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ギフト犯罪探偵リゼット~冒険者パーティーを追放された俺は、天才探偵にスカウトされ、過去を視るギフトで事件と運命を書き換える~  作者: 久遠遼


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リゼットの陰

リュカのものと思われる短剣。


 それに《残響記録》を使った結果も、ほぼ予想通りのものだった。


「この短剣を最後に使ったのは、リュカみたいだな」


「そうだね。二つの事件とも、同じギフトが使われていると見ていいかもしれないね」


「なあ……これってやっぱり、ヴェイルのギフトなのか?」


 触れた対象の傷を請け負うギフト。


 もし二つの事件でそれが使われていたのだとすれば、止めを刺したはずの方が最後に倒れるという不可解な現象にも説明がつく。


 だけど、リゼットはすぐには頷かなかった。

 リゼットは短剣を見つめたまま、話す。


「ヴェイル本人は死んでいるよ? そもそもだよ。仮に最初の事件でヴェイルがギフトを使ったとする。だったら、どうしてわざわざ自分が死ぬようなことをしたのか。そこを突き止めないといけないよ」


「そうだよな……しかも、今回の事件の時点で、そのヴェイルはもう死んでいる」


 状況は奇妙なほど似ていた。


 どちらの事件でも、ヴェイルの《傷の請負》に似た現象が起きている。


 だけど、そのギフトの持ち主であるヴェイルは、第一の事件ですでに死亡している。第二の事件に関わることはできない。


 そして、第二の事件で大きく違うのは、被害者の手足が切断され、持ち去られていることだ。


 おそらく、犯人が何らかの目的で持ち去ったのだろう。


「結局のところ、ヴェイルの遺体にもう一度《残響記録》を使ってみるしかないか」


 常識の通じない世界に干渉する力。

 ギフトが絡むと、ここまで厄介になるのか。


 手がかりがあるようで、ない。

 掴めそうで、掴めない。


 そんな感覚だけが胸の内に残っていた。


「ちょっと待って、ノア」


 そこでリゼットが口を挟んだ。


「ここからだと、《不滅の残火》のパーティーハウスが近いよ。先に残りの二人に話を聞いてみようよ」


 その提案に、俺は思わず眉をひそめる。


「昨日話を聞いたばかりだろ? それよりも、昨日話したみたいにヴェイルの遺体から新しい情報が取れるか試した方がいいんじゃないか?」


「それは視野が狭いよ、相棒くん」


 リゼットは片目を閉じ、人差し指を小さく振った。


「物事は広く見ること。そして、些細な変化を見逃さないこと。探偵に必要なのは、そこだからね」


「……それで?」


「リュカの死を知らされた時、残りの二人がどんな反応をするのか見ておきたいんだ。それに、パーティーハウスにはまだ調べていないものも残ってる。たとえば、リーダーだったガルドの武具とかね」


 う、うぜぇ……。


 だが、リゼットの言うことにも一理ある。


 《残響記録》で見えるものは、あくまで物に残された過去だ。


 人間の表情。声の揺れ。言葉を選ぶ間。


 そういうものは、実際に向き合わなければ見えない。


「たしかにそうだな。わかった。まずは《不滅の残火》のパーティーハウスへ向かう。そこからだな」


「うんうん、その通り! それにね――」


 そこで、リゼットの顔からふっと無邪気さが消えた。


「ギフトの力だけに頼っていたら、ろくなことにならないからね」


 声の温度が、わずかに下がる。


「身を滅ぼすことになりかねないから」


「…………」


 その一瞬、目の前にいる少女が別人のように見えた。


 俺は思わず一歩後ずさる。


 時々、こいつから感じる狂気じみたもの。


 謎を解くこと。

 ギフトという存在。

 そして、それに取り憑かれたような執着。


 リゼット。

 お前はいったい、何を抱えているんだ?


