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ギフト犯罪探偵リゼット~冒険者パーティーを追放された俺は、天才探偵にスカウトされ、過去を視るギフトで事件と運命を書き換える~  作者: 久遠遼


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昼食は経費で

 店の扉を開けると、温かな空気と一緒に、酒と焼けた肉の香りが流れ出てきた。


 中は思ったよりも落ち着いている。

 耳に届くのは、低く抑えた話し声と、時折混じる笑い声。木製のテーブルと椅子が並び、壁際には旅装の冒険者、奥の席には身なりのいい商人らしき客の姿もある。


 大衆酒場ほど荒れてはいない。

 かといって、貴族が通うような格式張った店でもない。


 肩肘張らずに入れるが、安っぽくはない。

 俺にとっては、ちょうどいい店だった。


「……いい店だね。冒険者の行きつけって聞いてたから、イメージとちょっと違うかも」


「そうですね。商人の方たちもいらっしゃいます」


 リゼットとエルナさんが、小さく感心したように呟く。


「だろ? ここは上位の冒険者がよく使う店なんだ」


 《黎明の剣》の他のメンバーは、ここよりもっと高級な店を好んで使っていた。

 だけど、俺にはどうにも肌に合わなかった。


 料理の味より、皿の値段を気にしなきゃいけないような場所は落ち着かない。


「もっとこう、お酒の入った木のコップを片手に振り回しながら叫んでたり、怒鳴り声や喧嘩が飛び交ってたりするものだと思ってたよ」


「一体どんな想像してるんだよ」


「違うの?」


「……まあ、あながち間違ってないかもしれないな。低ランク冒険者だった頃によく使ってた店は、確かにそんな感じだった」


 床に酒がこぼれているのは当たり前。

 誰かが大声で武勇伝を語り、誰かが笑い、誰かがくだらない理由で殴り合う。


 今では、あれも懐かしく思える。

 二人が行きたいと言うのなら、今度連れて行ってみるのもいいかもしれない。


 顔馴染みの店員に声をかけると、奥にある簡単な仕切り付きの席へ案内された。


 壁で完全に区切られているわけではないが、周囲の視線と声はほどよく遮られる。

 それだけで、ずいぶん落ち着いた空間に感じられた。


「ここで捜査の話をするわけにもいかないし、ノアのことを色々教えてよ」


 料理の注文を済ませると、リゼットが待ってましたとばかりに切り出した。


「色々ってなんだよ」


「うーん。たとえば、なんで冒険者になったのか、とか?」


「冒険者になった理由か……」


 俺は少しだけ視線を落とし、幼い頃のことを思い出す。


「レイン――《黎明の剣》のリーダーとは、同じ故郷で生まれ育ったんだ」


「確か、ノア様の故郷はエクセリア王国の北部でしたね。大きなダンジョンのある土地だと、資料で拝見しました」


「ええ。ある日、そのダンジョンに冒険者パーティーが定期調査に来たんだ。それを聞いたレインが、冒険者の戦いを見に行こうって言い出したんだ」


「まさか、子供だけで?」


「そうだ。危ないからやめろって何度も止めたんだけどな。あいつ、言い出したら聞かなくてさ。仕方なく俺もついていったんだ。十歳にも満たない子供二人で」


「それは……かなり危険だね」


「危険だったな。案の定、ダンジョンに入ってすぐモンスターに遭遇して、逃げられなくなった」


 あの時のことは、今でも覚えている。

 狭い通路。湿った石の匂い。目の前に迫る魔物の影。

 それなのに、あいつの目だけは、不思議なくらい輝いていた。


「その時、定期調査に来ていた冒険者パーティーに助けられたんだ。俺たちからすれば、本物の英雄みたいに見えた」


「それで、レイン・イルミナは冒険者に興味を?」


「ああ。助けてもらった直後に、あいつは目を輝かせながら言ったんだ。自分も冒険者になるって」


「へえ。それでノアも一緒に?」


「レインを一人にはできなかったからな。あいつは危なっかしいし、近くで見守ってないと何をするか分からなかった」


「意外ですね。私が調べた情報では、レイン・イルミナは冷静沈着なリーダーという話でしたので」


 エルナさんが少し驚いたように言う。


「今はそう見えるかもしれません。でも、子供の頃のレインは違いました。無邪気で、考えるより先に動くタイプで……よく苦労させられましたよ」


 もちろん、今も完全に変わったわけじゃない。

 仲間のためなら、自分の危険を後回しにするところは昔から変わらなかった。


 だからこそ、あの日も――


 あいつは、最悪の運命に足を踏み入れた。


 俺がいなければ、レインは今頃――。


「んんー。でも、今はSランクパーティーのリーダーにまでなったんだよね? それなら、ノアがレインのお守りをするのはもう卒業ってことかな」


「そうですね。これからは安心して、お嬢様の相棒を務めていただけます」


 俺の沈黙を、追放のことを思い出していると受け取ったのだろう。

 リゼットがわざとらしく咳払いをする。

 それに合わせるように、二人はあえて明るい声でそう言った。


 その気遣いに、思わず苦笑する。


「そうだな……。今は、ギフト犯罪対策課の一員として責務を果たすとしよう」


 するとリゼットが、ばん、と両手をテーブルにつき、身を乗り出してきた。


「よく言ったね!」


「近い近い」


「ここはギフト犯罪対策課長として、正式に経費申請を出すとするよ。ノア、もっと追加で頼んでいいよ!」


「職権濫用じゃないのか?」


「違うよ。これは必要経費だよ。実際、捜査のためにここまで来たわけだし」


「今は捜査の話をしないって言ったばかりだろ」


「あ、大丈夫。歓迎会はまた別でちゃんとしてあげるから」


「そこじゃねぇよ」


 まったく。

 こいつの前では、落ち込んだり感傷に浸ったりする暇もない。


 そのあとも、料理が来るまでどころか来てからも二人から質問されてはそれに答えるというのが続いた。

 けれど、そんなふうに振り回されているこの時間が、不思議と居心地悪くないのも事実だった。

 



 

 




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