これまでのあらすじ
※第9話までのあらすじです。不要な方は飛ばしてください。
この世界は、精霊によって維持されている。
火、水、風、地。四つの精霊が大神殿に安置され、そこから各地の支部神殿へと力が届き、街の灯りも水道も結界もすべて動いている。
人々はその恩恵の上に生き、神殿がそれを管理する。創世神ゼリアが世界を整え、破壊神ゼリスを封印した。それが神話であり、秩序だ。
しかし神殿のエルヴスは知っている。守られた世界ではなく、維持され続けなければならない世界だということを。
シュレム・グランベルは火の神殿に所属する精霊使いだった。将来を嘱望されたその男が、ある夜すべてを失った。
婚約者のナタリアが自死で発見され、禁術使用の罪で有罪となり、神殿を追われた。証言はすべて真実と判定され、裁定は完璧に成立していた。
おかしい、という感覚だけが消えなかった。
呪いを抱えたまま逃げ続けている。突然体が動かなくなり、精霊接続が暴れ出し、ナタリアの声の断片が頭の中に響く。真実を暴く。それだけを抱えて。
サリエナ・ローレンスは父を看取り、一言残して旅に出た。
「……父さん、わたしも、いくね」
なぜ旅に出たのか、どこへ向かうのか、彼女は何も語らない。
夜の森でシュレムはサリエナと出会った。
腹を空かせて倒れた少女に食料を渡し、対人結界を張って休もうとしたところ、少女は結界をすり抜けて「おやすみ」と言った。
結界に異常はなかった。理解できないまま、翌朝には同行が決まっていた。
旅をしながら、シュレムは世界の仕組みを説明した。精霊魔法はシグナルがなければ使えない。
街は支部神殿を中心に成立し、そこから力が届いている。しかしサリエナはほとんど理解せず、ただ「わからない」と答えた。
異変はすでに始まっていた。街灯がちらつき、結界が正常なのに魔獣が侵入し、精霊反応が局所的に断絶する。
どれも単体では説明がつく。しかし、重なっている。
「……続いてるな。しかも……質が変わってる」
そして神殿の追手が現れた。かつての同期、カイル・アンリ。
カイルはナタリアの名を出してシュレムを揺さぶった。呪いが発動し、シグナルが消え、体が動かなくなった。
魔法も使えない。「無様に死ねよ」とカイルが言い、爆裂火球が放たれた。
その瞬間、サリエナが前に出た。
火球は手を一振りするだけで軌道を逸れ、消えた。サリエナは詠唱もせず、精霊とも接続していない。
それでも異常な跳躍で炎をかわし、大剣を地面へ叩きつけて追手全員を吹き飛ばした。魔法ではない。理解の外にある力だった。
カイルは「撤退」を叫んで転移水晶で消えた。
サリエナが振り返った。
「……おわったよ」
シュレムは、何も言えなかった。




