表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山奥出身ですが皇帝の跡継ぎに選ばれたので王都に旅に出ることになりました  作者: らな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/45

第33話 side 陽誠 

 皇帝の第四子として生まれた陽誠は、物心がついた時からずっと母に溺愛されていた。

 母は宰相の娘で皇帝の第一妃であり、皇宮での権力は確固たるものであった。幼少時より手に入らないものはなく、我儘や傲慢なふるまいも許された。

 母やその取り巻きの貴族や女官は、陽誠の言いなりで逆らったり、諫めたりする者もいなかった。


 父はこちらから話しかけると無視するわけでもなく反応はしてくれるが、陽誠に興味がないのか積極的に向こうから話しかけてきたり、関わってきたりすることは決して無かった。

 そんな中で、唯一陽誠に正面から向き合って接してくれたのが兄の泰誠だった。陽誠の言いなりになるわけではなく時には駄目なことを諫めたり、時には良く出来たと褒めてくれたり、陽誠にとって年の離れた兄は疎遠な父の代わりになる存在だった。


 勉強は教師についたが、行詰った時にはアドバイスをくれたり、剣も乗馬も初めては全て兄に教わった。

 盲目的に溺愛してくる母が嫌いなわけではなかったが、陽誠自身のことを考えて接してくれる兄に対しては尊敬と大きな思慕の念を抱いていた。


 母は陽誠を溺愛する反面、泰誠には比較的素っ気ない態度を取ることが多かった。陽誠が物心ついた頃には兄はかなり大きかったので、そのせいかと思いつつも違和感を感じることもあった。

 そのくせ、皇帝になるのは泰誠だと断定するようなこと繰り返し繰り返し、幼少時より陽誠に語り続けた。 

 優秀で尊敬する兄が皇帝になることに反対など無い。陽誠自身、兄が皇帝になり自分がそれを兄弟として支えていくことを当然のことと思っていた。


 ある日、父の側近の一人が息を切らして自分の元に来た。

 「陛下がお倒れになられ、竜珠の欠損が始まりました。」

 陽誠はあわてて自身を鏡で見て竜珠が継承されていないことを確認し、ひとまずホッとした。

 そして、もうすぐ兄が皇帝になるという期待感と、万が一他の兄弟が継承していたらという僅かな不安を抱えながら父のもとへと急いだ。


 「陽誠」

 その途中、頼誠に呼び止められた。

 「頼誠兄上」

 会ってまず、お互いの目を見た。

 自分の目を見た時よりも緊張した。泰誠でなければ、この頼誠が次に竜珠に選ばれる可能性が最も高いと考えていたからだ。

 頼誠ではない。それを確認するとじわじわと喜びが沸き上がってきた。


 「あらあ。やっぱりあなた達じゃなかったのね。予想通り泰誠お兄さまで決まりね。」

 横からのん気そうな姉の声が聞こえた。


 兄上に確定だ!


 うきうきした気持ちで足取りも軽く父の元へと向かった。


 父の寝室に到着した時、泰誠はすでに父の寝台の傍に立っていた。

 嬉しそうな様子はなく、難しい顔をしていた。

 その表情に違和感を覚えつつ、まあ父上が死にかけてるし嬉しそうにはできないかと思ったが。


 「みんな揃ったか。誰に竜珠が継承されたんだ?」

 泰誠がまさかの質問をしてきた。


 「「「えっ?」」」

 三人の声が揃った。

 「兄上じゃ、ないんですか?」

 頼誠が尋ねた。

 「私じゃない。お前たちの誰かじゃないのか?」

 「・・・・。」

 

 部屋にいたすべての者が凍りついた。

 しばらくの沈黙の後、泰誠が口を開いた。

 「父上が目覚められたら問いただす必要がありそうだな。」

 皇帝は声掛けにも反応せず、今は安静にさせた方がいいとの侍医の言葉に一旦解散することになった。

 「先生。父上が目覚められて会話ができるようなら直ちに私たちに教えて下さい。」

 泰誠が侍医にそう言い四人は部屋を出た。


 四人とも部屋を出てから誰も口をきかなかった。自分たちに第五の兄弟がいる可能性とそれが誰も知らない人物だという衝撃が大きすぎたのだ。


 陽誠の中ではどす黒い思いが渦巻いていた。

 第五の兄弟?ふざけるな。皇帝になるのは兄上だ。


 その後、目覚めた皇帝から聞いた内容に皆驚きつつ、それぞれの思いで動いていくこととなる。 


 その後、北寧の知事の弟を使って宝珠を始末しようとした。

 それが失敗に終わり内心焦っていた時にたまたま東江の屋敷に宝珠の方から現れた。


 陽誠が初めて明蘭を目にしたのはその屋敷でだった。その時、離れた距離から見た時も薄汚い恰好をしていてもきれいな子供だと思った。

 自分より幼く見えるその子供を殺ることに一瞬ためらう気持ちが生じなくもなかったが、兄を皇帝にするという目的のためその気持ちに蓋をした。

 

