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ギフト犯罪探偵リゼット~冒険者パーティーを追放された俺は、天才探偵にスカウトされ、過去を視るギフトで事件と運命を書き換える~  作者: 久遠遼


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不滅の残火、パーティハウスへ②

朝食を済ませたあと、俺たちは《不滅の残火》のパーティーハウスへと向かった。


 客間の中央に置かれたソファには、俺とリゼットが並んで座っている。その後ろにエルナさんが控え、対面にはジェイクとエリシアが腰を下ろしていた。


「昨日の今日で何の用だ。お役人さんってのは、よっぽど暇なんだな。こちとら毎日、命懸けで暮らしてんのによ」


 ソファにもたれかかり、ジェイクが心底面倒くさそうに口を開く。


「うん、そうだね。朝から見たくもない悪人顔を見に来るくらいには暇だよ」


「ああ? また話が聞きてぇって言うから協力してやってんのに、なんだその態度は」


「だったら、協力している人間の態度をしてよ」


 客間に通されて早々これだ。


 やっぱりこいつら、相性が悪すぎる。


 そう思っていたところで、ローテーブルの下から、リゼットが俺の足を軽くとんとんと小突いてきた。


 なるほど。


 その方向で話を進めろ、ということか。


「……とにかく、話を進めるぞ」


 俺はジェイクとエリシアの表情を、改めて正面から見据えた。


「今朝、リュカ・ハインツが遺体で発見された」


 そう告げた瞬間、部屋の空気が変わった。


「あぁ?」

「え……どういうこと?」


 二人の反応を注意深く観察する。


 ジェイクもエリシアも、本気で驚いているように見えた。

 だけど、昨日エルナさんが見た感情の色を思えば、それをそのまま信じるわけにはいかない。


 こいつらの腹の底は、まだ見えない。


「今回のリュカの事件。そして、ヴェイルの事件。この二つについて、何か心当たりはないか?」


 俺はあえて、言葉の端に疑いを滲ませる。


 お前たちも関わっているんじゃないのか。


 そう受け取れるように。


 リゼットがジェイクの挑発に乗ったのも、二人を苛立たせ、何かを引き出すためだろう。


 まあ、半分くらいは本気で苛立っているようにも見えるが。


 どちらにせよ、この張り詰めた空気は使える。


「俺らのこと疑ってんのか?」


 狙いどおり、ジェイクはさらに不機嫌そうに顔を歪め、ギロリとこちらを睨みつけてきた。


「二人とも、お前たちの仲間だ。関係ないと言う方が不自然だろ」


「じょ、冗談じゃないわよ! リュカのことは知らないわ!」


「リュカのことは、か」


 俺はその言葉を拾う。


「まるで、ヴェイルのことなら知っているみたいな言い方だな」


「そ、そんなの言い方の問題でしょ!」


「リュカ本人から聞いている。お前が、ヴェイルがギフトの発動を拒んだことを話したとな」


 そう告げると、エリシアは目を見開き、すぐに舌打ちした。


「ちっ……あの娘、余計なことを……」


 昨日のリュカの様子を思い出す。


 この二人とは違い、リュカはガルドのことを本当に大切に思っているように見えた。


 そんな彼女が、ヴェイルは自分可愛さにガルドを見殺しにしたのだと聞かされたら、どう動くか。


 想像は難しくない。


「お前たちがリュカのヴェイルへの復讐心を煽り、殺害させた。そのあと、口封じも兼ねてリュカを殺した。そう考えることもできるな」


 本気でそう思っているわけじゃない。

 けれど、完全に無関係だとも思えなかった。


 だから、揺さぶる。


「だから、知らないって言ってるでしょ! うちがそれを言ったとして、それが何? もし本当にリュカがヴェイルを殺したとしても、うちには関係ないわよ! 勝手にやったことなんだから!」


