第37話 東江 再会①
トントン
朝早くから家の戸をノックする音がして、玄太はやや眠そうに建付けの悪い扉を開いた。そこには思いがけない人物が立っていて、思わず眠気も吹き飛んだ。
「狼牙!お前、久しぶりだな!3か月、いや4か月ぶりか?まあ、いいや。長い間見なかったけど、どうしてたんだ?東江にいたのか?メイは?なんか前より小綺麗な恰好してるな。いい仕事でもあったのか?」
質問の嵐に狼牙はタジタジしながら答えた。
「あの後すぐに竜安から来たメイの迎えと合流できたから一緒に竜安に行ってたんだ。」
「なんだ、そうだったのか。あの時は俺から誘っておいておきざりにして、さすがに悪かったと思って、次会ったら屋台のお菓子でもおごろうかと思って探してたんだ。あとメイが財布をうちに忘れていったから返そうと思ってて。」
「屋台のお菓子?」
狼牙は目をキラキラさせた。まだ子供なのでお菓子とかそういった言葉に弱いのだ。
「メイも東江に居るんだったら、今度一緒に行こうぜ。」
明蘭の名前を聞いて、狼牙は自分の仕事を思い出した。
「あ、そうだ。今、大志は中にいる?」
「大志兄ちゃん?今はいないけど、たぶん半刻くらいで帰って来るはずだ。」
「半刻か・・・、中で待たせてもらってもいいかな?」
「いいけど、狭いぞ。」
狭いのは知ってるけど、と思いながら中に入ると中には狼牙と同じくらいの7,8歳の小さい子供から15歳くらいまでの子供が数人わらわらとたむろっていた。食事をしている者、カードゲームをしている者、談笑している者、奥で寝ている者・・・。
前回訪れた時は誰もいなかったのでもう少し広かったように感じた。
確かにこれは狭いかも・・・。
狼牙がびっくりして固まっていたら、中の子供達がいっせいにこちらを見てきた。
「玄太。そいつ誰?」
「わあー、獣人の子供だ!犬?狐?」
「あ、お前それ俺の肉だぞ。どさくさに紛れて盗るなよ!」
各々が好きにしゃべって、さらに混沌としてきた。
「こいつは狼牙。狼の獣人だ。前に仕事で一緒になって仲良くなったんだ。」
「あー、そういえば前に言ってたな。すっごい綺麗な子と狼の子が遊びに来たって。」
「そうそう。それだ。」
「玄太に会いに来たのか?」
いきなり自分に質問をふられて、狼牙はおっかなびっくり答えた。
「あ、うん。それと大志に。」
「メイはどうしたんだ?」
玄太に聞かれて歯切れ悪く狼牙が答えた。
「あー、えーっと。メイは東江の屋敷に居て・・・。」
「メイも来たらいいのに。みんなびっくりするぞ。すっげえ綺麗だから。」
ガチャ
その時、家の戸が開かれ大志が中に入ってきた。
「どうした?朝からえらくにぎやかだな。外まで声が聞こえてた。」
「大志兄ちゃん!狼牙が遊びに来てるんだ!」
「ろうが?」
玄太の言葉に、大志は狼牙の方を見た。
「ああ、あの時の・・・。すごい久しぶりだが、どうしたんだ?」
「あ、あの・・・お久しぶりです。えっと、あの、大志と玄太に来てほしくて・・・。」
緊張でもごもごどもりながら狼牙は要件を告げた。
「来て欲しいって、どこに?」
大志の問いに狼牙は小さな声で答えた。
「メイの家。」
「メイの家って、竜安じゃないのか?」
玄太に聞かれ、狼牙は言いなおした。
「東江にあるメイの家。」
「俺と玄太がメイの家に行けばいいのか?東江のどこ辺りだ?」
「どこって・・・どこだろう?」
要領を得ない狼牙の答えに大志は一瞬顔をしかめたが、さすがに小さな子供の世話をずっとしているだけあって、子供の扱いには慣れていた。
「お前、そんなので屋敷まで案内できるのか?」
「階段坂の下辺りで馬車が待ってる。」
「馬車っ!」
玄太が叫んだ。
「俺らもそれに乗っていいのか?」
狼牙は頷いた。
玄太は期待に満ちた表情で大志を見た。
大志はしばらく考えていたが、自分の方を心配そうにじっと見つめてくる狼牙と目があってため息をついた。
「わかった。行ってやるよ。」
坂の下に着くと、そこにはさほど大きくはないが黒塗りの豪奢な馬車がとまっていた。
晶岳ではお目にかかることの無い豪華な馬車は人目を引いており、皆がじろじろと眺めていた。
「わあ、すげえ!」
玄太は純粋に驚き、その馬車に乗れることを喜んでいたが、東江では黒塗りの馬車が一部の高位貴族にしか使用を許されていないことを知っていた大志は、馬車を見て不安に襲われた。
別に法に触れるようなことはしてないよな。まさか家の誰かがなんかやばいことをやったとか・・・。
「こっちだよ。」
狼牙に促されて二人は馬車に乗り込んだ。
馬車の中には護衛風のいかつい男性が一人いて、小汚い二人を見て顔をしかめたが何も言わなかった。
その男性が妙な威圧感を放っており、おしゃべりな玄太も何となく話しづらかったのか静かにしていた。
沈黙がつらくなったのか、狼牙が閉められていた小窓をあけた。
「ここから外が見れるんだよ。」
二人は狼牙に倣って、小窓を開け外を見てみた。
いつも通っている街並みのはずなのに、馬車から見る景色はいつもと違って見えて二人はずっと外を見ていた。
やがて馬車は東江の中心街まで来て、ひと際大きな屋敷に入っていった。




