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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第4章:幸せな日々に忍び寄る悪意

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(18)襲来

カーテン越しに差し込んでくる朝日に、エルナは目を覚ました。腕の中のポムを起こさないように気をつけながら、そっとベッドを抜けだす。


昨夜は温泉にも行かず、そのままポムと一緒に寝てしまった。ベッドの中でも小さな体を離さないエルナに、ポムは察したように大人しく身を任せてくれたのだ。


(ポムがいてくれて、よかった)


ポムの温もりに触れているだけで気持ちが落ち着き、心が慰められた。


昨夜は急に、色んなことが不安に思えてしまったけれど。こうして朝日を浴びていると、また元気が出てくる。


(今日は森に薬草を採りに行かなくちゃ)


そろそろ補充しておかないと、ハーブティーの材料がなくなってしまう。お昼にはまたヒューバートたちが来るし、早めに出かけて早めに帰ってこよう。


ドンドンドンドン!!


「ひっ!」


突然、小屋全体を揺るがすような暴力的な音が響き渡り、エルナは悲鳴を上げて身をすくめた。ベッドのポムも飛び起きて、何事かと周囲を警戒する。


ドンドンドン!!


再び大きな音が響く。誰かが乱暴にドアをノックしているのだ。


「おい、エルナ!いるんだろう!?ここを開けなさい!」


「お、お父さま!?」


聞こえてきた怒鳴り声に、彼女は全身を凍り付かせた。心臓がドクドクと早鐘を打って、手足が抑えようもなく震える。


(ポムを隠さなきゃ!)


エルナはベッドに駆け寄ると、震える手で小さな体を抱き上げる。ほんの一瞬迷った後、以前もポムを隠したことがある、クローゼットのカゴのなかにポムを入れた。


その間にも、苛ついたアーサーの怒号とノックの音が、エルナを急かしてくる。


「エルナ!早く開けろ!!私を待たせるんじゃない!!」


ドンドンドンドン!!


「は、はい、お父さま!今、参ります!」


顔だけドアに向けてそう叫び返すと、エルナはカゴのなかのポムに、こう言い聞かせた。


「いい?何があっても、絶対に出てきちゃダメよ?もし……もし、私がここから連れていかれても……必ず迎えに来るから、森に隠れていて!」


「きゅ、きゅう?」


不安そうにしているポムに、「シーッ」と人差し指を立てると、エルナはカゴのフタを閉めた。その上にふわりとポンチョを掛け、カゴを隠す。


「おい!?いつまで私を待たせる気だ!?早くしろ!」


「はい、ただいま」


エルナはドアに駆け寄り、一度寝室を振り返って確認した後、意を決してドアを開いた。


「遅い!この、のろまの役立たずが!!」


すぐに、アーサーの怒号が飛んでくる。後には、若い赤毛の騎士が、静かに付き従っていた。


「申し訳ありません」


「ふん!」


頭を下げるエルナを押し退けるようにして、アーサーは小屋の中へと足を踏み入れた。赤毛の騎士が、エルナの逃走を防ぐように、戸口の前に立つ。


アーサーは小さなキッチン兼ダイニングの真ん中に立って、部屋の中をジロジロと見回した。


エルナは心臓の鼓動を鎮めるように胸に手を置いて、強張った顔で父親の動きを見つめる。


「お前、小屋に男を引っ張り込んでるそうじゃないか?」


アーサーはエルナに向き直り、歪んだ口元で問いただした。


「そんな!お父さま、私はそんなことしてません!」


「嘘をつけ!二人組の騎士がここに通っているのを、私はちゃんと知ってるんだぞ!」


彼が威嚇するように手を挙げたので、エルナはビクッと身を縮めた。水魔法で冷水を浴びせられると思ったのだ。


だが、冷水は飛んでこない。


恐る恐る見上げれば、ニヤニヤと笑う父親の顔があった。娘が怯えるのを、面白がっているのだ。


「お父さま、あの方々とは……」


エルナは誤解を解こうとしたが、すぐに言葉に詰まってしまう。


ヒューバートの味覚障害を治すためだとは言えない。自分の魔力のことは、誰にも言ってはならないのだ。


「ほら見ろ、言い訳もできないじゃないか!それに、この菓子はなんだ?どれも王都の高級店のものばかりだぞ」


アーサーは片隅の椅子に積み上げられた、菓子の箱を指した。


「こんなものを買う金がどこにある!?全部男どもに貢がせてるんだろう!」


「あっ!」


彼は一番上の箱を手に取ると、エルナに向かって投げつけた。箱は、反射的に顔を庇ったエルナの腕に当たり、バラバラと菓子をまき散らしながら床に落ちた。


木の床に散らばった色とりどりのキャンディーを、アーサーはせせら笑いながら、靴の底でゆっくりと踏みつぶしていく。


(酷い!ヒューバート様が持ってきてくださったのに!)


大事なものを踏みにじられたような気がして、エルナは腕よりも心が痛んだ。無力な自分が悔しくて、唇を噛む。


「なんだその顔は!?」


ビシャ!!


「ひっ!」


怒号とともに、冷たい水がエルナの全身に浴びせられた。それは、肌が切り刻まれたかと錯覚するほどの、氷のような冷たい水だ。


(さ、寒い)


全身がずぶ濡れのエルナは、身を震わせた。冷水が髪を伝って、ぽたぽたと床に垂れていく。


「ふん!役立たずのうえに身持ちまで悪いとは、救いようがないな!」


アーサーは濡れ鼠のようなエルナを見下ろし、意地の悪い顔でニヤリと笑った。


「だが、安心しろ。それでもお前は私の娘だからな、お前の婿を決めてやったぞ」


そう言って、戸口の前の騎士に、顎で合図をする。彼はうなずいて、アーサーの横に立った。


「このケビンが、今日からお前の夫だ」


「え……?お、とう、さま……?」


父親の言うことが理解できずに、エルナは問い返した。体の芯に、寒さとは違った種類の震えが走る。


「何を驚いている?お前は騎士が好きなんだろう?だからコイツを婿に選んでやったぞ」


蒼白な顔で震える娘に、アーサーは喜色満面で告げた。


「エルナお嬢様!」


そんな父娘の様子を全く気にしていないように、ケビンは一歩前に進み出ると、エルナの前に跪いた。それは訓練された騎士の動作には見えず、まるで子供のごっこ遊びのようだ。


「俺は、あなたを生涯大切にすると誓います!」


「うわははは!良かったな、エルナ!」


アーサーは腹を抱えて笑い出す。


だが、呆然とするエルナの耳には、その愉快そうな笑い声さえ届かなかった。


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