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ギフト犯罪探偵リゼット~冒険者パーティーを追放された俺は、天才探偵にスカウトされ、過去を視るギフトで事件と運命を書き換える~  作者: 久遠遼


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エリシアの供述

 被害者のヴェイル自身がギフト持ちだった。

 

 その驚くべき事実を、ジェイクは吐き捨てるように告げた。

 当然、詳しく聞き出そうとしたのだが、ジェイクは面倒くさそうに肩をすくめる。

 

「しゃべり疲れた。あとはエリシアかリュカにでも聞け」


「あ、ちょっと!」

 

 ジェイクはそう言って、ベッドから立ち上がった。

 今度こそ剣を引き抜こうとするリゼットを慌てて制止しつつ、俺は部屋を出ていこうとするジェイクを止めなかった。

 

 ジェイクとリゼットの相性は、悪すぎる。

 これ以上話を続けても、まともな聴取になるとは思えなかった。

 

 入れ替わるように部屋へ入ってきたのは、エリシアだった。

 ノックもせずに入ってきては、そのまま椅子に腰を下ろしたエリシアは、退屈そうに足を組む。

 

「んで? 何が聞きたいわけ?」

 

 その態度に思うところはあったが、今は感情を挟む場面じゃない。

 俺は本題を切り出した。

 

「ヴェイルがガルドを見殺しにした、というのはどういうことだ?」

 

「あー、それね」

 

 エリシアは軽く髪を払うと、面倒そうに口を開いた。

 

「ヴェイルがちゃんとギフトを使ってれば、少なくともガルドがすぐに死ぬことはなかったって話」

 

「ジェイクも言っていたな。“傷の請負”だったか。どんなギフトなんだ?」

 

「簡単に言えば、触れた相手の傷を自分に移すギフトよ」

 

 その瞬間、リゼットの目つきが変わった。

 彼女は、ずいっとエリシアへ身を乗り出す。

 

「それ、もっと詳しく聞かせて!」

 

「あー、ちょっ……近いって。うざい。離れなさいよ」

 

 エリシアは露骨に顔をしかめ、のけぞるように身を引いた。

 

「相手が受けた傷を、自分の身体に移すの。全部引き受けることもできるし、一部だけ引き受けることもできる。そこは本人の加減次第ね」

 

「つまり、瀕死の重傷でも、傷を二人で分け合えば、致命傷を軽傷や中傷まで抑えられる可能性があるってこと?」

 

「まあ、理屈の上ではね」

 

 エリシアは肩をすくめる。

 

「実際は、ガルドやジェイクが怪我をしたら、ヴェイルが傷を全部肩代わりする。その間に、うちがヴェイルを回復させる。そうやってガルドやジェイクには前線で戦い続けてもらう。そういう戦い方だったわ」

 

 それは、使いようによってはかなり強力なギフトだ。

 

 パーティーの生命線である前衛。

 特に盾役であるガルドを戦場に立たせ続けられるという恩恵は、計り知れない。

 ヴェイルのギフトは、不滅の残火にとって戦線維持の要だったのだろう。

 

「ガルドがギガントバジリスクの攻撃を受けた時も、まだ息はあったのよ」

 

 エリシアは足を組み直し、どこか他人事のように続ける。

 

「ジェイクとリュカが魔物の注意を引きつけている間に、うちとヴェイルがガルドのところへ駆け寄った。そこまではよかったわ」

 

「なら、そこで傷を引き受ければ……」

 

「そう。すぐにでもヴェイルが傷を請け負って、とりあえず延命させる。その間に、うちが回復させる。そうすれば、助かった可能性はあった」

 

 エリシアは、ふん、と鼻で笑った。

 

「でも、あの娘、一瞬だけ躊躇したのよ」

 

「……どうして?」

 

「怖かったんだってさ」

 

 あっさりとした声だった。

 

「目の前に、死にかけのガルドがいる。その傷を自分の身体に移す。いくら全部じゃなくてもいいって言っても、怖くなったんじゃない」

 

 その言葉に、俺は何も言えなかった。

 目の前で仲間が瀕死の重傷を負っている。

 その傷を、自分が引き受けなければならない。

 たとえ一部だけだとしても、死に至る傷を自分の身体に移すことを、迷いなく選べる人間がどれだけいるだろうか。

 

「その結果、ガルドは死んでしまったのか?」

 

