第44話 side 鳳泉(那雉)
ほとんどの生物が有限の寿命を持つ中で、自分と麒麟、竜、霊亀は不老不死の霊獣として崇められていた。
四人はそれぞれ自分の好きに生きており、たまに話をしたりする程度の付き合いだった。
序列があるわけではなかったが、自分が一番年若く霊位的にも何となく下の方に位置している気はしていた。
霊亀の亀稜は類を見ないほど自分勝手で、迷惑をこうむることも多くはっきり言って苦手だった。
麒麟の光麒は外見も内面もオスの自分から見ても格好よくいい男だったが、完璧主義的なところがあり、鳳泉にもそれは良くない、あれはこうしろなど口を出してくるのが煙たくて、ずっと側にいたいとは思わなかった。
竜の龍将は雰囲気は光麒に似ていたが、程よく力が抜けてだらけたところもあり、一番一緒にいて楽だった。鳳泉の中で、龍将だけは親しい友人だと認識していた。
そんなある日、亀稜がやってきて勝手に雑談を始めた。
早く帰ってくれないかなと思いながら話を適当に聞いていたら、話題が龍将のことになった。
「そういえば、龍将が君の悪口を言っていたよ。自分の後をべったり着いてきてうっとおしいって。あんまり近寄らない方がいいんじゃない?」
鳳泉は茫然とした。
「本当に龍将がそんなことを言ったのか?」
「ああ。」
亀稜の言葉に全身の血が沸騰するような怒りを感じた。
「くそ龍将め。」
鳳泉は怒りにまかせて鳳凰に変化し龍将の元へと飛んで行った。
それを見て亀稜がつぶやいた。
「ほんと長く生きている霊獣とは思えない単純なやつだな。彼、予想以上に怒ってるみたいだし鳳凰が本気で竜に攻撃したらどうなるんだろう。楽しみだなあ。」
これから起こるであろう霊獣同士の喧嘩にウキウキしながら鳳泉の後を追いかけた。
一方、その頃龍将は一人でボーっと霊泉で釣りをしていた。
全く釣れず暇すぎて眠りかけていたところ、突然ものすごい殺気と共に、高濃度の霊力が込められた攻撃が自分に襲い掛かってくるのを感じた。とっさに防御とありったけの霊力を込め攻撃を返した。手加減など出来るはずもない。
お互いの霊力がぶつかった直後、あっけなく勝敗がついた。
鳳泉は龍将の攻撃を真正面から受け、霊力のほとんどを吹き飛ばされた。鳳凰の形を保つのも難しく、身体が縮んでいくのを感じた。
「鳳泉!なぜこんな攻撃をしてきた?」
龍将が驚きと怒りが混ざったような複雑な表情で尋ねてきた。
瀕死の中、鳳泉は涙ながらに反論した。
「お前が初めに俺のこと嫌いだって、鬱陶しいから消えて欲しいって言ったんだろ!俺はお前のこと友達だと思っていたのに・・・。」
「は?そんなこと言った覚えはないぞ。誰から聞いたんだ?」
「亀稜から。」
「・・・。」
龍将は無言になり、しゃがみ込むと鳳泉の身体に手を当てた。
そこから温かい霊力が入ってきて痛みが少しずつ和らいでいく。
「お前な。これから亀稜の言うことは9割から10割嘘だと思って聞いておけ。少なくとも俺に関する話だったら怒る前に俺本人に確認してからにしろ。わかったか?」
鳳泉は頷いた。その時初めて亀稜に騙されたと気付いた。
「よし、これで取り合えず消滅したりはしないはずだ。数百年して霊力が戻ったら姿も元に戻るだろう。」
そう言って龍将は小さくなった鳳泉をしげしげと見ていた。
「なんかほっとくと鷹とかに食われそうだな。帝国の皇宮にでも入れておくか。」
鳳泉を両手でつつみ込むように持ち上げた。
「このなりで鳳も無いな。そうだな・・・よし、雉みたいだし皇宮では那雉と呼ばせよう。」
こうして 鳳泉は竜王の眷属として龍華帝国の皇宮で飼われることとなったのだ。
鳳泉改め那雉は初めこそ屈辱的に感じたものの、慣れてくると周囲に常に人が居ることで寂しいと思うことが無くなった。皇宮内で繰り広げられる様々な愛憎劇を眺めるのも面白かった。
数百年限定ならいいか。
