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呪いを受けた精霊使い、魔法が効かない剛腕少女と旅をしたら世界がバグりはじめた 〜ゼリアス神話〜  作者: 遠崎カヲル
旅のはじまり

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8/18

巻き込んだのは、俺だ

 カイル・アンリ。

 

 同じ神殿で、同じ時期に腕を磨いた男だった。複数の精霊属性へ適性も持っており、実力は折り紙つきだ。それでも神殿内での評価は常にシュレムの下だった。

 

「久しぶりだな、シュレム」

 

 カイルは軽く笑いながら言った。昔と同じ口調だが目が笑っていない。

 

大神殿サーバーへの所属も期待されていたお前が、追われる身だ。落ちぶれたもんだな」

 

 シュレムは何も言わなかった。

 

「ナタリアも……」

 

 カイルがその名を口にした瞬間、シュレムの表情が変わった。

 

「お前のせいで、ああなったんだろう?」

 

 シュレムの頭の奥で、何かが揺れた。

 

「……やめろ」

 

「違うのか? お前がナタリアを追い詰めた。そして彼女は死んだ。事実だろう」

 

「やめろ……!」

 

 言葉が出た瞬間、体の内側から熱が走った。詠唱もしていないのにゼリニシアへの回線が勝手に開いた。接続が暴れ出す。

 頭の中にノイズが走り、ナタリアの声の断片が意味を持たないまま響いた。

 

「っ……!」

 

 膝に力が入らなくなった。精霊感知環シグナルバンドに目を落とすと、光が消えていた。

 

「クソッ……シグナルが、消えた……!」

 

 圏外であるはずはない。接続が食われている。魔法が使えない。それどころか、体が思うように動かない。

 シュレムは石畳の上に膝をついた。

 

 シュレムの異常を目にしながら、カイルがゆっくりと口を開いた。

 

「……お前は昔から目障りだった」

 

 低い声だった。笑いは消えていた。

 

「神殿でもそうだ。評価されて、期待されて、俺の上に立って。それがお前だった」

 

 一拍、間を置く。

 

「ちょうどいい。この場で始末してやる」

 

 その視線が、まっすぐシュレムに突き刺さる。

 

「カイル様、命令は生け捕りでは……」

 

 部下の一人がカイルにそう確認した。

 

「事故があったのだ」とカイルは答えた。


「激しい抵抗があり、仕方なくだ」

 

 カイルは詠唱を始めた。短く、無駄のない詠唱だった。

 

「リクエストは通った。……コネクト」

 

 カイルのシグナルバンドが赤く輝く。準備を整えたまま、ゆっくりとシュレムに歩み寄った。

 

 シュレムは動けなかった。立ち上がろうとして、膝が崩れた。呪いが内側から暴れていて、精霊との接続が乱れたまま収まらない。魔法は使えず、体も動かない。

 

 シュレムはサリエナを見た。

 サリエナは、二人のやりとりをただ見つめていた。表情は変わらず、感情は読み取れなかった。

 

「……巻き込んで、悪かったな」

 

 声が掠れた。

 

「お前は無関係だ。逃げろ」

 

 シュレムはそう言うと、苦しそうにして、視線を地面に落とした。

 カイルが嗤った。

 

「エリート精霊使いの最後だなあ」

 

 一歩、近づく。

 

「無様に死ねよ、シュレム」

 

 その瞬間だった。

 

 サリエナが、一歩前に出た。

 シュレムとカイルの間に、静かに立った。

 

 全員が、止まった。カイルも、部下たちも、シュレムも、誰も言葉を発せない。山道に、奇妙な沈黙が広がった。

 

 サリエナは、ただ立っていた。シュレムとカイルの間に、何の気負いもなく。大きな荷物を背負ったまま、大剣を鞘に収めたまま、ただそこに立っている。

 カイルが、サリエナを見た。

 

「……なんだ、娘。邪魔をするな」

 

「だめ」

 

 サリエナは短く答えた。少し間を置いてから、続けた。

 

「……この人、いい人だから」

 

 カイルの口元が、わずかに歪んだ。

 

「そいつは罪人だぞ」と言った。「禁術に触れ、神殿から罪を言い渡されている。そういう男だ」

 

「……そう」

 

 サリエナは少し考えてから答えた。それから、何も変わらない口調で、ぽつりと言った。

 

「知らんけど」

 

 部下たちがざわついた。カイルは一瞬だけ表情を固め、それからゆっくりと笑った。

 

「……は」

 

 嘲るような笑いだった。

 

「お前も一緒に死ぬか?」

 

 カイルは一歩近づくと、憐れむような視線をサリエナに向けた。

 

「お前に何ができる。その背中の大剣も、使いこなせるとは思えんがな」

 

 完全に舐めた口調でそう言った。

 

 サリエナは静かに荷物を下ろすと、大剣の柄に手をかけた。刃の長さが彼女の背丈に迫り、厚みもある大剣。

 だが、サリエナは体勢を変えることもなく、そのまま鞘から引き抜いた。

 

 片手で。

 

「……は?」

 

 部下の誰かが声を漏らした。サリエナは、その細い腕一本で、大剣を構えた。刃が夕暮れの光を受けて鈍く光る。

 

「あれ、両手剣じゃないのか?」

「片手で持てるか? あれ」

 

 部下たちが口々にざわめく。しかしカイルは落ち着いた様子で鼻を鳴らし、「ハリボテか」とつぶやいた。

 

「邪魔だ。どけ」

 

 カイルは表情を変えずに言った。

 

 サリエナは動かなかった。ただ立ち、大剣を片手に構えたまま、カイルを見ていた。

 カイルの目が、細くなった。

 

「ならば——」

 

 静かに言った。

 

「一緒に死ね」

 

 カイルは手のひらを上に向けた。

 

「コマンド——爆裂火球を生成。俺の手のひらで待機。出力は大」

 

 手のひらに炎が集まり始めた。炎が渦を巻いて膨張し、球体を形づくる。巨大な火球が、カイルの手の上で形を成した。

 

(まずい!)

 

 シュレムは体を起こそうとした。しかし呪いが暴れていて思うように動けない。足は動かず、腕に力も入らない。魔法も使えない。それでも、なお動こうとした。

 

 だが、間に合わない。

 

 サリエナを、巻き込んでしまった。あの夜、サリエナを見捨てることはできなかった。

腹を空かせて倒れたあの姿を、放っておくことなどできなかった。だから、サリエナはここにいる。

 

 だから――サリエナを巻き込んだ。

 

 関わらなければよかったのかもしれない。あのとき、距離を置いていればよかったのかもしれない。そんな後悔が、今さらのように胸を締めつける。

 

 ――サリエナを巻き込んだのは、自分だ。

 

(すまない……)

 

 シュレムは、心の中で謝ることしかできなかった。

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