第75話「永遠の課題」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
2018年10月13日 加筆修正。
まだまだ、自分たちの知らない事が山のように有るゲームなんだと話しながら、東儀雅率いる桃李成蹊女学院ゲーム部員たちは、最上階の会議室へ向かった。
その帰りのエレベータの中で、南城紬は、突然、声を張り上げる。
「えぇぇぇーッ! ちょ、ちょっとナニコレーッ!」
墜とした機体が上海より少なかったこともあって、期待していた訳ではなかったのだが「1億切ってたら良いな」程度に思って、アプリを起動してみれば、そこに映し出された順位は、なんと一気に1億も順位を上げた1千万377位。
「み、美羽! アンタの順位は、どうなってる?」
まるで今見ないと、損するような慌てようで、紬は美羽を急かした。
「アタシの順位は……うわぁ! 2千4百万7417位だ!」
「え! 美羽に勝ってるの?」
「その順位で、勝った負けたを言うのは、未だ早いわよ」と、紗奈が笑う。
「そうね、たまたま順位の高い人を南城さんの方が多く、倒したんでしょうね」
「紗奈先輩、どのくらいで、比べていいモンなんです?」
「そうねー……あ!」
「どうしたんです? 先輩?」
「ID登録者は3億人も居るけど、二人の順位の跳ね上がり方から、きっと熱心にプレイしている人って、1割と考えて3千万人だと思うの。となるとね、強さを比べられる数値って、300万切った辺りからかなって言おうと思ったら、そういう意味でも、次のプロの水準である3万2000人って、妥当な気がしたってだけよ」
「なるほどぉ、ちゃんと考えてるんですね」
「そりゃそうでしょ」
「え! 美羽にツッコまれるとは思わなかったわ」
「どういう意味よ!」
「あ、アタシも結構上がってるよ! 431位だ。コレでラルさんに、文句言われずに済むよぉ」
先頭切って戦っていただけあって、飛鳥の順位は200ほど上昇していた。
「文句って、アンタ……特別扱いされてるからって、ラルフさんに心配させちゃダメよ」
姉からの注意に「は~い」と返事しながらも、その口は尖っていた。
「それはそうとさぁ、カイロって、プロが多いのかな?」
「カイロを続ければ、順位が上がり易いと言いたいんでしょうけど。レーダーに敵が映らないのに、平気で突っ込んで行けるのって、アンタくらいなモンよ」
雅の順位も少し上がって、81位まで来ていたのだが、だからと言って、再びカイロを選ぶ気にはなれなかった。
雅がこのアメリカ合宿で掲げる目標は、部員たちの順位を上げること、そして、銃に慣れる事であって、自分の順位を上げることではないからだ。
最上階に着き、会議室の扉を開けると、そこには顧問の姿が在った。
「先生、帰ってたんですね」
「あぁ、15分前くらいにな。お前らの戦いは、先に見せてもらったよ」
そう言って、指差した先にはジオラマが在り、カイロの地形が映し出されていた。
それを見て紬は、気になってことを口にする。
「先生、カイロって、オペレーター禁止なんですか?」
「いや、オペレーターも参加できるよ」
その答えに対して、今度は紗奈が更に突っ込んだ質問をする。
「レーダーに敵が映らないのに、オペレーターがカイロで、何をするんですか?」
「レーダーの役割をオペレーターが、担っているんだ」
全員が一斉に首を傾げたので、刀真は改めて詳しく解説を始める。
「オペレーターが目視で敵を発見し、それを地図にマーキングしたり、GTMが動作した時の音量で、自分たちとの距離を測ったり、仲間同士で連携してドライバーへ報告したりしてるんだよ」
「どうして、此処だけ、そんなことを?」
刀真は、マリアにした話を部員たちにもした。
「サバイバルゲームかぁ。確かに、そういう楽しみ方を出来るエリアが在っても良いとは思うのですけど、どうして、ログイン前に警告を出さないのでしょうか? 態々《わざわざ》調べないと、知っている人だけが有利なエリアって、どうなんでしょう?」
この紗奈の疑問に答えたのは「いい質問だ」と言って、扉を開けて入って来たラルフだった。
「あ、ラルさん……」
飛鳥は、あだ名を呼んだものの、素早く姉の背中に隠れる。
「フを付け……ん? お前、ビデオチャットでは平気だった癖に、実際に会うと人見知りが出るのか?」
「う、うるさい!」と言いつつも、なかなか姉の背から出て来ようとしない。