「そういうこと」

 

 エリシアはつまらなそうに答えた。

 

「あの娘が迷ったのは、本当に一瞬だけだった。でも、結果としてガルドが死んだのは事実」

 

「それで、ヴェイルへの当たりが強くなったのか」

 

「そう。パーティーとしては、もう終わりよね」

 

「……そうか」

 

 かける言葉を探していると、エリシアは耳を疑うような言葉を口にした。

 

「ま、ちょうどよかったかもね。ヴェイルも死んで」

 

「……は?」

 

 思わず、声が低くなる。

 

「死んでよかった、だと?」

 

「だって、うち、あの娘のこと元々苦手だったし」

 

 エリシアは悪びれもせずに言った。

 

「暗いし、地味だし、戦闘も微妙。ギフトしか取り柄がないのに、そのギフトを肝心な時に使えない。そうなったら、もう価値ないでしょ」

 

 俺は絶句した。

 まがりなりにも、仲間だった相手だ。

 苦楽を共にしてきたはずの相手だ。

 それを、価値がないと切り捨てるのか。

 

「しかも、あの娘、クビって言ってもごねてたしね。正直、面倒だったのよ」

 

 エリシアはさらに続ける。

 

「そもそも、あの娘のギフトって気持ち悪かったのよ。傷を請け負ってもらうと、あの娘の記憶みたいなものがこっちの頭に流れ込んでくるんだから」

 

 リゼットの表情がみるみる険しくなる。俺もおそらくそうなってるだろう。

 だけど、エリシアはそれに気づかず、吐き捨てるように続けた。

 

「勝手に人の中に入ってこられるみたいでさ。ほんと不快だった。そういえば、あの娘の記憶で一つ面白いことが――」

 

「……だ、まれ」

 

「え? なに?」

 

「黙れ!」

 

 気づけば、怒鳴っていた。

 エリシアの肩がびくりと跳ねる。

 そのあと、彼女は不快そうに俺を睨みつけてきた。

 

「なによ……急に」

 

 自分でも、大声を出してしまったことは分かっている。

 事情聴取の場で、冷静さを欠いた。

 それでも、胸の奥で燃え上がった怒りと不快感を、どうしても押し殺せなかった。

 

「聞くに堪えない。その話は、もういい……」

 

「ふ、ふん。あっそ」

 

 エリシアは乱暴に椅子から立ち上がった。

 

「なら、あとはリュカにでも聞きなさいよね。うちはもう知らないから」

 

 そう言い捨てて、エリシアは部屋を出ていった。

 直後、乱暴に閉められた扉が、どん、と重い音を立てる。

 

「……くそ」

 

 思わず、拳を握りしめた。

 パーティーから不要だと切り捨てられたヴェイル。

 価値がないと断じられたヴェイル。

 その姿に、自分を重ねてしまったのかもしれない。

 

 けれど、それだけじゃなかった。

 苦楽を共にした仲間に対して、どうしてあんな言葉を口にできる。

 死んでよかったなどと、どうして言える。

 だけど、怒りに任せて大切な情報源を追い出してしまったという愚かなことをしたことも事実だ。

 これでは、リゼットのことを非難できない。

 

「すまない、リゼット。つい熱くなってしまった」

 

「ん? いやいや、むしろありがとう」

 

 リゼットは、あっけらかんと笑った。

 

「あのままだったら、わたしがあの女をぶった斬ってたかもしれないから」

 

「……笑顔で物騒なことを言うな」

 

 思わず苦笑いがこぼれる。

 すると、リゼットは俺をじっと見つめた。

 

「でも、ノア。やっぱり君、いいね」

 

「何がだ?」

 

 唐突な言葉に困惑する。

 リゼットは人差し指で、俺の胸を軽く小突いた。

 

「だって、自分のことでは耐えてたのに、ほとんど関わりのないはずのヴェイルのことでは、あんなに怒ったでしょ」

 

「それは……」

 

「誰かのために怒れる人。わたしは、そういう人が好きだよ」

 

 ニコッと笑うリゼットは、無邪気だった。

 けれど、その笑みにはどこか、こちらの弱さごと受け入れてくれるような不思議な包容力があった。

 思わず、胸が跳ねる。

 

「と、とにかく」

 

 俺は誤魔化すように咳払いをした。

 

「最後の一人、リュカからはしっかり話を聞くぞ」

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