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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第5章:本当の罪が暴かれる時

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(13)断罪

「ヒューバート殿下、このような無体を陛下がお知りになったら、どう思われるでしょう?」


首に当たる刃の感触に肝を冷やしながらも、アーサーは王子を脅しにかかった。国王の名を出せば、この刃を引っ込めざるを得ないに決まっている。


そうなったら、すかさずエルナの手をつかんで、さっさとこの場から退散しよう。


もちろん、それだけで済ませはしない。王家から慰謝料をふんだくり、この王子も失脚させてやるつもりだ。


しかし、そんな脅しなどヒューバートには通用しない。


「陛下には話を通してあるから問題ないぞ?そんなことより……お前は本当に、ブルック伯爵家の家長なのか?」


突き付けた刃はそのままに、彼は口元だけでニヤリと笑った。ゾッとするような笑顔を向けられて、アーサーの背筋に冷たい汗が流れ落ちる。


緊迫した空気をひしひしと感じ、アガサとジャネットは固唾を飲んでアーサーを見守った。何やら怪しくなってきた雲行きに、身を寄せて互いの体を抱きしめあう。


エルナはというと、静かな眼差しを父に向けていた。血を分けた親子でありながら、最後まで心を許しあうことも、分かり合うことも出来なかったと思いながら。


「な、何をおっしゃいますか!先代とは正式な養子縁組をしておりますし、私が当主で間違いありません」


血の気の引いた顔で、アーサーは抗弁した。法律上は自分が当代のブルック伯爵で間違いないのだ。


(あのことがバレなければだが……いや、弱気な顔を見せてはならん!)


彼はそう自分を鼓舞する。


あれが知れたら、あの男だって身の破滅なのだ。そうやすやすと口を割るはずがないから、大丈夫だ。


「お前、私を見くびるなよ?何の証拠もなく、こんなことを言うと思うか?」


低い声でなじるように言うと、ヒューバートはオリバーに向かって手を上げた。


「はっ!」


彼は一礼をして姿を隠したかと思うと、縄で厳重に縛られた男を引っ張って戻ってきた。役所でエルナの婚姻の手続きを請け負っていた役人、クラン・キース男爵だ。


(ちっ!あのマヌケが!)


アーサーは胸の内で舌打ちをする。彼が恐れていた最悪の事態が、目の前で起きようとしていた。


(だとすると、殿下はあのことを知っているのだな。だが、何を言われようと、絶対に認めるわけにはいかん!)


オリバーは太い腕で男爵の襟の後をつかみ、中央へと引きずりだした。牢屋で厳しい尋問を受け続けた彼は、怯えてひぃひぃ言いながら、もう涙目になっている。


ヒューバートはそんな男に侮蔑の視線を向け、尋問を始めた。


「おい、お前はこの男と知り合いだな?」


「は、はい。ブルック伯爵様には、長年我が家に援助をいただいていまして」


「嘘だ!私はお前なんか知らんぞ!」


騒ぎ立てるアーサーに視線ひとつくれず、その抗弁を完全に無視して、ヒューバートは先を促す。


「で、その見返りはなんだ……?」


「あ、あの……そのぉ……時々伯爵様に便宜を……」


ヒューバートとアーサーの両方から刺すような視線を向けられて、気の弱い男爵はしどろもどろになりながら答えた。


「便宜とは、具体的には何をした?」


「え、ええっと……その……ひぃ!」


「しっかり答えろ」とオリバーに蹴飛ばされて、男爵は床に転がる。そのままヒューバートに体を向け、床に頭を打ち付けるようにして土下座した。


「お、お許しください!ブルック伯爵の婚姻の際、必要書類を偽造するのを手伝いました」


「その書類とは?」


「……夫人の身元を証明する書類です。ジャネット夫人は隣国の貴族ということですが、その出生証明がなかなか送られてこないと言われまして」


悪魔のような形相でにらみつけるアーサーに怯えながらも、男爵は正直に答えた。


彼の家は領地を持たない男爵家で、役所の給料だけでは家計はいつも火の車だった。嫡男の教育費に困っていたところ、ブルック伯爵に継続的な援助を申し出られ、つい魔が差してしまったのである。


「殿下!私はそのような不正はしておりません。信用ならない者の証言だけで決めつけるのは、やめていただきたい」


アーサーは声を張り上げて主張した。その声の大きさが、周囲にはかえってやましさを隠そうとしているように聞こえる。


「そうですとも!私は隣国の男爵家の娘です。間違いありません!」


ジャネットもキンキン声で訴えた。


「ふむ、なんという家だ?」


「それは……」


ヒューバートに問い返されて、ジャネットは小声でごにょごにょと家名を言った。彼はそれにうなずくと、懐から一枚の手紙を取り出す。


「これは、隣国に駐在している大使からの手紙だ」


(まずい!)