「もぅ、面倒くさいわね!」と、雅に背を押され、前へと押し出される。
「ら、ラルさんが、ちょっとデカイから、ビックリしただけよ」
そう言われたラルフの身長は、186cmあった。
「もぅ! なんでまた隠れるのよ! アンタって子は!」
再び、姉の背に隠れ、アッカンベーをする。
ラルフは、刀真の方を向き、理解できないとばかりに手を挙げ首を傾げると、再び、向き直し「さて、そろそろ本題に入ろうか」と言って、席に着くよう促し、解説を始める。
「どうして、ログイン前に警告を出さないか、その理由は3つある。一つは、ただでさえ長蛇の列が出来るこのゲームで、そんなことしたら、待ち時間に影響が出るからだ」
「そういえば、新宿で並んでいた頃、エリア選ぶだけでも悩むヤツが居るって、文句言ってる人が居たわ」
雅の顔を指差し、頷くラルフ。
「そうなんだ、現在では待ち時間を解消する為に、スマートフォンで事前に機体を選ばせているが、エリアは選らばせてないだろ? それは戦況の変わり易いこのゲームで、エリアの予約までしたら、ゲーム入ったら誰も居ないって事になりかねないからだ」
その待ち時間を刀真が、解り易く計算してみせた。
「新宿での待ち時間が、凡そ6時間で360分。仮に、一人が筐体に入って降りるまでの平均時間を5分だとすると、並んでいる人数は72人になる。サバイバルゲームの説明を読ませる、または聞かせた場合、仮に説明時間が30秒だとすると、新宿での待ち時間は、36分延長される計算になる。が、おそらく、それだけでは済まない」
「エリアを切り替えて、他でもそんな説明を見る可能性があるとかですか?」
「確かに、北川の言うそれも大きな原因になるが、例え、特殊エリアがカイロ一つだけだったとしても、高速道路での主な渋滞原因のようになる」
「あ、聞いたことあります。確か、一人一人のブレーキが、どうこうって……あ、そうか! 説明が30秒でも、一人一人のブレーキになって、さらに渋滞を起こす可能性があるってことですね」
ラルフは、美羽の答えに「そうだ」と大きく頷くと、続けて2つ目の理由を語りだした。
「そして、二つ目は、ゲームについて学習していくってのも、ゲームの楽しみ方の一つだと考えている。情報は、公式サイト、公式アプリ、攻略サイト、個人ブログ、攻略動画などなど、様々なところで紹介されているだろ?」
「だから、ゲーム内ではしないと?」
「そうだなー、例えば、カイロでの君たちは、何も調べずに旅行したようなもんだ。旅行するって決めたら、旅行先をガイドブックやインターネットなんかで、危険な地域は避けようとか、観光スポットを先に調べるだろ? そんなガイドブックが、ゲームにおける公式サイトであり、攻略サイトなのさ。そういった物を利用したり、友達同士で情報を交換したりしていく中で、自分なりの攻略であったり、解説であったりを作る楽しさを知って欲しいんだ」
「なるほど、で、三つ目は?」
「君は、せっかちだな」と言って、紬を笑った後、3つ目の説明を始める。
「三つ目が重要でね。全てのゲーム開発者にとって、永遠の課題となっていることなんだ」
「永遠の課題?」
「ハッキリ言って、ゲーム内の説明はプレイヤーにとってストレスなんだよ。俺たちがガキの頃、ロールプレイングゲームには、分厚い説明書が付いていたんだが、全く開けないヤツも多かったし、君たちの中にも、マニュアルを見ないでプレイしたゲームが有ったんじゃないか?」
「あった、あった!」
「ようやく調子が出てきたみたいだな」と言って、飛鳥を指差す。
「確かに、RPGだと説明書ではなく、チュートリアルでゲームを覚えさせたりする物も在りますね」
「そう、開発者は色々な手段でストレスを無くす方法を考えているのさ。チュートリアルなら、ゲームをプレイした気分のまま、説明書なしに教えることが出来るんじゃないかってね。しかし、それすらストレスに感じて、スキップする者も実際多い。過去のゲームの中にも、そんなところを否定されて、一部のマニアにしかウケず『隠れた名作』なんて呼ばれてしまうゲームが沢山あったんだ。とはいえ、君らの言った、ゲーム内で説明しないのは不親切だという答えも、間違っている訳じゃない。開発者は、色々な声を受け、模索しながら、理想的なユーザビリティ(使い勝手)を日々目指してるんだよ」
読んでくれて、ありがとう。




