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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第4章:幸せな日々に忍び寄る悪意

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(12)つかの間の平穏

「ああ、エリーさん!オイル漬けはできましたかね?」


ポムを隠したリュックを背に、いつもの八百屋に顔を出すと、女将が満面の笑みで迎えてくれた。両手のバッグいっぱいに詰めた瓶を見ると、女将はホクホク顔で喜んだ。


「いえね、エリーさんのオイル漬けが美味しいってあちこちで話して歩いたら、予約分だけで完売になっちゃいましてね!」


「え!?」


エルナは驚いて女将の顔を見る。話だけで20個分を完売するとは、思った以上に商売上手な人だ。


「だから、追加でまた20個、お願いしますよ。大丈夫ですよね!?」


グイッ!とふくよかな胸を突き出しながら、女将は満面の笑みでエルナに迫った。顔は笑っているが、瞳は獲物を追い詰めるハンターの眼光を宿している。


「は、はい……」


その迫力に、エルナはうなずいてしまう。お嬢さま育ちの彼女に、女将の要求を退ける知恵はなかった。


「そうですか、ありがとうございます!」


女将はすかさず瓶の入った袋を差し出した。エルナがそのまま持っていけるように、しっかり準備を整えてあったのだ。


「これは今回の分と、次の分の手付金として、代金の半分を。納品していただいた時に、あと半分をお支払いします」


お金が入った巾着をエルナの手に握らせて、まくし立てるように女将は説明した。エルナは巾着の重さに驚きながら、コクコクとうなずく。


今回はトマトの種とオリーブオイルを買う必要があるから、前金をもらえるのはありがたい。


「こんなにたくさん!?」


女将に促されて中身を確認したエルナは、思った以上の額に目を見張った。


「なに、エリーさんのオイル漬けは質がいいですから、これくらいが相場ですよ!」


「あっ、ありがとうございます!」


オイル漬けがお金になれば嬉しいと思ったけど、こんなトントン拍子にいっていいのだろうか?エルナは自分の頬を抓りたいような心持ちで、次の目的地へ向かった。



エルナが次に向かうのは薬屋だ。今日はハーブティーを持ってきていないけれど、どのくらい売れたのか確認しておきたいと思った。


「こんにちは」


ガラス窓があるドアを開けて入ると、カウンターの奥には、いつものようにメガネをかけた店主が立っていた。


「ああ、エリーさん、いらっしゃい」


店主のハリーはエルナの姿を認めると、こっちへおいでというように、手招きをした。近づいてくる彼女が着ているポンチョを目にし、ほんの一瞬、遠い目になる。


「あのハーブティーですけど、もっとたくさん作れますか?」


「え?ええ、まあ」


エルナは既視感を覚えながら答えた。店主のメガネの奥の瞳が、先ほどの女将と同じ種類の光を放っているのだ。


「いえね、とある貴族の方が大変気に入っておられまして」


(あなたを)と心のなかでつけ足しながら、彼は続ける。


「言い値でいいから、もっとたくさん欲しいそうなんです」


「まあ!」


エルナは目を丸くする。ありがたい話だけれど、自分のハーブティーにそんな価値があるのだろうか?


「エリーさん、貴族というものは、自分の欲しい物を目前にしたら、金に糸目をつけないんですよ」


(まあ、彼が本当に欲しいのは、お茶じゃないんですけどね)


驚いた様子のエルナに、ハリーは金額を提示する。それは、先日ヒューバートに売りつけた額の八割にのぼる額だった。


「えええ?そんなにですか!?」


平民なら数ヶ月は暮らせるその額に、エルナは目を剥いた。


「驚くことはないですよ、貴族相手の商売なんてそんなものです」


目を皿のようにしたエルナに、こともなげに告げながら、ハリーは条件を一つ加えた。


それは、ヒールシャワーのブレンドに、マカンの葉を入れたものを新たに作って欲しいというものだ。


「マカンは私の方で仕入れたものを提供しますので」


マカンは滋養強壮の効果がある。どうせ騎士団に納めるなら、騎士たちの需要にあったものにしたいと彼は考えていた。


(それに、このお嬢さんの技量を試してみたい)


どんな組み合わせでも癒しの効果が出るのか、植物に影響を与えるという自分の推測が当たっているのか、彼は知りたかったのだ。


「分かりました、作ってみます!」


店主の提案に、エルナは張り切って答えた。この頃は、違う種類のものも作ってみたいと、彼女も考えていたのだ。



薬屋を出たあと、エルナは市場に戻ってたくさん買い物をした。


オリーブオイルやら、買うものは色々あったし、懐が温かくなったので少し気が大きくなっていた。


(ヒューバート様は何がお好きかしら?)


パスタもご飯も美味しそうに食べてくれたけど、騎士ならやはり肉だろうか?


彼に食べさせたい料理が次々に浮かんできて、ついあれもこれもと買ってしまう。八百屋の女将に持たされた瓶もあったし、最終的には大変な大荷物になってしまった。


だが、イグニッションのクッキーを食べた彼女には、どうということのない重さだ。


大荷物をひょいと担いで、森へ帰る街道をスタスタと歩いていく。


時々すれ違う人が驚いて二度見していくが、今日の経験に興奮していた彼女は、まったく気づかない。


(それにしても、商人って凄いのね!)


エルナは心から感心していた。女将にしても薬屋の店主にしても、儲け話となったら遠慮はいらないと考えているようだった。


自分もひとりで生きていくのなら、見習わないといけないのかもしれない。


この先の生活が順調にいきそうな予感と、新たなハーブティー作りへの挑戦。


期待に胸を弾ませて歩くエルナは、まだ知らない。


あの赤毛の騎士が、エルナの運命を変えるべく動き始めたことを。




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