある。だけど、それなら顔を潰さないと意味がない。実際、顔を見れば遺体がリュカだとすぐに分かった」


「うん」


「なら、考えられるのは……リュカが何に触れたのか。それを分からなくするためか?」


 そう答えると、リゼットは歩く速度を緩めないまま、小さく頷いた。


「半分正解」


「半分?」


「手足には、その人が何を掴み、どこを歩き、何に触れたかが残る。そう言ったよね?」


「ああ」


「でも、残るのはそれだけじゃないよ」


 リゼットの声が、わずかに低くなる。


「何に触れられたのか。どんな傷をつけられたのか。それも分かる」


「……なるほどな」


「対策課なら、傷に残った因果を読める。成分も拾える。つまり、どの武器でつけられた傷かまで分かるよ」


 俺は息を呑んだ。


 ヴェイルの傷が彼女の武器によるものだと分かったのも、因果関係を調べるギフトを持つ職員たちの確認があったからだ。


 さらに、魔法術式によって付着した成分を調べることで、この不可解な事件の輪郭が見え始めた。


 けれど――。


「ノアは、それを知ってた?」


「……知らなかった」


 そう答えた瞬間、胸の奥に嫌なものが落ちた。


 知らなかった。元Sランク冒険者だった俺ですら、今回の事件に関わるまでそんな捜査手段があるとは知らなかった。


 だったら、それを知らなければ、手足を持ち去る意味にも気づけないはずだ。


「まさか……」


 リゼットがちらりと俺を見る。


 その顔には、困ったような、痛みを堪えるような笑みが浮かんでいた。


「やっぱり、ノアはさすがだね。これだけで分かっちゃうんだ」


 やがてリゼットは、一つの部屋の前で足を止め、俺の方を振り返る。


「因果関係を調べるギフトも、成分を調べる魔法術式も、通常は外部に漏らせない。治安維持局の最重要機密の一つだよ」


 嫌な予感が、ゆっくりと形になっていく。


 リゼットは険しさを増した表情で続けた。


「リュカの手足には、彼女を追い詰めた人物の武器の痕跡が残っていた。だから、その人物は持ち去ったんだと思うの」


「自分に繋がる証拠を消すために……」


「うん。そして、その危険性を理解できるのは、治安維持局の内部事情を知る人間だけ」


 リゼットは、目の前の扉へ視線を移した。


「さらに、Aランク上位の冒険者だったリュカを追い詰められる実力者。うちの職員で、そこまでできる人物となると、かなり限られるの」


「……待てよ」


 声が掠れた。分かりたくなかった。


 けれど、リゼットがここへ俺を連れてきた時点で、答えはもう出ている。


「まさか……」


 俺も、リゼットと同じように扉を見る。


 そこに掛けられたネームプレートへ視線が吸い寄せられた。


「うん……そうだよ」


 リゼットの声は、いつになく硬かった。


「リュカの手足を切断して持ち去ったのは、彼女だよ」


 ネームプレートには、場違いなほど可愛らしい文字で、こう書かれていた。


 ――エルナの部屋。

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