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呪いを受けた精霊使い、魔法が効かない剛腕少女と旅をしたら世界がバグりはじめた 〜ゼリアス神話〜  作者: 遠崎カヲル
旅のはじまり

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14/15

刻まれた死の呪い

 禁術使用の現行犯。

 その夜のうちに、シュレムは拘束された。異例の速さだった。

 

 牢獄は神殿の地下にあった。石造りの壁に小さな明かり取りの窓が一つ。精霊感知を展開しようとしたが、接続が通らない。

 この区画は遮断されており、魔法は使えないようだ。

 

 シュレムは壁に背を預け、膝を抱えた。胸の奥に残る鈍い痛みが、消えない。

 禁術の代償だとはわかっていたが、それが何をもたらすのかはまだわからない。

 

 夜が深くなった頃、それは来た。

 痛みが一気に鋭くなる。息が詰まり、視界が歪み、身体が壁を伝って崩れ落ちた。

 

 頭の中にナタリアの声が響く。言葉にはならない断片が、波のように押し寄せてきた。

 シュレムは床に転がったまま、歯を食いしばった。抵抗しようとしたが、何に抵抗すればいいのかわからない。ただ、やり過ごすしかなかった。

 

 やがて、波が引いた。全身が汗で濡れている。天井を見上げたまま、動けなかった。

 これが続くのか。これが代償か。

 

 翌日から、シュレムが受けた代償の解析が始まった。神官や研究者が何度も来て、そのたびに難しい顔をして帰っていく。それが何日も続いた。

 



 ある日、扉の向こうに足音がした。目を向けると、一人のエルヴスが立っていた。長い銀髪を一つに束ね、感情の読めない目でこちらを見下ろしている。

 

「……エルセリスか」

 

 シュレムは小さく息を吐いた。

 

「直属の上司であるあんたが来てくれて、嬉しいよ」

 

 皮肉めいた口調でそう言った。

 

「お前の症状は確認している」

 

 エルセリスは、答えた。シュレムは何も言わなかった。

 

「お前が受けたのは、禁術の代償による死の呪いだ」

 

 エルセリスは淡々と続けた。

 

「いずれ命を燃やし尽くす。進行の速さは個体差がある。いつとは言えない」

 

 エルセリスは一瞬だけ視線を外し、すぐに戻した。

 

「……それだけか」

 

「判明していることはそれだけだ」

 

 言い淀みはなかった。だが、何かを隠しているようにも見えた。

 

「状況は把握している。頼みがあるなら聞く」

 

「だったら話が早い」

 

 シュレムは立ち上がった。

 

「ナタリアの死を調査してくれ。あれは自死じゃない。何かがおかしい。証言も証拠も揃いすぎている。俺には——」

 

「グランベル」

 

 エルセリスが遮った。

 

「我々は感情では動かない。証拠に基づいて判断する。それだけだ」

 

「正しい判断?」

 

 シュレムは柵を掴んだ。

 

「ヴェリタスの瞳で嘘なしと判定された証言が積み上がって、それで正しいと言うのか」


声に力がこもる。


「でもおかしいんだ。あの夜、ナタリアの目が——あれはナタリアの目じゃなかった。三年間毎日顔を見てきた俺が言ってる。証拠じゃないのはわかってる。でも、頼む。もう一度だけ調べてくれ」

 

 エルセリスはしばらくシュレムを見ていた。

 

「お前の感覚は理解する」

 

「じゃあ——」

 

「しかし採用しない」

 

 静かな声だった。

 

「感覚は証拠にならない。例外は認めない。それが崩れれば、すべてが崩れる」

 

 シュレムは何も言えなかった。

 

「惜しいと思っている」

 

 エルセリスは続けた。

 

「お前は優秀だった。それは事実だ。だが、それと今回の判定は別だ」

 

 足音が遠ざかった。シュレムは壁に背を預けた。

 

(惜しい、か。)

 

 胸の痛みがまた強くなった。

 


 

 次に足音が聞こえたのは半日後だった。現れたのはカイルだった。

 

「やあ、シュレム」

 

 軽い声だが、目は笑っていない。

 

「ついに落ちたな。あれだけ上にいたのに」

 

 柵に手をかけ、値踏みするようにシュレムを見た。

 

「禁術使用は重罪だ。大した末路だな。俺はずっと思ってたんだよ、お前みたいな奴がいつまでも上にいられるわけがないって」

 

 シュレムは何も言わない。

 

「婚約者には逃げられて、禁術に手を出して、神殿に捕まって。笑えるだろ」

 

 カイルは笑った。

 

「まあ、地下で朽ちてろ」

 

 足音が遠ざかる。シュレムは怒ることもなく、壁を見つめたまま動かなかった。

 裁判の日取りが決まったのは三日後だった。

 

 


 裁定室への廊下を歩きながら、シュレムは妙に落ち着いていた。

 怒りも恐れもなく、ただおかしいと感じていた。何がおかしいのかは言葉にならないが、その違和感だけは消えなかった。

 証言も証拠も揃っていて、判定も出ている。それでも、おかしい。ナタリアの目が頭から離れない。

 

 裁定室の扉が開いた。天井が高く、証人席が整然と並んでいる。その奥に三人の裁定官が座っていた。

 

 シュレムは壇の前に立たされた。

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