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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第5章:本当の罪が暴かれる時

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(3)風のように

エルナの魔力の痕跡を追って、ヒューバートとオリバーは全速力で走っていた。


イグニッションクッキーで身体強化した二人は、馬に乗るよりも自分の足で走ったほうが早いと判断したのだ。


そしてそれは、正解だった。


彼女は市街地から離れた農村にいるらしく、魔力を追って走るほどに閑散と寂しい風景になっていく。馬であれば、とっくにスタミナ切れして走れなくなっていただろう。


(凄いな、エルナの力は!)


走りながら、ヒューバートは感嘆した。まるで風になったように体が軽く、周囲に広がる麦畑がみるみる後ろに飛び去っていく。


もうかなりの時間走っているにもかかわらず、少しも疲れを感じなかった。


「キュー!!」


ポムはヒューバートの腕に必死にしがみつきながら、玩具の木剣を振り上げて雄叫びをあげた。


まるで、自分が「エルナ救出隊」の隊長だと主張しているようだ。長い耳が風に煽られて、ぱたぱたとはためいている。


「おい、毛玉!しっかりつかまっていないと落ちるぞ」


ヒューバートはポムにそう注意すると、少し速度を落としながらオリバーを振り返った。


「そろそろ近いようだ、彼女を強く感じる」


清らかで純粋なその魔力を頼りに進んでいくと、やがて寂れた農村へとたどり着いた。


二人は走るのをやめて、村の様子をうかがう。人通りは少なく閑散としていて、空き家も多そうだ。


「……もっと、向こうだな」


「キュウ」


「そうだ」というようにポムが鳴く。近くなったので、ポムもエルナの魔力を感じ取っているらしい。


「おい、ヒューバート。敵の隠れ家を見つけたとしても、いきなり飛び込むなよ?相手の素性も人数も分からないんだからな」


今にも暴走しそうな彼に、オリバーは釘を刺す。自分が王族であることを忘れてもらっては困るのだ。


「分かっている」


エルナの魔力を全力で探りながら、ヒューバートは答えた。


彼らは麦が刈り取られた後の畑を抜け、村の外れに建っている、一軒の古びた農家へとたどり着いた。すぐ側の林には、一頭の馬が繋がれている。


「ここだ!」


「キュウ!」


ヒューバートとポムが同時に叫んだ。


(エルナ、無事でいてくれ)


愛しい人の気配を感じて、ヒューバートの鼓動は早くなった。一刻も早く救出しなければと、焦燥に駆られる。


「落ち着けって!」


彼が今にも家に飛び込みそうな様子を見せたので、オリバーは慌ててその肘をつかんで止める。


二人と一匹は少し離れた木陰に隠れ、その家を観察した。そこは空き家のようだが、それなりに手入れはされていて、それほど荒れた感じはしない。


周囲の家からは離れているし、人をさらってきて隠すには、丁度いい隠れ家と言えそうだ。オリバーはヒューバートに囁いた。


「どうする?」


「うむ、裏からこっそり忍び込んでみるか」


「ならば俺が先に行って、中の様子を偵察してこよう」


オリバーは万が一にも誘拐犯に見つからないように、ぐるりと大回りをして、家の裏手に近づこうとした。


「助けてー!ヒューバート様、助けてください!!」


木陰から家を見張っていたヒューバートは、耳に届いた声にハッと顔を上げる。


聴覚が強化された耳に届いた微かな声。それは確かに、愛する人が自分に助けを乞う声だった。


「エルナ!今行くぞ!」


「キュー!」


ヒューバートは一足飛びで農家の玄関へ移動し、魔法の風を起こして粗末な木の扉を吹き飛ばした。腕にしがみついたままのポムが、勇ましい雄叫びをあげる。


「なんだよ、もう!」


結局、我慢できずに飛び込んでしまった友を追って、オリバーも正面の戸口から飛び込んだ。二人ともすでに剣を抜いている。


「ここか!」


ヒューバートは暗い廊下を駆けた。一番奥の部屋に魔力の気配を感じる。


(エルナ以外にも誰か魔力のある奴がいるな)


彼は風魔法を使って扉を押し開けると、中に飛び込んだ。万が一にもエルナが怪我をしないよう、今度は吹き飛ばすのを控えたのだ。


「な、なんだ、お前は!」


薄暗い部屋の片隅には、粗末なベッドがひとつ。


その上で、赤毛の若い男がもがくエルナを引き寄せ、今にも組み敷こうとしていた。


「ヒューバート様!!」


エルナは涙で頬を濡らしながら、ヒューバートの名を呼んだ。彼女はあろうことか下着姿だ。


ヒューバートの視界が、怒りで真っ赤に染まる。全身の毛が逆立ち、沸騰した血が体中を駆け巡った。


魔力が漏れ出て、部屋に小さな風の渦が巻き起こる。


「この下衆野郎!私のエルナに触るな!!」


「ぐお!」


気づけば、渾身の魔力を込めた一蹴りが、男の腹にめり込んでいた。


横跳びに吹き飛んだその体は、渦巻く風に乗って木の葉のように舞い、二度、三度と壁に叩きつけられる。


ケビンは火魔法を使おうと手を突き出したが、激しい風にもまれて、マッチの先ほどの炎すら生み出せなかった。百戦錬磨の騎士と屋敷の門番でしかない彼とでは、その実力差は絶望的に大きい。


最後に「ぐえっ!」と小さな叫び声を上げ、ケビンはドスンと床に落ちた。使い古したボロ雑巾のように、床の上に伸びてしまう。


「ギュウ!?ギュギュウウ!!」


ポムはその上に飛び乗って、木剣で彼の頭をポカポカと叩き始めた。完全に気絶しているので、非力なポムでもやりたい放題だ。


オリバーはケビンを捕縛する縄を取り出したけれど、毛玉の気の済むようにさせてやろうと考え直した。フッと口元を緩めると、腕を組んだまま、師匠としてポムの剣さばきを見守る。


「エルナ、大丈夫か!?」


そんな騒ぎを尻目に、ヒューバートはエルナに駆け寄った。


ヒューバートはマントを脱ぎ、エルナの痛々しい下着姿を隠すように包み込んだ。震える細い体に手を回し、壊れ物を扱うように、けれど絶対に離さないという強さでしっかりと抱きしめる。


「ひゅ、ヒューバートさ……ヒューバート様ぁ!!」


そのたくましい胸に縋りついて、エルナは大声で泣いた。その頭を抱き寄せ、彼は慰めるように、きらめく絹糸のような髪を優しく撫でた。


「すまない。私が優柔不断だったばっかりに、あなたを危険な目にあわせてしまった」


こんなことになった責任は、自分にある。グズグズ考えずに、さっさと彼女を保護すればよかったのだ。


(もう、二度と離さない。誰の目にも触れさせず、永遠にこの腕に閉じ込めてしまおう)


だが、エルナを正式に自分のものにするには、片付けなければならない問題がたくさんある。


(まずは、この赤毛野郎だ)


ヒューバートは縛られて床に転がるケビンを、射殺すような目でにらむ。そして彼の背後には、必ずブルック伯爵がいるはずだと確信していた。


(あいつらの罪を暴いて、必ず地獄へと突き落としてやる……!)


彼の胸に、揺るぎない決意の炎が燃え上がった。


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