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ギフト犯罪探偵リゼット~冒険者パーティーを追放された俺は、天才探偵にスカウトされ、過去を視るギフトで事件と運命を書き換える~  作者: 久遠遼


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不滅の残火、パーティハウスへ

 俺たちは《不滅の残火》の残りのメンバーに話を聞きに行くため、王都の主要な施設が集まる一等地を抜け、冒険者ギルドや商店が並ぶ中央街へと向かっていた。

 

「そういえば、お前は俺のギフトについて知っていたよな? どうやって知ったんだ?」

 

 馬車の中で問いかけると、リゼットはきょとんとした顔をした。

 それから、しばらくして「ああ〜」と声を漏らす。

 

「君、Sランク昇格時にギルドマスターの前でギフトを見せたでしょ? その時の資料を見たの」

 

「資料を?」

 

 基本的に、冒険者は自由で縛られない存在だ。

 それはSランク冒険者になっても変わらない。

 

 だけど、国としては強大な力を持つ者たちを把握し、できれば管理下に置きたいというのが本音だ。

 とはいえ、冒険者は国に縛られるべきではないというギルドの方針もある。 

 その妥協案として、Sランク冒険者に関しては、一定の場でその力を国に示すことが求められるようになった。

 

 その一つが、ギフトの所持の有無と、その力の一端を見せ情報を公開、登録するというものだ。

 王族や貴族、そして大商人たちがその情報を見ることができる。

 

「うん。ああいう冒険者のギフトを見ることができる機会には、できるだけ行くようにしてるの。

 でも、君の時は都合が悪くて資料でしか確認できなかったんだ」

 

 リゼットは頬杖をつき、残念そうにため息をついた。

 

「それに、冒険者ってギフトを隠したがるから、なかなかそういう機会ってないんだよね。もっと見てみたいのに」

 

「まあ、そうだろうな。冒険者にとってギフトは切り札みたいなものだからな」

 

「そうだよねー。ギフトは持っていませんって隠したり、見せても力の全部は見せないようにしたりね」

 

 そこで、リゼットの瞳が真っ直ぐにこちらへ向けられた。

 俺は咄嗟に窓の外へ視線を逃がす。

 

「なるほどな。それで俺のギフトについて知ったってわけか」

 

 そう言うと、リゼットはつまらなそうに口を尖らせた。

 

「はぐらかされちゃった。ま、今はいいけどね」

 

 ちょうど話が一区切りしたところで、馬車が止まった。

 それとほぼ同時に、エルナさんが口を開く。

 

「《不滅の残火》が拠点としている建物に到着しました」

 

 馬車から降りた場所は、王都の中心地からやや離れた区画だった。

 多くの人々が暮らす、いわゆる一般地区にあたる場所だ。

 

「Aランク上位のパーティーが拠点にするには、少しギルドから離れているね」

 

「最初に借りたパーティーハウスから変えてないらしい。どうやら、リーダーのガルドがそういう方針だったみたいだな」

 

 エルナさんが頷きながら、俺の言葉を引き継ぐ。

 

「ええ。なんでも貧しい田舎の出身らしく、無駄な出費はできるだけ避けたかったようです」

 

「へえ。Aランクパーティーのリーダーにしては倹約家なんだ」

 

 リゼットが感心したように呟いた。

 冒険者は、常に危険と隣り合わせだ。

 だからこそ大きな報酬を手に入れると、それに見合ったご褒美を自分に与えたくなるのだろう。

 

 そのせいか、周りから見ると、上位の冒険者ほど金遣いが荒いという印象を持たれやすい。

 

「相手は冒険者だ。ここは俺が先に話そう」

 

 二人が頷いたのを確認してから、俺は建物のドアに取り付けられた魔道具の呼び鈴を鳴らした。

 

 ――キーンコーン。

 

 小気味いい音が鳴り、しばらくしてからドアが開く。

 顔を覗かせたのは、美人だが、どこかきつい印象を受ける女だった。

 

「はい、どちらさま?」

 

「治安維持局、特別捜査課だ。少し話を聞かせてほしい」

 

 特別捜査課というのは、ギフト犯罪対策課の隠れ蓑に使われる部署名だ。

 リゼット曰く、ギフト使いが余計な警戒をしないようにするためのものらしい。

 

 俺の言葉に女は一瞬顔をしかめ、不機嫌そうに問いかけてきた。

 

「治安維持局がいったい何の用よ」

 

「先日のSランク昇格試験において、リーダーのガルド・ロックフォード氏が死亡した件についてだ」

 

「はあ? あれは依頼中の事故だったって話になったでしょ? 今さら何よ!」

 