「さあ、どうだろうな」


 俺は肩をすくめ、あえて小馬鹿にするように見せた。


「てめぇ……人をおちょくってんのか?」


「昨日、あなたたちはノアのことを散々馬鹿にしたよね」


 そこで、リゼットが静かに口を挟んだ。


「自分たちが同じことをされるのは、我慢できないんだ?」


「ああ!? なんだとてめぇ!」


 さすがにやりすぎだと思い、俺は横目でリゼットを見る。


 けれど、リゼットの目は完全に据わっていた。


 ああ。


 これは単純に、キレているやつだ。


「……とにかく」


 俺は場を戻すように、二人へ視線を向ける。


「本当に何も知らないんだな?」


「ああ、知らねぇよ」


 ジェイクは吐き捨てるように答えた。


「うちだって知らないわよ。リュカが死んだなんて、今初めて聞いたんだから」


 二人の声には苛立ちが混じっている。


 だけど、その苛立ちの奥にあるものまでは、まだ見えない。


「じゃあ、質問を変えるよ」


 リゼットが、今度は淡々と口を開いた。


「ガルド氏の武具は、どこにあるの?」


「あ? 治安維持局のやつらが回収しただろ」


「ほとんどはね。だけど、盾と一部の防具が回収されていないの。あなたたちが持っている可能性は?」


「知らねぇよ。ギガントバジリスクの巣穴にでも残ってんじゃねぇか?」


 ジェイクは吐き捨てるように言った。


 その言葉に、俺は眉をひそめる。


 昨日、対策課へ戻ったあと、回収済みのガルドの武具には残響記録を使っている。


 だけど、そこから得られた情報は少なかった。


 致命傷を負った瞬間に身につけていたはずの盾や一部の防具がなければ、ガルドの死の詳細には届かない。


 とはいえ、それが本当にギガントバジリスクの巣穴に残っているのなら、回収は簡単じゃない。


 ギガントバジリスク。


 Aランク上位パーティーが挑み、なお犠牲者を出した化物だ。


 もし鉢合わせるようなことになれば、ただでは済まない。


「そうか。それなら――」


「現地を確認する必要があるね」


 諦めるしかない、と言いかけた俺の言葉を、リゼットがあっさり遮った。


「本気か?」


「うん」


 リゼットは当然のようにうなずく。


「昨日、対策課で討伐任務の報告書を確認したでしょ? ギガントバジリスクは不滅の残火との戦闘で深手を負って、その後、巣穴の奥に逃げ込んだ。完全に討伐されたわけじゃないけど、調査隊の報告では、今は休眠状態に入っている可能性が高いって書かれていたよ」


 そういえば、そんな記述があった。


 ギガントバジリスクのような大型魔物は、致命傷に近い傷を負った場合、回復のために活動を停止することがある。

 魔力消費を最低限まで落とし、外敵の少ない巣穴の奥で、長い眠りにつくのだ。


 もちろん、安全という意味ではない。


 眠っているだけで、死んでいるわけではないのだから。


「つまり、こちらから下手に刺激しなければ、巣穴の入り口付近や戦闘跡を調べることくらいはできる、ということか」


「そういうこと。奥まで踏み込むかどうかは、現地を見て判断すればいいよ」


「……なるほどな」


 危険はある。


 だけど、ガルドの武具がそこに残っている可能性がある以上、調べないわけにもいかない。


「なら、一度確認してみる価値はあるか」


 そう結論づけたときエリシアが、明らかに狼狽した。


「あんたたち、正気? あんたらだけで行くなんて死ぬわよ?」


「聞いてなかったのか? ギガントバジリスクは休眠状態に入っている可能性が高い」


「それでも、あんな化物の巣穴に行くわけ? やめておいた方がいいんじゃないの?」


「ふーん」


 リゼットが、じっとエリシアを見つめる。


「気味が悪いくらい優しくなったね。そんなに心配してくれるんだ?」


「べ、別に……そういうわけじゃ……」


「それとも、わたしたちがそこに行ったら都合が悪いのかな?」


「……っ」


 エリシアは言葉に詰まり、わずかに目を逸らした。


 その一瞬を、リゼットは見逃さなかった。


 俺もまた、背後に控えるエルナさんの気配を意識する。


 今、エルナさんには何が見えているのか。


 問いかけたい衝動を抑え、俺は黙ってエリシアを見据えた。


「てかよ、もう聞きたいことねぇなら帰ってくんねぇか?」


 ジェイクが苛立ったように口を挟んだ。


「こっちはまた仲間を失ってんだ。少しは気持ちに配慮しろや」


 その声に、仲間を失った痛みはなかった。


 あるのは、ただ面倒事を追い払おうとする苛立ちだけだ。


「そうだな。悪かったな」


 俺は短く答え、立ち上がる。


「行こう、二人とも」


 リゼットとエルナさんも席を立つ。


 決定的な何かを得ることはできなかった。


 けれど、今回の事件とガルドの死が繋がっているのではないかという疑念は、より深くなった。


 そして、もう一つ。


 ギガントバジリスクの巣穴。


 そこへ向かうと告げた瞬間、エリシアは確かに動揺した。


 ならば、調べる価値はある。


 巣穴に何があるのか、そしてこのパーティーにいったい何があったのかを。


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