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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第5章:本当の罪が暴かれる時

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(6)誰も見てはならぬ

「ヒューバート様、いらっしゃいませ」


ヒューバートの来訪に、エルナは立ち上がって笑顔を見せた。


気恥ずかしいが、せっかくアメリアが綺麗にしてくれたのだ。世界中の誰よりも、この姿を彼に見てもらいたかった。


「エルナ……!」


部屋に一歩足を踏み入れたヒューバートは、アメリアの期待通りに、見事なまでに硬直した。


戸口に立って口を開いたまま、息をするのも忘れたように、目の前の可憐な令嬢に視線を注ぎ続けている。


「おい、ヒューバート、何して……!」


後に続いて戸口から顔を出したオリバーも、エルナの変わりように絶句した。


(美しい娘だとは思っていたが、これほどとは!)


薄く化粧を施されたその顔はバラ色に輝き、ハーフアップにまとめた艶やかなハニーブロンドが、清楚なレースで飾られたピンクの衣装の上に流れている。


「あ、あの……ヒューバート、さま?」


ヒューバートが瞬きもせずに固まっているので、エルナはもう一度声をかけた。


だが、やはり反応が返ってこない。エルナは慌てた。


(もしかしたら、イグニッションの後遺症かもしれないわ!)


あまりに体力を使いすぎてしまって、急に動けなくなったのかもしれない。そう考えて、エルナは彼に駆け寄った。


「あの、大丈夫で……キャッ!」


彼女が小さな足音を立てて近づいた瞬間、突如として動きを取り戻したヒューバートが、長い腕を伸ばした。


抵抗する隙すら与えず、エルナの身体をその胸へと力任せに閉じ込める。


その素早さは、獲物を捕獲する猛禽のよう。


「だっ、ダメだ、こんなのはっ……!オリバー、あっちを向け!エルナを見るんじゃない!!」


こんなにも美しいエルナを他の男に見せたくない。たとえそれが、信頼のおける友だとしても。


その剣幕に、オリバーとアメリアは顔を見合わせて、ため息をつく。


(だいぶ拗らせてるわね)


アメリアのそんな視線に、オリバーは肩をすくめた。


「あー、ヒューバート様。そういう行為は、私の家ではちょっと……」


一言挨拶をしようと、階下の店舗から上がってきたハリーが、「コホン」と咳ばらいをして言った。


その視線は、エルナを腕の中に囲い込んだ愛弟子に注がれている。


皆の前で抱きしめられた彼女は、真っ赤になった顔を両手で隠していた。その指の先まで赤く染めて。


ヒューバートは、ハッと我に返る。


「い、いや、違う!こっ、これは、オリバーが変な目で彼女を……!」


「なっ!?」


不名誉な罪をなすりつけられて、オリバーの顔色が変わった。彼にしても、しばらく見惚れていたのは事実なのだが。


「まあまあ!ヒューバート様、エルナさんを放してあげてくださいな。可哀そうに、顔が真っ赤ですよ!」


不穏になりかけた空気に、アメリアが割って入った。エルナを彼の腕の中から救出して、労わるように抱きしめる。


「……すまない」


「い、いえ」


失態に気づいて、ヒューバートはエルナに謝った。気まずそうに、銀の髪をかき上げる。


「どうぞお座りください。今、お茶を用意しますから」


「うむ、頼む」


アメリアの呼びかけに、ヒューバートはようやく落ち着きを取り戻し、これから言わなければならない事柄を、重荷に感じながら胸に思い浮かべる。


彼は飾り気のない椅子の背を引いて、まずはエルナを座らせると、自分もその向かいに腰掛けた。


「エルナ、すぐに会いに来られなくてすまない。ここでの暮らしに不自由はないか?」


「大丈夫です。アメリアさんにもハリーさんにも、とても良くしていただいてますし」


ほほ笑んだエルナは、まだ頬にほんのりと赤みを残していた。


その初々しくも可憐な微笑みに、またうっとりと見惚れてしまいそうになる。ヒューバートは慌てて顔を引き締めた。



「今日は、あなたに話さなければならないことがある」


アメリアが茶と茶菓子を置いて立ち去ると、彼は少し緊張した面持ちで告げた。


室内は二人きりなので、部屋のドアは開けたままになっている。


廊下にはオリバーが背を向けて立っており、その足元には、なぜか木剣を持ったポムがいた。たぶん、一緒に護衛をしているつもりなのだろう。


「まず、あなたの貴族の除籍と結婚の件だが、手続きが差し止めになったので、心配はいらない」


「ありがとうございます」


あの男と無理やり結婚させられる心配はなくなったと知り、エルナはホッとして頭を下げた。


「ですが、父が決めた正式な結婚を、差し止めることができるのですか?」


この国では女性の立場はまだまだ弱く、妻や娘は家長の決めたことに逆らうことができない。厳粛な貴族の家はなおさらだ。


「う、うむ……色々と、偶然が重なったんだよ」


「偶然ですか?」


何故か気まずそうな顔になった彼に、エルナは首を傾げた。


「ああ。まず、手続きを一手に担っていた役人に不正が発覚したので、その者を拘束した」


「まあ!」


エルナは驚いて口元を手で覆った。


賄賂をもらって不正を行う役人は少なくないと聞いていたが、自分の身近で起こるとは、思いもよらなかった。


「さらに、ブルック伯爵が提出した書類に、いくつもの不備が見つかった」


「あら?お父様はいつも、そういう事はきっちりとなさるのに……」


「そ、そうなのか?まあ……それでその……伯爵に確認するように他の役人に渡したら、そいつがうっかり書類を失くしてしまったのだ」


「えっ!?」


役人がうっかり書類を失くすなんてことがあるのだろうか?


エルナは驚きに目を見開いて、ヒューバートをまじまじと見つめた。純真そのものの視線を受けた彼は、何故かスーッと目を逸らしてしまった。


「と、とにかく!書類はどこにもないし、関わった役人の不正が疑われるので、ブルック伯爵の今回の申請は無効となった」


エルナの父から再度届けがなされなければ、結婚の手続きが行われることはない。


そして手続き無効の通知は、絶対に見つからない書類と同様に、ブルック伯爵家には永遠に届かないのだ。


「だからエルナ、あなたは心配しなくていい!」


「は、はい」


身を乗り出すようにして断言したヒューバートの気迫に押され、エルナは詮索するのをやめた。彼が「心配ない」と言うなら、それを信じるだけだ。


エルナが納得したのを見ると、彼はホッと肩の力を抜いた。優雅な仕草でティーカップを持ち上げ、ぬるくなってしまった茶で喉を潤す。


(さて、ここからが本題だ)


ヒューバートは背筋を伸ばし、愛しい女性を真っ直ぐに見つめた。



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