 女の声色に、警戒の色が濃くなったように感じた。

 その時だった。

 

「おい、エリシア。なに騒いでやがる!」

 

 彼女の背後から、短く刈り上げた男が顔を荒々しい声をあげながら覗かせた。

 おそらく、この男が前衛剣士のジェイク・オーウェンだろう。

 そして、今まで話していた女がエリシア・ルーンというわけだ。

 

「ジェイク……治安維持局の連中が来て、ガルドが死んだ時のことを今さら聞きたいんだってよ」

 

 エリシアは腕を組み、親指で俺たちを指した。

 

「あぁ? そのことなら散々話したろ――って、お前、ノア・フェルドか?」

 

 ジェイクの声に、エリシアが反応する。

 

「ふぅん? これがあのノア・フェルドなんだ」

 

「俺を知ってるのか?」

 

「てめぇのことを知らねぇ奴の方が少ねぇだろ。……中に入れよ。ここで立ち話してると変に目立つ」

 

 その言葉とは裏腹に、声には歓迎の色などなかった。

 ジェイクに促され、俺たちはパーティーハウスの中へ入る。

 造りは中位の冒険者が借りる物と大きく変わらない。

 飾り気はなく、上位冒険者の拠点としては平凡というか物足りなさを感じる建物だった。

 

 部屋に入るなり、ジェイクはどかっとソファーに腰を下ろし、吐き捨てるように切り出した。

 

「んで? Sランク冒険者をクビになった役立たずが、なんで治安維持局のお役人さんごっこなんかしてんだ?」

 

「……ッ。なんでそれを」

 

 一瞬顔が引きつった俺を見て、ジェイクがにちゃりと気味の悪い笑みを浮かべる。

 

「朝、たまたま冒険者ギルドに顔を出したら噂になってたぜ? つい昨日、実力不足でパーティーから追い出されたってな」

 

「え? そんなことあるんだ。ウケる」

 

「だろ? しかも、そいつが昨日の今日で治安維持局だって? こいつは傑作だ」

 

 俺の目の前でゲラゲラと笑う二人を見て、俺は拳を握りしめることしかできなかった。

 相手にするだけ疲れる。

 無視して、さっさと話を聞こう。

 

 そう切り出そうとした、その時だった。

 

「ね! ほんと笑っちゃうよね。今、ノアがうちにいることが」

 

 リゼットの思いがけない言葉に、その場にいる全員が目を見開き、一瞬言葉を失った。

 

「お仲間からもそんなこと言われて、惨めだな」

 

「いや、ほんと残念すぎるでしょ」

 

 少し間を置いて、ジェイクとエリシアが腹を抱えて笑い出す。

 

「なにか勘違いしてない?」


「あぁ?」

 

 そんな二人に冷水を浴びせるように、リゼットの声が響いた。

 

「ノアにはとてつもない力がある。少なくとも、君たちが一生かけても辿り着けない真相に、彼は触れることができる」

 

 リゼットは、にっこりと笑う。

 

「それが今まで冒険者のままでいたなんて、もったいなさすぎるよ。ほんと、ノアをクビにした《黎明の剣》も、こんな逸材を見逃していたあなたたち冒険者も、マヌケすぎて笑っちゃう」

 

 今度はリゼットが、立ったまま腹を抱えて笑い出した。

 

「てめぇ……! 誰がマヌケだと!」

 

 顔を真っ赤にして立ち上がったジェイクを、リゼットは今までの無邪気な笑顔から一転、完全に据わった目で睨みつけた。

 

「黙りなさい」

 

 その一言だけで、部屋の空気が冷えた。

 

「これ以上、治安維持局の正式な聞き取りを妨害するなら、事情聴取の場所をここから局内に変えるだけだよ。

 なんなら、公務執行妨害で連行するのもいいかもね」

 

「なんだと!」

 

「そ、そんなめちゃくちゃなことできるわけないでしょ!」

 

 ジェイクとエリシアの抗議に、リゼットは冷たく笑う。

 

「そう。なら試してみる?」

 

 ジェイクはしばらく口を動かし、何かを言おうとしていた。

 けれど、やがて観念したように、さっきよりも乱暴にどかっとソファーへ座り直した。

 

「ちっ……分かった。さっさとしろ」

 

 それを見届けた瞬間、リゼットから感じられた圧がふっと消えた。

 そして、いつもの無邪気な顔で俺に語りかける。

 

「じゃあ、頼むね。相棒!」

 

 ……だから相棒じゃないって。

 まあ、不思議と悪い気はしないな。

 ふぅーと吐き、ジェイクとエリシアの前に向き直った。

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