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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第4章:幸せな日々に忍び寄る悪意

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(17)すれ違っていく心

この日もヒューバートとオリバーは、昼食のためにエルナの小屋を訪れていた。


いつものように三人と一匹で、焚き火のそばの丸太に座って食事をする。ヒューバートとエルナの間には、当然のごとくポムが座っていた。


「こら、毛玉!それは私の分だぞ!」


自分の皿にこっそり手を伸ばしてきたポムを、ヒューバートは叱った。


今日のメニューはショーユー味の鶏のから揚げ。外はカリッと香ばしく、噛めば旨みたっぷりの肉汁があふれる、ニンニクのガツンときいた逸品だった。


「キュウウ!」


ポムは抗議するように、空になった自分の皿を見せた。全部自分で食べたのだが、無くなったのは他の誰かのせいだと思っているような態度だ。


「お前、もう食べたのか?せっかくエルナが作ってくれたのだから、もっとゆっくり味わえ!」


ヒューバートはそう言って、自分の皿から唐揚げを一個、分けてやる。ポムは嬉しそうに「キュウ!」と鳴いて、大きなそれを一口で口に入れた。


「ああっ、だから味わって食えと……!」


肉の塊をあっと言う間に飲み込んだポムに、ヒューバートがまた小言を言った。丸太の端っこに座るオリバーが、「仲良しか!」と小声でツッコむ。


オリバーは相変わらずポムの剣術指南を続けていて、今日は小さな剣をお土産に持ってきてくれた。子供が騎士ごっこで使う、木製の玩具だ。


ポムは大喜びでその剣を振り回し、張り切っていた。相変わらず可愛いだけで、どこから見ても強そうではないが。


「ダメよポム、ヒューバート様の分を取っちゃ。私のをあげるから、ね?」


エルナはころころと笑いながら、自分の皿から唐揚げを分けてやった。ポムが膝にすり寄ってきて、「きゅう」と甘える。


ヒューバートとオリバーが来るようになって、こんな平和な光景が、毎日のように繰り広げられていた。


(なんだか、嘘みたいに幸せだわ)


オイル漬けの販売も順調だし、マカンを入れた新しいハーブティー作りも上手くいって、購入してくれる貴族の方にも好評のようだ。


そして、ヒューバートの味覚障害もかなり良くなっていた。エルナが作った以外の料理でも、少しずつ味を感じられるようになったそうなのだ。


(ヒューバート様のお役に立つことができて、それが一番嬉しい)


ふと視線を感じて顔を上げると、アイスブルーの瞳と目が合う。エルナがはにかみながら微笑むと、その瞳はすいと逸らされてしまった。


(あら……)


エルナは顔に笑顔を貼り付けたまま、所在なげに視線をさまよわせた。



「キュウ!」


その夜、いつものように夕食をたくさん食べたポムは、自分のブラシを持ってやってきた。初めて市場に行った時に、エルナが買ってあげたものだ。


毎晩、夕食の後にもふもふの毛並みを整えてやるのが、この頃の日課になっているのだ。


「ふふ、おいで!」


「きゅぅううう~」


エルナはポムの体をひょいと持ち上げて、膝の上に乗せた。ふわふわで温かい白い毛に、丁寧にブラシをかける。


よほど気持ち良いのか、膝の上で「クウクウ」と寝息を立てはじめたので、エルナは毛布を入れたカゴにポムをそっと移してやった。膨らんだお腹が、規則正しく上下している。


(温泉に行くまで、少し寝かせてあげよう)


エルナは棚の横に置いた椅子へと歩み寄った。


その椅子の上には、形も大きさも様々で、色とりどりな菓子の箱が積み上げられている。


全部ヒューバートが持ってきたものなのだが、食いしん坊のはずのポムは、何故か菓子は食べたがらない。エルナ一人では食べるのが追い付かないので、お菓子の箱はどんどん積み上がっていった。


たくさんの箱のひとつから、チョコレート菓子を一つ取り出す。


白く細い指がつまんでいるのは、輪切りのドライオレンジにビターチョコレートをかけた、見た目もお洒落な菓子だ。


(美味しそう……)


一口齧ると、オレンジの爽やかな甘みが口のなかに広がった。それがビターチョコレートの苦味とよく合っていて、エルナに「大人の味」を教えてくれる。


(ヒューバート様は、お菓子にとてもお詳しいのよね)


ヒューバートが持ってくるのは毎回違う店のもので、どの店も王都で流行っているのだそうだ。


美しいリボンで飾った菓子の箱を差し出しながら、彼はいつも色々と解説してくれる。


「この店のパティシエは、菓子職人の大会で優勝したのだ!」とか、「この菓子には、希少な果実が使われているのだ!」とか。


甘いものは苦手だそうで、自分では決して食べないのに、菓子にはとても詳しい。


(きっと、女性にお菓子を贈る機会が多いんだわ)


エルナは少し寂しい気持ちになるけれど、そんなことを思う自分こそ、図々しいというものだろう。


(だって、ヒューバート様がここに来るのは、味覚障害を治すためだもの)


その目的はもう、叶いつつある。


それが意味することに気づいて、エルナは切なくなって目を閉じた。瞼の裏に、情熱の光を宿したアイスブルーの瞳が浮かぶ。


もしかしたら、彼も同じ気持ちなのかもしれないと思ったこともあった……だが、最近の彼は何故だか冷たい。


いや、以前と同じように優しくしてくれるのだが、目が合ってもすぐに逸らされてしまう。この頃はなんとなく、距離ができたように感じていた。


(ヒューバート様は貴族だものね)


家を追い出されてこんな所に住んでいる自分は、もう貴族令嬢だと名乗る資格はあるまい。


(もしも、普通の貴族令嬢として、出会えていたら……)


母が元気でいて、伯爵令嬢として、どこかの舞踏会で普通に出会っていたら?


エルナは想像してみる。


豪華なシャンデリアが光を放つ煌びやかな会場。ドレスや宝石で着飾った自分に、騎士の正装のヒューバートが、うやうやしく手を差しのべる。


ふいに、手に口づけを落とされた時の感触が蘇って、エルナは顔を火照らせた。


「わ、私ったら、何を考えてるの!?」


「キュ、キュウ!?」


エルナが恥ずかしさのあまり叫ぶと、眠っていたポムが驚いて飛び起きた。何事かと駆け寄ってくる白い毛玉を、エルナは胸で受け止める。


「ポム……ポムはずっと一緒にいてくれるよね?」


小さくて温かな体に縋るように、ポムをギュッと抱きしめる。その白い頬を、ひとすじの涙が静かに伝い落ちていった。


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