 結局、東江での襲撃は二回とも不発に終わり、その後すぐに宝珠は兄達に保護されることとなった。


 彼らとは別に竜安に戻った陽誠はこの上なく焦っていた。

 竜珠があの子供に完全に継承されてしまったら、兄が皇帝になる可能性が永遠になくなってしまう。

 真面目な兄はあの子供をしっかり守護するだろうし、ますます機会が難しくなる。


 そんな折、相談したいことがあり夜間に母の部屋を訪れた時に、中から母が誰か男性と話をしている声が聞こえてきた。


 皇帝の妃がこのような時間に自分の部屋に男を招き入れるなど由々しきことである。

 陽誠は眉をひそめ、母に注意しようと中に入ろうとした。


 「ああ、雪花会いたかった。」

 「陽春ようしゅん、私も・・・。」

 「陛下が倒れられて、ずっと皇宮が大変だと聞いていたが元気そうでよかった。陛下の体調などの情報漏洩を防ぐためか警備が厳しくなったから、なかなかここに来ることが出来なかったんだ。」

 「私も陽誠も元気よ。あの子、最近急に背が伸びて少しだけ男らしくなってきたの。鼻から口元にかけてあなたにそっくりになってきたのよ。」

 「そうか。二人とも元気だと聞いて安心したよ。」


 えっ?今、母は何と言った?


 あなたにそっくり?


 陽誠はそのままそっと扉から離れ、自分の部屋へと戻った。

 帰り道どう帰ったか記憶にない程の衝撃だった。

 部屋に戻り、寝台に横になり少し落ち着いてから先ほどの母の言葉を反芻してみた。


 僕は母とあの男の子どもということか。


 思えば、腑に落ちることが沢山あった。母が泰誠より陽誠を溺愛すること、次期皇帝は泰誠だとしつこいくらい言い聞かされたこと、父が自分に素っ気なかったこと。母が実兄を皇帝にと言っていたのは微妙な陽誠の立場をより安全なものにする目的もあったのだろう。


 直感で兄はこの事実を知らないだろうと思った。

 父は知っていて黙っている。おそらく母の実家と揉めたくなかったのだろう。


 自分の足元がグラグラと崩れ落ちるような気がした。

 

 国の最高権力者の子供であるという自分の自信の源が突然破壊されたのだ。

 母の愛も、もしかしたら自分にではなく自分を通してあの男に向けられていたのかもしれない。


 陽誠を形作っていたものが全て張りぼてだと知って、自分という存在が希薄なものであるような気がして、すべてがどうでもいい気がしてきた。


 もう、いっそのこと死んでしまいたい。

 そう思ったその時、ふと兄のことが頭に浮かんだ。


 そうだ兄上・・・。


 兄は本当にいつでも真摯に自分と向き合ってくれ、年の離れた弟を可愛がってくれた。

 次代の皇帝と目され、そのための努力や鍛錬も決して手を抜いたりせず、いつも一生懸命頑張っていたのを陽誠は知っている。


 やっぱり次の皇帝は兄上しかない。ポッと山奥から出てきた田舎者などに兄が座るべき地位を明け渡してはいけない。死ぬにしても自分が今まで兄から受けた愛情に恩返ししてから死にたい。


 宝珠暗殺のため、陽誠は母の実家の宰相家の跡継ぎである伯父が重用している薬師の央斎から、様々な種類の毒薬を譲り受けていた。明日の昼食会は兄上たちの管理の元、武器類は持ち込めない。となると毒殺の方が現実的だが、どうやって毒を会場に持ち込み、宝珠に飲ませるか・・・・。


 その夜、陽誠は一人で計画を練った。


 当日、装飾品も含め厳重な検査がある中、陽誠は口内に毒を含むという自分にとっても諸刃の剣となりそうな方法で毒を持ち込むことに成功した。


 色々考えて、自分の存在は泰誠が皇帝となる上でのアキレス腱となる可能性があるという結論にたどり着いた。

 それなら今回自分の身体を使って宝珠に近づき毒を盛るのが一番成功の可能性が高く、兄の将来にとって障害となる存在二人を同時に消すことができる。自分が宝珠と共倒れで死んだら兄は悲しんでくれるだろうか?


 昼食会の席に着き、そんなことを考えていた時、明蘭が入室してきた。


 「!」


 以前遠目に見た時とは異なり、その髪は黄金色となっていた。柔らかい上質な生地でできた薄紅色の服を纏い、黄金の髪を結上げた彼女はまるで天女のようで、ただ人が触れてはいけない、そんな幻想的で高尚な雰囲気を醸し出していた。


 ゾクリッ

 

 陽誠は身震いした。


 この天女を道づれに死ぬ・・・。


 先ほどまでは無かった甘美な思いと高揚する気持ちを感じた。


 予定通り、謝罪を盾に明蘭に近づいた。

 そのまま姉に抱き着き、頭を右手で固定し深く口づけ、自身の唾液と共に舌で毒を姉の口内に流し込んだ。

 明蘭がそれを飲み込んだのを確認してから、身体を離した。

 陽誠は大きな仕事をやり遂げた満足感でいっぱいになり、自然と笑みがこぼれた。


 意識が遠のく中、最後に見たのは茫然とする美しい姉の顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