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ギフト犯罪探偵リゼット~冒険者パーティーを追放された俺は、天才探偵にスカウトされ、過去を視るギフトで事件と運命を書き換える~  作者: 久遠遼


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殺意の向かう先

 遅めの昼食を済ませた俺たちは、ギフト犯罪対策課へと戻った。


 今後の方針を話し合い、さらに事務処理まで片づけているうちに、気づけば外はすっかり日が傾いていた。


「なあ……なんで自分の契約処理を、自分でしないといけないんだ? こういうのって事務係か、元々いる職員がやるものじゃないのか?」


 書類の束を前に、俺は思わずぼやいた。


「仕方ないよ。うちはできたばかりで数人しかいない部署だし、わたしとエルナ以外はみんな別の仕事で出払ってるから」


「ノア様、申し訳ありません。私はそういった事務仕事があまり得意ではなく……お嬢様も、事務処理は苦手でして」


「いやー、ノアが手続きできる人で助かったよ。あれ、面倒くさいから。

 ただでさえ期間限定契約を認めさせるのにいい顔されなかったのに、ここで手続きまで遅れたら、また嫌みを言われるところだったし」


 そんなことで部署のトップが務まるのか、と一瞬思った。


 だけど、リゼットなら必要に迫られれば何だかんだでやるのだろう。

 本人が言う通り、ただ面倒くさいだけなのだと思う。


「でも、意外ですね。エルナさんなら、事務処理なんかもお手のものだと思ってました」


「エルナはね、今でこそ完璧にメイドの仕事ができるけど、昔は全然ダメだったんだよ。元冒険者だから、戦うことは得意なんだけどね」


「リゼットー? 余計なことを言わないでもらえるかしら?」


 エルナさんの声が、ほんの少しだけ低くなる。


 その圧から逃げるように、リゼットはすーっと俺のそばまで寄ってきた。

 

 こっちに来るなよ、俺だってエルナさんの圧は怖い。


「エルナさん、冒険者だったんですね」


「はい。お嬢様のメイドになったのは、二年ほど前からなんです。メイドとして働いている期間より、冒険者として活動していた期間の方が長いですね」


 エルナさんのメイドとしての仕事ぶりを、俺は昨日今日しか見ていない。

 けれど、それだけでも十分だった。


 立ち居振る舞いも、気遣いも、周囲を見る目も、少なくとも俺には完璧に見えた。


 そこまで身につけるには、相当な努力があったはずだ。

 事務仕事まで覚える余裕がなかったとしても、不思議ではない。


 完璧超人に見えた彼女の意外な一面に、少しだけ親近感を覚えた。


「さて、そろそろ引き上げようか。捜査の続きはまた明日にしよ」


 リゼットの声で窓の外へ目を向けると、街灯の灯りが、ぽつぽつと夜の気配を押し返すように点り始めている。


「そうだな……さすがに暗くなってきたしな」

 

 ……ん?


 何か、忘れている気がする。


「あ」


 思い出した瞬間、俺は頭に手をやった。


「しまった……宿を探すんだった」


 そうだった。


 黎明の剣のパーティーハウスを出て、どこか適当な宿を借りるつもりだったのに。

 捜査と契約手続きに追われて、完全に後回しになっていた。


 今から宿を探すには、少し遅い。

 気乗りはしないが、もう一日だけあの場所に戻るしか――


「うちに泊まったらいいじゃん」


 リゼットが思いもしないことを口にした。


「え? いや、それはさすがに……」


「遠慮しないで。部屋はたくさんあるし、使用人も使ってるから。ノア一人増えたところで困らないよ」


 少し迷う。


 だけど、このまま黎明の剣のパーティーハウスに戻って、また一晩過ごすのは、正直しんどい。


 あそこに俺の居場所はもうない。

 それを分かったうえで戻るのは、思った以上に気が重かった。


「……それじゃあ、お言葉に甘えるとする。今日一日、世話になる」


「ずっといてもいいんだよ?」


「それは断る。延々と推理や話に付き合わされて、振り回される未来しか見えない」


「確かに、このままお嬢様の屋敷で過ごし続けると、振り回されて疲れきったノア様が容易に想像できます」


「ちょっと、どういうこと!? ひどい!」


 リゼットの抗議に、俺とエルナさんは思わず顔を見合わせて笑った。


 ――けれど。


 その笑みが、ほんの一瞬だけ曇ったのを、俺は見逃さなかった。


「……エルナさん」


「はい?」


「さっきから、何を気にしているんですか?」


 俺がそう言うと、リゼットの表情もすぐに変わった。


 さっきまでの軽い空気が、静かに引いていく。


 エルナさんは少しだけ目を伏せ、観念したように息を吐いた。それから迷うように、リゼットへ視線を向ける。


 リゼットは小さく頷いた。


「話して、エルナ。私も多分、同じ気配を感じ取ってたよ」


 リゼットの言葉を受け、エルナさんはうつむき気味に少し思案したあと、ゆっくりと顔をあげる。


「わかりました。事情聴取の時、不滅の残火の三人の感情を見ていました。怒り、苛立ち、警戒、恐怖……いくつも色は揺れていましたが」


 そこで、エルナさんの声がわずかに硬くなる。


「その中に、一度だけ、強い殺意に近い色が見えました」


 部屋の空気が、すっと冷えた。


「殺意……?」


「はい。一瞬だったので誰かまではわかりませんでしたが、おそらくそれはノア様に向けられていたと思います」


 つまり、少なくとも誰かが俺を邪魔者だと見ている。


 なら――。


「なあ、提案があるんだが」


 俺がそう切り出すと、リゼットとエルナさんがこちらを見る。


「――と、いうのはどうだ?」


 俺の提案に二人の表情が、同時に険しくなった。

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