表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギフト犯罪探偵リゼット~冒険者パーティーを追放された俺は、天才探偵にスカウトされ、過去を視るギフトで事件と運命を書き換える~  作者: 久遠遼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/37

腹が減っては捜査はできぬ

 さっさと帰れと言わんばかりの視線を背に受けながら、不滅の残火パーティーハウスをあとにする。


 「さっそくだけど、三人の話についてエルナにも分かるようにまとめてみよっか」


 馬車に乗り込んですぐ、リゼットは切り出した。

 カバンからメモ帳を取り出し、事情聴取の内容を説明しながら要点を書き出していく。


「まず、ガルドはギガントバジリスク討伐中、不測の事態でリュカを庇って致命傷を負った」


 ペン先を走らせながら、リゼットは続ける。


「ヴェイルには《傷の請負》っていうギフトがあって、理論上はガルドを助けられた可能性があった。でも――」


 一度、言葉を区切る。


「恐怖で発動できなかった」


「……」


「ガルドは死の間際に助けを求めたけど、ヴェイルは踏み出せなかった。その結果、ガルドは死亡。責任を問われてヴェイルはパーティーを追放された」


 さらに一行書き足す。


「それと、不滅の残火でギフト持ちはヴェイルだけ。彼女のギフトは、傷を請け負う代わりに、その傷の度合いに応じて自分の記憶を相手に流すっていうものだね」


 説明を聞き終え、エルナさんが小さく息を呑んだ。


「被害者のヴェイル・アディスがギフト持ちだったのですか……それに、その能力は……」


 困惑した様子で言葉を濁す。


「エルナも気づいた?」


 リゼットが顔を上げる。


「今回の事件でヴェイルは、誰かに致命傷を負わせたあと、その傷を自分に請け負ったように見えるよね」


 ――俺の《残響記録》から得られた情報だ。


 ヴェイルが誰かに致命傷を与えた直後に倒れたこと。

 そして、最後に大剣を持っていたのがヴェイルだったこと。


「だけど……なぜそんなことを? ガルドの時には発動をためらった人間が、自分が死ぬようなことをするなんて……」


「さあね」


 リゼットは肩をすくめた。


「そもそも、ヴェイルが本当にギフトを使ったかどうかも、まだ確定じゃないよ」


「どういうことだ?」


「例えば、他人のギフトをコピーする能力とか。似たような能力の持ち主が関わってる可能性もある」


「なるほど……」


 俺は腕を組む。


「メンバーにギフト持ちがいないって証言を、そのまま鵜呑みにするのは危険か。外部の人間も含めて考えるべきだな」


「そうそう」


 リゼットが満足げに頷く。


「だからノアには、もう一度ヴェイルの過去を視てほしいんだ」


 一瞬考えて、その意味に気づく。


「……そうか。ヴェイルのギフトについて知った今なら、《残響記録》の内容も変わる可能性がある」


「そう! 御名答!」


 《残響記録》は、俺の知識に基づいて過去を引き出す。

 つまり――今の知識を持った俺がその場にいたと仮定した情報が再構成される。


「ヴェイルがギフトを使っていれば、はっきりそう書かれる。使っていなければ、また曖昧な表現になるかもしれない……」


 ぞわりと背筋が震えた。


 自分の知識で過去の“見え方”が変わる――そんな検証は、これまで一度も試したことがない。


「よし、すぐ戻って確認しよう!」


「ちょっと待って、ノア。その前にやることがあるよ」


「なんだ?」


 その瞬間――


「ぐぅぅぅ……」


 馬車の中に、妙に大きな音が響いた。


 ぽかんと口を開ける俺の隣で、エルナさんが小さく呟く。


「すみません……」


 音の正体は、彼女の腹の虫だった。


 ほんのり頬を赤く染め、申し訳なさそうに俯くエルナさん。


 張り詰めていた空気が一気に緩む。


 俺は背もたれに体を預け、馬車の外に視線を向けた。

 日はすでに頭上を過ぎている。


「……昼、とっくに過ぎてますね」


「うん、腹が減っては捜査はできないよ! エルナはすっごく食べるんだよ。これでも我慢してた方だね」


「リゼット〜?」


 にこりと笑いながらも、圧を込めた視線がリゼットに向けられる。


 当の本人は、そっと顔を外へ背けていた。


「ふっ……」


 思わず笑いが漏れる。


「ノア様……」


 はっとして口元を押さえると、エルナさんが上目遣いでこちらを見ていた。

 ぷくっと頬を膨らませた顔はさらに赤い。


「すみません……でも、よく食べる女性は素敵だと思いますよ」


「紳士は、そもそも聞こえなかったふりをするものです」


 もっともな指摘に、俺は頬杖をついて視線を逸らす。


 正直、完璧な大人の女性だと思っていた分――

 今の表情が、少しだけ可愛いと思ってしまったなんて。


 とても口には出せなかった。


「口に合うかは分からないが、行きつけの店がある」


「冒険者行きつけのお店? わたし、今まで行ったことないから行きたい!」


 リゼットが身を乗り出すようにして食いついてきた。

 さっきまでの推理モードはどこへやら、目が完全に輝いている。


「……切り替え早いな」


「だって気になるじゃん。冒険者が通う店なんて、そういったところを知っておくことは探偵として重要だよ」


「どう重要かはよく分からないが、そこに行くか」


 苦笑しながら頷く。

 御者に行き先を告げると、馬車はゆっくりと進路を変えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