「よし! それじゃあ早速行くよ――の前に、お腹空いちゃった!」


 けれど、次の瞬間にはころっと表情を変え、リゼットはいつもの調子に戻っていた。


 こいつ、本当に切り替えが早い。


「それだったら、この近くに治安維持局の支所があるわ。そこで簡単な朝食をご準備しましょうか」


 エルナさんがそう提案する。


「やったね! ほら、ノア行くよ!」


「あ、ああ……」


 リゼットに急かされ、俺たちは現場を後にした。


 ◇◇◇


 治安維持局の支所は、《不滅の残火》のパーティーハウスを少し通り過ぎたあたりにあった。


 王都の二等地。


 貴族街ほど格式張ってはいないが、下町ほど雑多でもない。商会や支所、上位冒険者向けの施設が並ぶ、落ち着いた区域だ。


 職員たちはリゼットの姿を見るなり、妙に慌ただしくなった。


 慣れた様子で頭を下げ、俺たちを奥の部屋へ案内する。


 しばらくして、給仕室へ向かっていたエルナさんが戻ってきた。


「お待たせ。できたわよ」


 テーブルに並べられたのは、サンドイッチにサラダ、それに温かなシチューだった。


 よくこんな短時間で、これだけのものを用意できたものだ。


 しかも、どれもシンプルながら丁寧に作られていて、とても美味しそうだった。


「いただきまーす! うーん、おいしい!」


 料理が並べられた瞬間、リゼットは真っ先に食いついた。


 エルナさんのことをすごく食べると言っていたが、こいつも大概な気がする。


「う~ん……ん?」


 幸せそうに紅茶へ口をつけたリゼットが、ふと首をかしげた。


「エルナ、どうしたの? 紅茶の味と温度、少し違うよ?」


 俺も自分の紅茶を飲んでみる。


 昨日飲んだものと同じ種類の茶葉だろう。味も温度も、俺にはまったく同じに思えた。


「そうか? 俺には同じに思えるが」


「いや、間違いないよ。エルナはわたしの好みをドンピシャで紅茶に反映してくれるから。なんなら、その日の気分に合わせて〇・〇一度単位で温度調整だってできるんだよ!」


 なんだ、それは。

 そんなこと本当にできるのか。


 というか、お前もそんな違いが分かるのか。


 そう突っ込もうとしたところで、エルナさんが小さく息を吐いた。


「そうね……少し、気が散っていたのかもしれないわ」


 エルナさんは、紅茶のカップを見つめる。


「私がリュカ・ハインツを取り逃がさなければ、第二の事件は起きなかったかもしれないから」


 その言葉に、俺は何も言えなくなる。


 結局、なぜリュカが俺たちを――いや、俺を襲ったのかは分かっていない。


 そして、結果的に俺たちを襲ったと思われるリュカは死亡した。


 仕方なかったとはいえ、真面目なエルナさんが責任を感じるのも無理はない。


「エルナさんだけのせいじゃない。今は前を向こう」


 結局、俺には当たり障りのないことしか言えなかった。


 下手な慰めは、かえって彼女を傷つける気がしたからだ。


「そうね……ありがとう、ノアくん」


 エルナさんがそう返してきた時だった。


 リゼットが、じとっとした視線をこちらへ向けてくる。


「ふーん……ノアくん、ね。二人とも、なんか急に距離近くなってない?」


 口を尖らせ、不満げに呟く。


「あら。リゼット、もしかして妬いてるのかしら?」


「な、なっ……そんなことないよ!」


 エルナさんは余裕たっぷりに笑う。


 リゼットは分かりやすく頬を膨らませた。


 だけど、エルナさんはすぐに穏やかな笑みを消し、真面目な表情に戻った。


「それはそうと、ノアくん。少し気になったことを聞いてもいいかしら?」


「なんだ、エルナさん?」


「あなたの《残響記録》は、生きている人間には使えないのかしら? これから残りの二人に事情聴取をするなら、その場で過去を見れば犯人が分かるんじゃない?」


 それにリゼットも同調する。


「あー、なんとなく無理なんじゃないかとは思ってたけど、ノア、実際どうなの?」


「結論から言えば、基本的には無理だ」


「基本的には?」


「それはどういうことかしら?」


「俺の《残響記録》には色々と制約がある。その中の一つが、生きた人間を対象にするときは、相手の同意が必要だということだ」


「それは、ギフトを発動する時に了承させるだけでは駄目なの?」


「駄目だな。口先だけの了承じゃ意味がない」


 俺はカップを置き、言葉を続ける。


「相手が心の底から、自分の過去を読まれることを受け入れていないといけない。見られたくない過去なんてない。そう思えるくらいじゃないと、《残響記録》は発動しない」


 そう。


 いくら表面上では了承していても、心の奥で拒んでいれば過去を引き出すことはできない。


 一方で、遺体には使えた。


 そこから考えるに、俺のギフトは対象に意思があるかどうか――生命としての拒絶があるかどうかで、大きく制約が変わるらしい。


「つまり、ノアくんと対象者の間に信頼関係がないと難しいということね」


「そういうことになるな」


「となると……やっぱり実力行使で吐かせるしかないね!」


 リゼットが軽く肩を回し始める。

 おいおい……物騒な気配を出すな。


「やめろ。探偵なら冷静に物事に当たれ」


「それはわたしの探偵像には当てはまらないよ!」


「お前な……」


 俺とリゼットのやり取りを見て、エルナさんが楽しそうに笑った。


「ふふ、楽しそうね」


 そう穏やかに笑ったあと、不意に小さくあくびを漏らす。


「あら、ごめんなさい。昨日は寝ていなかったから、少しだけ休ませてもらってもいいかしら?」


「…………」


「ああ、俺はかまわないけど」


 俺だけが反応するが、リゼットは返事をしなかった。


 難しい顔をしたまま、エルナさんをじっと見つめている。


「おい、リゼット。いいんだろ?」


「え? う、うん……ごめんね、エルナ。無理させて」


「いいのよ。メイドですもの。二人はゆっくりご飯を食べていてね」


 エルナさんはそう言って、部屋を後にし扉が閉まる。


 その後も、リゼットはしばらく黙っていた。


「どうしたんだ、急に?」


「ううん……なんでもないよ」


 そう言うが、リゼットの表情は晴れない。

 エルナさんは、リゼットにとって大切な人だ。


 エルナさんに、夜間、一人で危険な監視を任せていた。しかも、Aランク上位の実力者だ。


 精神的にも、体力的にも負担は大きかったはずだ。


 リゼットはそのことに、負い目を感じているのかもしれない。


 なんだかんだで、こいつは自分の行いを見つめ直して、反省できるところがある。


 この事件が終わったら、スカウトの件にも少しは協力してやるか。


 そんなことを思いながら、俺は紅茶をもう一口飲んだ。


 味も温度も、昨日の物と何も変わらない。


 やっぱり俺には違いは分からなかった。

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