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ギフト犯罪探偵リゼット~冒険者パーティーを追放された俺は、天才探偵にスカウトされ、過去を視るギフトで事件と運命を書き換える~  作者: 久遠遼


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不穏な幕開け

 職業斡旋所で求人登録を済ませたあと、俺はその足で冒険者ギルドへ向かい、手頃な依頼を受けた。


 向かった先は、王都近郊の森の奥。


 パーティーハウスにいたくなかった。

 少しでも身体を動かして、日付が変わる直前まで仕事をしていれば、余計なことを考えずに済むと思ったからだ。


「……よし、これで終わりだ」


 依頼分の薬草を採り終え、俺は近くの木へ背中を預けた。

 どっと押し寄せてくる疲労に、小さく息を吐く。


 採取したのは銀夜草。

 夜にだけ地面から芽吹く、不思議な薬草だ。


 採れるのは夜だけ。しかも生えているのは危険な森の奥深く。

 そのぶん価値は高く、薬にも触媒にも使われるため、依頼料も悪くない。


 だけど、今の俺を重くしているのは、依頼を終えた疲れだけじゃなかった。


 レインと一緒に始めた冒険者稼業。

 《黎明の剣》は、いつの間にか俺にとって当たり前の居場所になっていた。


 正直、今も胸の奥が痛む。

 王都にいるのもしんどい。


 それでも、離れるわけにはいかなかった。


 ――レインには、俺のギフトが必要だ。


 あいつがこれからも今まで通り、冒険者として。

 いや、一人の人間として生きていくためには。


「それに……」


 俺は、採取した銀夜草の入った袋へ視線を落とした。


 当面の生活費くらいなら、どうにかなる。

 だけど本当に必要なのは、自分のギフトを研究するための資金だ。


 レインを救うには、まだ足りない。

 何もかもが足りなかった。


「まあ……なんとかするしかないか」


 職業斡旋所では、受付の職員が「紹介したい求人があるから、明日また来てほしい」と言っていた。

 少しくらい期待してもいいのかもしれない。


 もっとも、そのあと職員たちが妙に慌ただしくしていたのは少し気になったけど……今は考えても仕方がない。


 そんなことを思いながら、俺はぼんやりと夜空を見上げた。


 その時だった。


「お前のせいだ!」


 女の怒鳴り声が、森の奥から鋭く響いた。


 反射的に顔を上げる。


 怒気を孕んだ、切り裂くような声。

 ただ事じゃない。そう直感するには十分だった。


「……あっちか!」


 俺は右足で地面を蹴った。


 暗い森を枝葉をかき分けながら駆け抜ける。

 思ったより時間がかかって、声のした場所へと辿り着く。


 そして、ようやく現場へ飛び出した瞬間――俺は思わず息を呑んだ。


 そこには、激しい戦闘の跡が広がっていた。


 周囲の木々は無残に裂け、地面はあちこちが抉れている。

 凄まじい力がぶつかり合ったことが、ひと目で分かった。


 そして、その中心に――一人の冒険者らしき人物が倒れていた。


「お、おい! 大丈夫か!?」


 慌てて駆け寄る。

 その顔を見た瞬間、俺は息を止めた。


「ヴェイル・アディス……」


 Aランクパーティー《不滅の残火》の一員。

 Aランクの中でも頭ひとつ抜けた実力者で、Sランクに最も近いとまで言われていたパーティーメンバーの女だ。


 そのヴェイルが、血溜まりの中に沈んでいた。


 傷は一撃。


 右肩口から左胸へ斜めに走る、深く苛烈な斬撃。

 正面から振るわれた大剣が、骨ごと抉り裂いたのだと分かる。胸元は大きく裂け、おびただしい量の血が流れ出していた。すぐそばには、血に濡れた大剣が転がっている。


 見れば分かる。

 即死だった。


「……っ」


 あまりにも凄惨な光景に、俺は一瞬言葉を失った。


 ――なのに。


 次の瞬間、心臓がどくんと大きく跳ねる。


 頭の奥が、熱を持つ。

 歓喜に近い何かが、ぞわりと背筋を這い上がった。


 死亡した人間。

 しかも、死んで間もない遺体。


 そんな対象に自分のギフトを試せる機会なんて、そうあるものじゃない。


「……っ」


 口元が歪みかける。

 誰に見られているわけでもないのに、俺は慌てて手で押さえた。


「……何考えてんだ、俺は」


 人の死を前にして、喜びかけるなんて。


 胸の奥が冷たくなる。

 目的のためなら見境がなくなりつつある自分に、吐き気に似た嫌悪感が込み上げた。


 けれど、それでも。


 俺は小さく首を振り、ヴェイルの遺体の前に膝をつく。


 そして静かに目を閉じ、短く手を合わせた。


 ゆっくりと目を開ける。

 少しためらいながらも、俺はヴェイルへ手を伸ばした。


 死者の過去を勝手に覗き見るなんて、冒涜かもしれない。


 それでも――この機会を逃すわけにはいかなかった。


「すまない……」


 そっと、遺体となったヴェイルに語りかける。


 せめて。

 せめて俺のギフトで、お前に何が起きたのかを引き出してやる。


 感謝と贖罪、そのどちらともつかない感情を胸に、俺は小さく息を吐いた。


 意識を研ぎ澄ます。

 自分の内側へ沈み込み、そこに眠る力を引きずり出すようにして、ギフトを起動する。


「――対象、《ヴェイル・アディスの遺体》」


 その言葉を口にした瞬間、遺体の周囲に残っていた目に見えない残滓が、微かに震えた気がした。


「《残響記録(エコーズ・レコード)》」


 指先が触れた瞬間、淡い光の粒子がふわりと舞い上がる。


 光は空中で寄り集まり、やがて一冊の半透明な本を形作った。

 触れた箇所からは、燐光のような白い文字がにじみ出し、糸のように絡まりながら頁の内側へと吸い込まれていく。


 それは、死の間際に刻まれた過去を写し取る書。


 そこにあったのは、ヴェイル・アディスの最期を記した、残響の記録だった。

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