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呪いを受けた精霊使い、魔法が効かない剛腕少女と旅をしたら世界がバグりはじめた 〜ゼリアス神話〜  作者: 遠崎カヲル
旅のはじまり

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語られる世界

これは実質、物語のプロローグです。

お読みいただくと、第3話以降をよりお楽しみいただけます。

飛ばしていただいても話はつながります。

 神殿の一室に、子どもたちが集められていた。


 石造りの壁が四方を囲い、天井からいくつもの精霊灯がぶら下がっている。

 並んだ木の椅子に二十人ほどが座っているが、静かにしている子はほとんどいない。

 隣に話しかける子、足をぶらぶらさせる子、前の背中を指で突いて睨まれる子。

 落ち着きのないざわめきが、部屋いっぱいに広がっていた。


 前方の扉から、ひとりの神官が入ってきた。


 銀に近い長い髪。その髪の間から覗く耳は長く、先端がすっと尖っている。

 彼は一段高い演壇に立ち、両手を体の前で重ねたまま、静かに子どもたちを見渡した。


 それだけで、ざわつきがすっと収まる。誰も「静かにしろ」とは言っていない。

 ただ、その存在が前にあるだけで、部屋の空気が変わった。


 子どもたちは自然と姿勢を正した。そんな中、ひとりの子が物おじせずに声を上げた。


「ねえ、二百歳も生きてるって本当?」


 髪に癖のある小柄な子どもで、椅子の上で片膝を立てている。周りの視線を受けても、気にした様子はない。


 神官は少しだけ目を細めた。


「正確には、二百三十九歳だ」


 とたんに、広間がざわめいた。


「うちのじいちゃんより全然長生きだ」

「ほんとに?」

「すごい」


 たくさんの声が重なるが、神官は特に表情を変えなかった。


「なんでそんなに長生きなの?」


 別の子が聞いた。


「創世神ゼリアが、我々エルヴスに長い寿命を与えたからだ」


 神官は静かに答えた。


「僕たちヒュームスとエルヴスは何が違うの?」


 さらに別の子が尋ねた。


 神官は目を閉じて一瞬の間を置いた。


「いい質問だね。あなたたちヒュームスは、世界の中で生き、変化する存在だ。しかし、変化だけでは世界は壊れてしまう」


 神官はゆっくりと目を開いた。


「我々エルヴスは秩序を重んじる。だから、世界が壊れないよう維持する役割を持っている」


 神官は一度、子どもたちを見渡した。


「創世神ゼリアが、そういうふうに私たちを創ったのだ。今日は世界の創世の話をしよう」


 その言葉に、子どもたちは黙って姿勢を正した。




 神官の声は抑揚が少なく、しかしよく通った。


「大昔、この世界は混沌としていて、形も秩序もありませんでした。そこへ創世神ゼリアが現れ、世界を整えました。大地を固め、空を分け、水を流し、精霊を生みました」


 何人かの子供が前のめりになったが、皆静かに聞き入っている。


「しかし同時に破壊神ゼリスも存在していました。ゼリスは変化と混乱をもたらす力を持っていました。ゼリアが整えたものを、ことごとく崩そうとしたのです」


 「こわい」と誰かが小声で言うのが聞こえた。何人かの子供も震えながらうなずいた。


「ゼリアはゼリスと戦い、そしてゼリスを封印しました。その後、世界の秩序を乱さぬよう神殿が築かれ、我々エルヴスがその管理を任されることとなったのです」


 神官は、わずかに間を置いた。


「それ以来、世界は安定しているのです。精霊が働き、神殿が管理し、人々が生きています。今あなたたちがここにいるのも、その秩序の上にあるのです」


 子どもたちの表情がやわらいでいく。



 そのとき、後ろの席でサッと手が上がった。最初に年齢を聞いた子どもだった。


「ねえ、ゼリスって……封印しなかったら、どうなってたの?」


 その瞬間、ざわつきが止まった。他の子たちも同じ疑問を持ったように顔を上げる。

 子供たちの視線がエルヴスの神官へと集まった。


 神官は、すぐに答えなかった。


 ほんの一瞬の、間。


 精霊灯の炎が、風もないのに揺れ、光が細くなり、またすぐに戻った。

 子どもたちは不安そうに天井を見上げた。


 神官は、一度だけ目を伏せ、すぐにもとに戻した。


「……ゼリスはちゃんと封印されている。心配などどこにもない」


 その言葉を聞くと、子どもたちは安心した顔で、椅子に背を預けた。


 神官は語りを続けた。

 精霊の役割、神殿の意味、日々の暮らしがいかに守られているか。

 言葉は正確で、過不足なく子どもたちに伝えられていく。


 子どもたちは聞き、頷いた。それでよかった。




 語りが終わった事が告げられると、子どもたちはすぐに騒がしくなった。

 廊下に出た途端、誰かが走り出し、笑い声が上がる。神話の話など、もう頭にないようだ。


 神官は一人、部屋に残った。


 彼は、知っている。

 ゼリスが単純な悪ではないかもしれないこと。この世界が完全な秩序の上にあるわけではないこと。封印された力が歪んだ形で使われていること。

 そして、その歪みが、どこかに積もり続けていることを。


 だが、子どもたちは安心した顔で帰っていった。それで十分だった。


 問いは、広がってはならない。

 無邪気な問いでも、正しい場所に届けば何かが崩れる。

 小さな石ひとつで、秩序が崩れることもある。秩序とはそういうものだ。


 神殿として、エルヴスとして、すべてを伝えないことは正しい判断だった。


 それでも神官は、しばらく動かなかった。

 誰もいなくなった広間で、静かに呟く。


「我々は、この世界の維持管理者オペレーターだ」


 窓の外、神殿の尖塔が夕空に伸びていた。


世界システムを、正常に稼働し続けなければならない」


 守られた世界ではない。維持され続けなければならない世界だ。


 精霊灯が、また一度だけ、揺れた。




———————————————

※作者のひとことまとめ

1.創世神ゼリアが世界をつくり、破壊神ゼリスと戦って封印した

2.エルブス=エルフみたいなもので、世界の管理者

3.ヒュームス=人間

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