墜ちた空と、知らぬ海
はじめまして。
本作は「現代アメリカ軍の女性兵士が、弘安の役直前の壱岐へタイムスリップする」という歴史×戦記×人間ドラマ作品です。
主人公ステファニー(ステフ)は、蒙古襲来という絶望的戦場で、若き武士・少弐資時と出会います。
史実をベースにしつつ、「もし現代人があの時代にいたら」をテーマに描いていきます。
よろしくお願いします!
機体が、妙に軽かった。
いや――違う。軽いのではない。
何かが、おかしい。
「ステフ、計器見て。回転数が……!」
副操縦士の声がヘッドセット越しに歪む。
「確認中!」
ステファニー・ローレンス――通称ステフは、視線を計器へ滑らせた。
回転数異常。油圧低下。
あり得ない。
つい数分前まで機体は正常だった。
自衛隊との合同演習を終え、帰投するだけのはずだった。
「くそっ……!」
機体が傾く。警報音。
その瞬間。
空が、裂けた。
光が歪み、世界がひび割れる。
「……は?」
音が消えた。
次の瞬間――
衝撃。
冷たい土の感触で目が覚めた。
「……生きてる?」
喉が焼けるように乾いている。
上空ではなく、地面。
機体はない。仲間の気配もない。
空は妙に静かだった。
ステフは身体を起こす。
痛みが走る。
その拍子に視界へ金色が落ちた。
髪だ。
泥に汚れた金髪が、風に揺れている。
(……最悪)
目立ちすぎる。
そのとき。
気配。
複数。
「……誰だ」
即座に腰へ手を伸ばす。
拳銃の冷たい感触。
安全装置を外す。
視線を走らせる。
――不利。
だがやるしかないなら。
草を踏む音。
甲冑の群れ。
刀。
弓。
現代ではあり得ない装備。
(敵か)
引き金に指がかかる。
その瞬間。
前に出た一人がいた。
若い。
十代後半。
まだ少年に見える顔。
だが立ち姿だけは異様に静かだった。
「……異人か」
周囲がざわつく。
ステフは呼吸を整える。
撃てば一人は落ちる。
しかし次で囲まれる。
そのとき。
青年が手を上げた。
「待て」
静かな声。
無駄な威圧がない。
だが戦場慣れした者の声だ。
「言葉は通じるか」
ステフはうなずく。
「通じる」
一瞬の沈黙。
「ここは壱岐だ。名を」
壱岐。
その単語で、頭が警鐘を鳴らす。
(まさか)
「ステフ」
「妙な名だ」
青年はわずかに目を細めた。
「少弐資時という」
その名を聞いた瞬間。
記憶が繋がる。
歴史書の断片。
元寇。
壱岐。
(ここは――)
背筋が冷える。
未来ではなく。
過去だ。
「蒙古か」
誰かが言った。
違う、とステフは即答する。
「違う」
視線が集まる。
「私は別の国から来た」
「どこだ」
一拍。
「西の果ての国」
「西の……果て?」
ざわめき。
「アメリカ」
さらに混乱。
その中で資時が静かに言った。
「蒙古とは別の軍か」
ステフはうなずく。
(通じた)
助かった、ではない。
まだ終わっていない。
むしろ――始まった。
資時が海を見る。
「戦になる」
静かな声。
「ここは壱岐だ」
「退くことはない」
その背中を見て、ステフは理解する。
この人は死ぬ。
知ってしまっている。
それでも――前に立つ。
「資時」
気づけば呼んでいた。
「私は戦える」
一歩踏み出す。
「ここで何が起きるか、少し知ってる」
資時の視線が止まる。
「だから」
ステフは拳を握る。
「力を貸す」
沈黙。
風。
やがて資時は言った。
「……よかろう」
その瞬間。
歴史は、少しだけ軌道を変えた。
第1話を読んでいただきありがとうございます!
ここからステフは、壱岐の戦いへ巻き込まれていきます。
歴史上では若くして散った少弐資時ですが、本作では彼の人間らしさや苦悩も描いていきたいと思っています。
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