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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第4章:幸せな日々に忍び寄る悪意

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(11)アガサの歪んだ笑み

(……くっ!さぞかし惨めな暮らしをしてると思ったのに)


エルナが和気あいあいと楽しそうにしているのを見て、アガサは唇を噛んだ。


今日は若い赤毛の騎士に頼んで、エルナが追いやられた森の小屋へ、惨めな暮らしをあざ笑ってやるために来た。


だが、騎士が「複数の人の気配がする」というので、離れた場所からこっそり覗き見ることにしたのだ。


「お嬢さま、この辺りで」


愛想のかけらもない騎士の指示で、アガサは大きな木の後ろにぽっちゃりした体を隠す。騎士はアガサの大きな背中に冷ややかな一瞥をくれると、少し後方に下がって周囲を警戒した。


幹の陰からそっと顔を出した彼女の目に映ったのは、たくましい騎士たちと楽しそうに食事をするエルナ。


どういう事なのだろう。粗末な服しか与えていないはずなのに、遠目に見ても一流の品だと分かる、品の良い暖かそうなポンチョを身にまとっている。


アガサはパツパツになった自分のドレスを見下ろし、歯噛みした。どんどん太っていくし、肌の調子もよくないのだ。


なのに、姉は屋敷にいる時よりも、格段に美しくなっている。


そのハニーブロンドの髪は、日の光を受けて艶やかに輝いていた。銀髪で背の高い騎士も、そんな彼女に見惚れているようだ。


(あの方……すごく素敵!)


琥珀色の目をすがめて、アガサは騎士を食い入るように見る。


うっとりするような美貌と、引き締まった体。振舞いには気品と威厳があり、爵位もかなり高いに違いないと思わせた。


その姿は、アガサが結婚相手にと思い描いた、完璧な王子さまの姿そのもの。


(どうして!?どうしてお姉さまばっかり!)


アガサは両の拳を握りしめる。その胸には、昨日の散々な見合いの場面が浮かんでいた。



「う、うん……これはその……ずいぶんと甘くて、濃厚だね」


見合いの相手、ボブ・リンゼイは、アガサが持参したケーキを一口食べるとそう言った。


彼はリンゼイ伯爵家の次男で、婿入り先を探している。家格も合うし、年齢も近いということで、アーサーがお膳立てしたのだ。


「あら、お口に合いませんでしたかしら?」


小首を傾げると、ドレスの胸元を飾るピンクのフリルが顎に触れる。サイズ直しが間に合わなくて、仕方なく既製品に身を包んだアガサは、上目遣いで微笑んだ。


「いやいや、そんなことはないよ!とても個性的で斬新だ!」


上目でにらみつけられたと思った彼は、首をブンブン振ってアガサの言葉を否定する。だが、見合いが終わるまで、二度とフォークを手にすることはなかった。


このケーキは、母のジャネットお気に入りの菓子店のものだ。


ただでさえ重い濃厚チーズケーキに、チョコレートでコーティングをするように注文したジャネット。アガサはそこに、これでもかと生クリームを塗りつけ、ドロドロに甘い苺ジャムを一瓶分ぶちまけた。


それを自分の手作りだと言って持参したのだが、どうやらお気に召さなかったらしい。


(ふん、味音痴が!)


アガサは口元で笑顔を作りながら、ボブの貧相な体格をジロジロと見た。身長は平均的だが、横幅は自分の半分くらいしかない。


容姿も凡庸で、どこにでもいそうな、ごく普通の貴族の青年だ。


領地経営だの、芸術の話だの、会話も全然つまらなくて、アガサはこれっぽっちも興味が持てない。


自分がこれほど我慢して付き合ってやってるのに、この男はアガサの(装飾した)ケーキを褒めることさえ出来ないのだ。


(こんな男、願い下げだわ!)


自分には、もっと見た目が良くて、教養のある男性がふさわしいのだ。あるいは、もっと家格の高い家からの婿が。


外で連れ歩いて自慢ができ、家では惨めな姉を羨ましがらせる男性でなければ、つまらない。


「では、失礼いたします」


予定の時間が終わると、アガサは早々にリンゼイ家を後にした。


(お父さまに言って、さっさとお断りしてもらおう)


そう思ったアガサだが、散々な見合いの口直しに人気のカフェに寄ってから帰ると、もう相手からの断りの知らせが届いていた。


「なによ、馬鹿にして!あんな男、こっちから願い下げよ!!」


怒り狂ったアガサはまたつむじ風を起こし、うんざりした使用人たちの仕事を増やすのである。



「帰るわよ!」


怒った顔で振り向いたアガサに、赤毛の騎士はホッとしてうなずく。あまり長居すると、あちらの騎士たちに気づかれてしまうと心配していたのだ。


彼は、森を歩き慣れないアガサに事務的な態度で手を貸し、離れた場所に繋いである馬へと戻る。


「早く屋敷に戻って!」


手伝ってもらって何とか馬の背によじ登ると、アガサは騎士に命じた。


アガサの体重が馬の負担になることを考えて、騎士は馬には乗らず、手綱を引いて木々の間を歩いた。その足取りには少しの迷いもなく、屋敷への最短距離を進んでいく。


アガサは知っていた。この騎士がずっと以前からエルナに想いを寄せていることを。そして、小屋にひんぱんに様子を見に行っているらしいことも。


(平民のクセに生意気なのよ!)


馬上から、アガサは赤いクセ毛の頭をにらみつけた。


この騎士は平民だが、火の魔法が使えるので、特別に雇われている。火の魔法は日常的に使えて便利な反面、その魔力を持つ者は多くないのだ。


(『お姉さまが小屋に男を二人も引っ張り込んでる』って、お父さまに言いつけてやるわ!)


正確には小屋の中に入れているわけではないが、関係ない。


父はカンカンに怒って、姉を連れ戻すに決まっている。その怒りをさらに焚きつけて、下卑た中年男の後妻にしてやるのだ。


(この男も、さぞかしがっかりするでしょうね)


王子さまのような銀髪の騎士と引き裂かれて、絶望で泣き叫ぶ姉。


そして、大切な人が生贄のごとく嫁がされるのを、指をくわえて見ているしかない平民の騎士。


二人の泣きっ面を想像して、アガサはようやく気分が晴れてきた。

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