第八章 謝罪と離脱
ラズリエフ邸に王宮からの使者が来たのは、よく晴れた朝のことだった。
今度の使者は、前回とは違った。
王宮の最上級の礼装を纏った、国王直属の侍従長だった。
アレクサンドルが一人で対応した。
しばらくして、応接室の扉が開いた。
「お父様」
「ああ」
アレクサンドルが、少し疲れたような、しかしどこか晴れやかな顔をしていた。
「国王陛下からの正式な謝罪だ。ラズリエフ家への一連の非礼について、王家として遺憾の意を表する、とのことだ」
「……廃嫡は」
「正式に進めるとのことだ。王弟殿下のご子息を養子に迎える話が、すでに動いているらしい」
廊下に、静かな沈黙が落ちた。
ルカシュが、小さく息をついた。
「……終わったんですね」
「ひとまずはな」
アレクサンドルがルカシュを見た。
「婿殿、ご迷惑をおかけした」
「いいえ。私こそ、ラズリエフ家に余計な火の粉を」
「余計などと思っておらん」
アレクサンドルが、きっぱりと言った。
「うちの娘が自分で選んだことだ。ラズリエフ家はそれを支える。それだけのことだ」
ルカシュが、少し目を瞬かせた。
イリナは父の横顔を見て、胸の奥が温かくなった。
「さて」
アレクサンドルが手を叩いた。
「ナターリアに報告してくる。あの人も気を揉んでいたからな」
足取り軽く廊下を歩いていく父の背中を見送ってから、イリナはルカシュの方を向いた。
「良かった」
「……はい」
「怖かったですか?」
ルカシュが少し考えてから、正直に答えた。
「少し。でも」
「でも?」
「貴女がいたので」
イリナの頬が、じわりと赤くなった。
「……ずるいですよ、そういうことを急に言うのは」
「事実を申し上げただけです」
「ずるい」
ルカシュが、静かに笑った。




