容疑者候補
「お前たち以外、残りのメンバーも呼んできてくれ」
俺の言葉に、せめてもの抵抗かジェイクは反抗的な態度を崩さなかった。
むしろ、さらに不機嫌そうに顔をしかめる。
「ああ? 今はいねぇよ。二人とも昨日の夜から帰ってきてねぇ」
「リュカは用事で出て行ったけど、ヴェイルは知らないわよ」
エリシアが淡々と答えた。
ちょうどその時だった。
部屋の扉が開き、いかにも気弱そうな女が、おずおずと中へ入ってきた。
「え、え……な、なんですかこの状況……?」
「リュカ! 今までどこ行ってやがった!」
「ひっ、ご、ごめんなさい……思ったより時間がかかってしまって……」
この女が最後の一人、リュカ・ハインツなのだろう。
今の短いやり取りだけで、このパーティー内の力関係が大体わかった気がした。
「それで? 用事は済んだわけ?」
「あ、はい……なんとか終わりました」
「そ……ならいいわ。それで――」
エリシアが何かを言いかけたところで、リゼットが言葉を遮った。
「あなたがリュカ・ハインツ?」
「あ、はい……」
「用事って何してたの?」
「夜行性のモンスターの生態について、調査依頼を受けていました」
「それは、あなた一人で?」
「リュカは斥候だから。魔法職のあたしと前衛のジェイクがついて行ったところで、邪魔になるだけなのよ」
話を遮られたことが気に障ったのか、エリシアが苛立った様子で答える。
「なるほど。斥候なら、単独行動の理由にはなるね」
こちらを向き、確認するように言葉を口にしたリゼットに俺はうなづき返す。
「そんなことより、さっさと話を進めろよ!」
ジェイクが机を叩き、声を荒げる。
「なんでガルドのことを、今さら聞きてぇんだ!」
その言葉に、俺は気を張り直した。
ジェイク、エリシア、リュカ。
三人の表情を見逃さないよう、しっかりと意識を向ける。
「昨夜、ヴェイル・アディスが何者かに殺害されているのが発見された」
俺の言葉に、三人の空気が一瞬で変わった。
「……死んだ? ヴェイルが!?」
「はあ……冗談でしょ?」
「う、そ……」
三人の反応を注意深く観察する。
見た限りでは、全員が本当に驚いているように見えた。
少なくとも俺には、その反応から怪しいところはないように見えた。
リゼットとエルナさんの方へちらりと視線を向けると、二人は何やらアイコンタクトを交わし、静かに頷き合っていた。
「ガルド氏が死亡した時から現在に至るまでの話を聞きたい。ヴェイル殺害事件の調査の一環だ」
俺がそう告げると、ジェイクは舌打ちした。
「なんでガルドのことが関係してくんだよ」
「まだ、捜査途中だ。関係するかどうかもこれから判断してく」
俺の言葉にジェイクは「ち……」と舌打ちをしたが、それ以上噛みついてくる様子はなかった。
「一人ずつ話を聞かせてもらう。他の者に内容を聞かれない場所を借りたい」
「ロビーの真向かいの部屋が空いてる。そこを使え」
ジェイクの言葉を受けて、リゼットがこちらを見る。
「ノア。エルナと一緒に、部屋が使えるか確認してきてくれる?」
「話聞くだけだろ? わざわざ?」
「うん! もし散らかってて落ち着いて話できなくても困るから、念のためね」
「そうか? わかった」
リゼットを残し、俺はエルナさんとともに部屋を出た。
ロビーを挟んだ向かい側。
ジェイクが言った部屋の前に立つと、扉には古びたネームプレートがかかっていた。
そこに刻まれていた名前は――ガルド。
おそらく、この部屋はパーティーリーダーだったガルド・ロックフォードのものなのだろう。
俺はゆっくりと扉を開け、中へ入った。
部屋の中は、思ったよりも綺麗だった。
埃っぽさはなく、主人がいなくなったあとも定期的に掃除されていた痕跡がある。
そのせいだろうか。
すでにこの世にいないはずのガルドが、まだ生きていて、少し部屋を空けているだけなのではないか。
一瞬、そんな錯覚を覚えた。
けれど、すぐにその印象は変わる。
あまりにも綺麗に片付けられた部屋。
生活感を失った空間。
それは、ガルドを思う仲間たちが、彼の居場所だけでもそのまま守ろうとしているように見えた。
「ノア様」
感傷に沈みかけていたところで、エルナさんに声をかけられた。
「ああ、すみません。少し、ぼーっとしてました」
俺は部屋を見回す。
「部屋の確認ですよね。ここなら話し声も向こうには聞こえないでしょうし、問題なく使えると思います」
「いえ、そのことではありません」
エルナさんの声は、いつもより少しだけ低かった。
「私のギフトで知り得たことを、お伝えしておきたいと思います」
「エルナさんのギフト……?」
俺が聞き返すと、エルナさんは静かに頷いた。
そして、迷いのない声で告げる。
「あの三人全員が、ヴェイル・アディスの死になんらかの関わりがある可能性があります」