もともと細かいことを気にしない方だったので、間もなく皇宮の神鳥ポジションを満喫するようになった。
そんなある日、普段あまり関りをもってこない皇帝・明誠が那雉を呼び出した。
「那雉。皇宮の外で生まれた私の娘に竜珠が引き継がれたんだ。」
皇宮内が騒然としていたので、それはすでに那雉も知っていた。
「娘が刺客に襲われて行方不明になってしまったんだ。君は竜珠と共鳴できるだろう?娘を探し出してくれないか?」
初めその話を聞いた時、いくら共鳴できるとはいえこの広大な帝国で会ったこともない人間一人を探すのは大変な労力だと思った。そもそも何故鳳凰が明誠の言うことを聞かねばならないのだと反感すら持った。
「彼女はね、私が昔とても愛した人の娘なんだよ。短い時間だったけど彼女と過ごした日々は私の人生で一番輝いていた時だったんだ。皇帝になって忙しさに忙殺され、彼女と会ったのは夢だったんじゃないかって思い始めていたんだけど、今回あれが現実だったと再び喜びを噛みしめていたんだ。」
明誠は一旦そこで言葉を切って水を口に含んだ。その表情は昔を思い出しているのか穏やかなものだった。
「死ぬ前に一目娘に、彼女の忘れ形見に会いたいんだ。私はこんな身体になってしまって、立場もあるから自分から会いには行けない。娘は今まで放っておかれた私に会いたくないかもしれないし、彼女がここに来る前に私が死んでしまうかもしれない。でも、その存在を知ってしまったからには一目会いたいという思いが止められないんだ。那雉、私の人生最後の願いをきいてくれないか?」
くそ!そんな頼まれ方されたら断れないじゃないか。
内心毒づきながら「チチ」と了承の鳴き声をあげた。
「ありがとう。」
それまで見たことのない嬉しそうな笑顔で明誠は礼を言った。
そうして皇宮を飛び立ったのは良かったが、竜珠の気配を探ろうとすると、どうしても明誠の方に感覚が引き寄せられる。まだ、竜珠のほとんどが明誠の中にあるからだ。娘の中の竜珠はごくわずかで、どこらへんにいるのか竜安からは察知出来なかった。
「とりあえず、北都州からこっちに来る陸路を逆流して飛んでみるか。」
そうして南都州辺りに来た時、わずかな竜珠の気配を感じた。
「こっちか。」
発見した娘は龍聖だからか25歳にしては小さく、見た目は12,3歳の女の子だった。
将来、美人になりそうだな。
それが明蘭を見た初めての感想だった。
「んっ?なんだあ。同族を食うなって抗議してんのか?」
娘の側にいた鶏の串焼きを持った若い男が那雉に反応してきた。
なんだこのガラの悪い頭の悪そうな男は。
そうして彼をかわし娘の肩にとまった時、衝撃を受けた。肩から自分の方に流れてくる清涼で心地よい霊力に一瞬我を忘れそうになった。
その後二人と旅をするようになり、那雉は今まで体験したことのない充実した日々を送ることとなった。
そして初めの印象が悪かった桂申は、実はとてもいいヤツだった。
龍将は自分より年長で、那雉のことを弟的な位置でみており話をしていても対等という感じが無かった。
それに対し、桂申は上も下もない那雉と同じ位置にいた。
友達ってこんな感じなのかな?
龍将にも感じたことの無い親しみをどんどん桂申に感じるようになっていった。
途中狼のチビを拾ったり色々あり、今まで一人で過ごす単調な日々と比べて刺激的で楽しい旅で、竜安に着くころには旅が終わることを残念に思うくらいになっていた。
旅を終えて三人は皇宮で生活することになった。
明蘭とは長い付き合いになるだろうと思った。
そして今まで他の生き物には一度も思ったことがなかった死なないでほしい、ずっと生きて自分と過ごして欲しいという思いを桂申に抱いていた。
頭の中ではそれは不可能だと分かっているが、桂申が死んだらきっと自分は悲しいと感じるだろうと思った。
そう感じる自分は旅をする前の自分とは少し違っていて、そんな自分が前より好きかもしれないと那雉は思ったのだった。




