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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第5章:本当の罪が暴かれる時

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(2)俺の奥さん

薄暗い部屋で、エルナは目を覚ました。


(……ここは、どこ?)


ぼんやりと焦点の定まらない目を凝らして、彼女は周囲を観察した。


壁には暖炉があって、炎が燃え盛っている。その火だけが、部屋を照らす唯一の灯りだ。


部屋は狭く、家具はほとんどない。今横たわっているベッドは粗末で、マットレスも硬くて寝心地が悪かった。田舎によくある、民家の寝室のように思えた。


(私、なんでこんな所にいるの?)


考えるが、頭にモヤがかかったようで、何も思い出せない。ガンガンと耳元で鐘を打ち鳴らすような、酷い頭痛がした。


その時、外で足音が聞こえたかと思うと、部屋のドアが静かに開いた。


「ひっ!」


入ってきた赤毛の青年を見て、エルナはガバッと身を起こした。自分の身に起こったことが、走馬灯のように一気に思い出される。


(あれからどれくらい経ったの?ポムは大丈夫かしら?)


記憶が戻って真っ先に気になったのは、ポムのことだ。床に倒れたまま動かなくなった、痛々しい姿に胸が締め付けられる。


ケビンは、トラウザーズにシャツのボタンをいくつか外した寛いだ姿で、彼女がいるベッドの端に腰かけた。


……ギシッ。


粗末なベッドが音を立て、マットレスが僅かに沈んだ。


エルナは彼から少しでも離れようと、ベッドの上で後ずさるが、すぐに背中が壁にぶつかってしまった。


「目が覚めたんだね、俺の奥さん」


エルナの肌がゾッと粟立つ。彼に「俺の奥さん」と呼ばれることを生理的に受け付けない、正直な体の反応だ。


『このケビンが、今日からお前の夫だ』


アーサーの言葉が頭の中に響いて、エルナは両手で耳を塞いだ。


そして、自分が下着姿なのに気づく。ワンピースの下に着ていたシュミーズだけの姿なのだ。彼女は慌てて薄い掛け布団を引き寄せ、体を隠した。


「大丈夫、びしょ濡れだったから脱がせただけで、俺はまだ何もしてないよ」


「い、嫌!」


ケビンが手を伸ばしてきたので、エルナは身をよじってそれを避けようとする。


そんな彼女にかまわず、彼はハニーブロンドの髪に触った。エルナは首元から指先に向かって、サーッと鳥肌が立つのを感じた。


「うん、乾いてるね。この暖炉の火は、俺が魔法でつけたんだよ」


彼は髪から手を引くと、暖炉を指して自慢げに言った。彼の取り得は、火を自在に出したり消したりできる、火魔法が使えることだけなのだ。


(どうしよう……このままじゃ、本当に夫婦にさせられてしまう)


もしかしたら、この青年もアーサーに利用されているだけで、悪気はないのかもしれない。なにしろ、父親が娘を「嫁にやる」と言ったのだから。


以前からこの人は、私に好意を向けてくれていた。だから、ちゃんと話し合えば、ここから開放してくれる可能性もなくはない。


エルナはそう思って、口を開いた。


「あのね……ケビン、私は誰とも結婚する気はないの。貴族の令嬢として扱われなくてもいいから、あの小屋で一人で生きていくつもりよ」


その言葉を聞いたケビンは、クスクスと笑う。


「旦那様に言われたよ。あなたは世間知らずだから、ちゃんと躾けるようにって」


その表情を見れば、エルナの言うことなどまるで意に介していないのが分かった。


「でも……」


彼女はそれでも、ケビンを説得するために口を開こうとした。だが、すぐに彼に遮られてしまう。


「俺はずっとあなたを守ってきたんだ!屋敷でのひどい扱いには腹を立てていたし、小屋に追放されてからだって、俺は自分の判断であなたを見守ってた」


「え?……守る?」


エルナは顔をしかめた。


彼がいつ、自分を守ってくれたというのか?


屋敷でひどい扱いを受けた時にも、一度もかばってくれたことはなかった。


小屋で暮らし始めてからだってそうだ。食べるものが乏しかった時も、着る物がなくて寒さに震えていた時も、彼はいったい何をしてくれたと言うのだ?


(助けてくれたのは……助けてくれたのは……!)


新緑色の瞳から、涙があふれだす。


助けてくれたのは、いつも一緒にいてくれたポムだ。


自立できる可能性を教えてくれたのは、八百屋の女将や薬屋の主人。


そして……そして……。


涙で濡れた瞼の裏に、優し気に細められたアイスブルーの瞳が浮かんだ。


彼と一緒に過ごした、心から幸せだと感じられた短い日々。その思い出が、絶望の淵に追いやられた彼女の胸に、確かな拒絶の火を灯した。


彼女は手で涙を拭くと、赤毛の青年をにらみつけた。


「嘘よ!!あなたは私が困っているのを、ただ見てただけじゃない!」


「うるさい、口ごたえをするな!俺はお前の亭主だぞ!」


ケビンは激高してエルナを怒鳴りつけると、その細い手首をつかんで自分に引き寄せた。


「嫌よ、放して!」


彼の体温と体臭を近くに感じて、エルナは吐き気がするほどの強い嫌悪感に襲われた。その瞳に、再び涙が溢れだす。


彼女は力の限り抵抗したが、当然敵いはしない。


(この人と結婚するなんて、絶対に嫌!)


そう思うと同時に、彼女の口から叫び声が飛び出した。無意識のうちに愛する人の名を呼ぶ。


「助けてー!ヒューバート様、助けてください!!」


「ふん、助けを呼んだって、誰も来はしないさ!俺たちがここにいるのは、誰も知らないんだ」


ケビンはそんなエルナをせせら笑う。


そのブラウンの瞳には、エルナを我が物にしようとする、ギラギラした粗野な欲望が剥き出しになっていた。


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