すべてを察したアーサーは、言い逃れは難しいと瞬時に悟る。妻子を置き去りにして自分だけ逃げ出した。


動いた弾みに、剣の刃が首の皮膚に当たって少し切れてしまったが、そんなかすり傷を気にしている余裕もない。


「あなた!」


「お父様!?」


その背中に、ジャネットとアガサの声が追いすがった。


アーサーは出口を目指し、大きな腹を揺らしてドタドタと走った。壁際に並んでいた騎士たちは、それを冷ややかな目で見送る。


……ヒュン!


彼が謁見室の重厚なドアに手をかけようとした刹那、耳元を鋭い風音が通り過ぎた。ヒューバートの剣が先回りして、その鼻先に剣先を突きつけたのだ。


「ひぃいい!」


アーサーはその場に尻もちをつく。


面白そうに成り行きを眺めていた騎士たちから、失笑の声が漏れた。王子の剣から逃れられるわけがないと、彼らは全員知っていたのだ。


「やめろ!全部陰謀だ!皆で私を陥れる気だろう!?」


二人の騎士が、両脇からアーサーを挟んで立ち上がらせると、嫌がる彼を引きずって王子の前へと戻した。


(お父様……)


惨めに引き戻される父親に、エルナは諦めと嫌悪の混ざった目を向けた。あれほど可愛がっていたアガサまで捨てて逃げようとするとは、本当にどうしようもないクズだ。


ヒューバートは慰めるように、そんなエルナの肩を引き寄せた。


「こんなものを見せてしまって、すまない」


そのこめかみに軽くキスを落とすと、階段を降りて、アーサーの目前へと足を運んだ。


自分を気づかってくれる彼の優しさに、エルナは目頭が熱くなった。


だが、涙を振り切って、毅然と前を向いた。ブルック伯爵家を継ぐ者として、ことの顛末を最後まで見届けなければならない。


「これからが面白くなるというのに、どこへ行く気だ?」


ヒューバートは酷薄な笑みを浮かべ、相手のたるんだ顔に便箋を押しつけるようにして、言い放つ。


「見ろ!大使は調査の結果、該当する男爵家にそのような令嬢はいないと書いてきている。さらに、夫人の身体的特徴を男爵に伝えたところ、『昔盗みを働いて解雇した女中に似ている』と証言したとのことだ」


「そ、そんなのデタラメよ!私は盗みなんかしてないし、ただの女中じゃなくて奥さまの侍女……あっ!」


失言に気づいたジャネットは、慌てて両手で口をふさぐが、もう遅い。


「そうか、お前は男爵家の侍女、つまり平民の使用人だったのを認めるのだな」


「違うわ、私は貴族よ!」


ジャネットは叫んで、証拠の手紙をひったくろうとした。だが、すぐにオリバーに取り押さえられてしまう。


「平民と貴族は結婚できない。結婚したのなら、その者はもう貴族ではない」


法律上、アーサーはジャネットと再婚した時点で、伯爵とは名乗れないのだ。もちろん、当主としての権限も失っている。


「これはエルナ嬢から財産と権利を奪う略奪行為であり、恐れ多くも国王陛下を愚弄している」


貴族は国王にかしずくもの。そこに平民が貴族のふりをして混じっているなど、あり得ない。


「お前たちは厳罰に処するよう、陛下から申し付けられている。覚悟しておくがいいぞ」


ヒューバートのその言葉を合図に、壁際に控えていた騎士たちが動き出す。アーサーとアガサに魔力封じの首輪をはめ、三人を縛り上げると牢屋へと引き立てていく。


「ちょっと、私は何もしてないわ!だって子供だったのよ?お姉様ぁ、私だけでも助けてください!」


太った体をゆさゆさ揺すりながら、アガサが媚びるように訴えた。自分のことなど家族と思ったことさえないだろうに、両親を見捨て、保身のためにすり寄ってくる妹。


「うるさい、さっさと歩け!」


騎士の一人に怒鳴られ、こちらを何度も振り返りながら、両親とともに渋々連行されていった。


(あなたたちには、もう二度と会うことはないわ)


エルナはわずかな憐みを含んだ目で、家族であったはずの三人をただ静かに見送った。

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