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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第5章:本当の罪が暴かれる時

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(7)決心

「実は、ずっとあなたに言えないでいたことがある」


「……はい」


ヒューバートの真剣な眼差しに、エルナも緊張した面持ちで見つめ返した。


「私の本当の身分なのだが……」


言い淀む彼を不思議に思ったのか、エルナは小首を傾げる。


それはとても愛らしい仕草だったが、今のヒューバートには、それに見惚れる余裕すらなかった。これからする告白が、愛しい相手にどんな反応をもたらすのか、考えるだけでも恐ろしい。


(もし、拒絶されたら……自分はロレンス王のようにならないと、断言できるだろうか?)


エルナの意志を無視して、王宮に閉じ込めることなどしたくない……が。


胸にたぎる情熱が抑えられないほど膨れ上がっている今、これまでのように理性を保っていられる自信がなかった。


世間がつけた「冷徹殿下」という通り名が、今はひどく滑稽に思える。


ヒューバートは膝の上で、両の拳を白くなるほどギュッと握りしめた。そして、覚悟を決めたように視線を定めると、胸の奥に秘め続けていた真実を吐き出すように告げる。


「私の本当の名は、ヒューバート・オルネ。この国の、第三王子だ!」


「……え?」


すぐには意味が理解できず、エルナは頭のなかで彼の言葉を反芻した。


(オルネ……?ヒューバート……第三王子……)


さまよっていた視線が、彼の美しい銀髪を捉えて止まった。銀髪はこの国の王族に多い髪色だ。確か現国王も、見事な銀髪だと聞いた。


そして国王には三人の王子がいる。第三王子は側妃の生んだ子で、その側妃の生家はアルスター公爵家ではなかっただろうか?


頭のなかに散らばっていたイメージの断片がピタリとはまって、ひとつの形になる。


そのとたん、彼女は座っていた椅子から、飛び上がらんばかりに立ち上がった。


「ひゅ、ヒューバート殿下……!知らぬこととは言え、とんだご無礼……」


「やめてくれ!」


慌ててカーテシーをしようとしたエルナを、ヒューバートは止めた。立ち上がってエルナの手を取り、その細い指をしっかりと握りしめる。


「私はあなたの前で、王子ではなく一人の男でありたいんだ!」


「……殿下」


ヒューバートはエルナの口に人差し指を当て、首を横に振った。


「今まで通り、名前で呼んでくれ」


涼やかなアイスブルーの瞳が、懇願するように揺れている。


「私が今日、あなたに本当の身分を明かしたのは、王子として敬って欲しいからではない。これからあなたと二人の未来を創っていくには、どうしてもそれが必要だったからだ」


その真剣な眼差しに、エルナの心臓が跳ね上がる。


(二人の未来……ヒューバート様と、私の)


その言葉の意味に想いを巡らして、全身に熱が広がっていく。握られた指先からその熱が伝わってしまいそうで、羞恥でさらに体温が跳ね上がった。


きっとまた、林檎のような顔になっているに違いない。


「だからどうか、これまでのように接して欲しい」


「は、はい」


ただの伯爵令嬢でしかない自分にとって、それはとても恐れ多いことだけれど。捨てられた仔犬のような目で見つめてくるヒューバートの願いに、エルナはうなずくしかなかった。


(よかった!取りあえず嫌われてはいないようだ)


頬を染めてうなずくエルナに、ヒューバートは安堵の息を吐く。


本音では、「これまで以上に」エルナと親密になりたい彼だったが、それはこれからじっくりと、余すところなく詰めていくつもりだ。


「長い話になる。座って話そう」


彼はエルナをそっと椅子に座らせた。さらに、自分の椅子を傍に引き寄せて、彼女と向かい合うように座った。


膝と膝が触れあいそうな距離で、もう一度その白い手を取る。


「これから話すことは、あなたには辛いと思うこともあるかもしれない。でも、最後まで聞いて欲しいんだ……決して悪いようにはしない」


エルナはコクリとうなずき、ヒューバートの大きな手を握り返す。ゴツゴツした手のひらの温もりが、心を落ち着かせてくれた。


「私たちが森の小屋にたどり着いたのは、偶然ではない……」


ヒューバートは初めから話した。自分は最初からエルナとポムの力に気づいていたこと、そして様々な調査の結果分かったことを。


「そうなんですね」


エルナも自分やポムの力について、彼に詳しく話した。誰にも言えずに抱えていた秘密を打ち明けることができて、肩の荷が下りた気分だった。


だが、自分の血筋についての話になると、彼女は驚きのあまり胸を押さえた。


「わ、私に、聖なる乙女の血が?」


「うむ、リリーの姪が嫁いできたのは、恐らく四代くらい前のことだろう。ブルック伯爵家に家系図が残っていれば、確認できるはずだ」


「まさか、そんな……」


信じられないと思う反面、納得できることも多い。


エルナはずっと、母に「聖なる乙女」の面影を見てきた。他人にはない魔力が母や自分にあるのは、きっと特別な血が流れているせいなのだ。


「では、ポムはやはり伝説の聖獣で、あの森でリリー様をずっと待っていたのですね」


彼女は戸口の向こうに見える、白く小さな体に視線を送った。後ろ足で踏ん張って立ち、時々意味もなく玩具の剣を振り回している。


その姿が、涙でぼんやりと霞み始める。


百五十年……百五十年という長い間、ポムはあの森で、独りぼっちでリリーの帰りを待っていたのだ。


あの日、嵐の過ぎ去った森に倒れて、力が尽きかけていたポムは、本当は寂しさのなかで絶望していたのかもしれない。


「大丈夫か?」


「……はい」


差し出されたハンカチで目元を拭いながら、エルナは考えた。


今は荒れてしまっているあの森も、祖父の代までは森番がいて、きちんと整備されていたという。


先祖がフォレスト男爵家から花嫁を迎えたのは、きっと男爵家に代わってあの森を守るためだろう。だからこそ、あの森は母から自分へと受け継がれたのだ。


(私には、責任があるわ)


エルナは決心して、顔をあげた。


その目には、これまでにない強い意志の光が宿っている。


「ヒューバート様。私はブルック伯爵家を継いで、ポムとあの森を守っていきます!」


伯爵家から離れて、自立して暮らしたい。これまではそう思っていたけれど、それでは大切なポムを守れないのだ。


ブルック伯爵家に生まれ、リリーの血を受け継ぐ者として、自分の責任を果たさなければならない。


「よく言った!」


エルナの力強い言葉に、ヒューバートは満面の笑みを浮かべた。


彼女がその気になったのなら、話は早い。


あとは、エルナを迫害し、傷つけてきたあのゴミどもを、文字通り地獄へと送ってやるだけだ。


その手はずは、もう整っている。


(あなたの背負う運命も責任も、全てを支えて共に生きるのは、この私だ!)


ヒューバートは握りしめた手を引いて、自分の胸へと引き寄せた。


金糸のような髪がふわりと揺れて、花のような香りが微かに鼻孔をくすぐる。


「大丈夫だ、私に任せておけ!」


エルナを必ず幸せにする。そう心に誓った彼の瞳には、もう恐れも迷いも見えなかった。


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