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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第4章:幸せな日々に忍び寄る悪意

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(10)恋のライバル?


「お待たせしま……え?」


昼食の皿を乗せたトレイを手に出てきたエルナは、目の前で繰り広げられる光景に足を止めた。


オリバーとポムが、一緒に枝を振り回しているのだ。


「突き!」


「キュー!」


オリバーが前に向かって枝を突き出せば、ポムも小枝を突き出す。


剣術ごっこだろうか?オリバーの真似をするポムは、真面目な顔で頑張っている。


だが残念なことに、手足の短いもふもふボディでは、遊びだとしても今ひとつ迫力が足りていない。


(か、可愛いの破壊力はあるかも?)


ポムが動くたびにお腹がぽよんぽよんして、可愛すぎる。


「剣術の稽古だそうだ」


「は、はあ」


苦笑いを浮かべたヒューバートがやってきて、エルナからひょいとトレイを取り上げた。


「これは私が持っていこう」


「ありがとうございます……ひゅ、ヒューバート様」


消え入りそうな小さな声。でも彼の名を呼ぶその声には、恋慕の響きがあった。甘美な思いが胸いっぱいに広がって、ヒューバートの顔に極上の笑顔が咲く。


蕩けるような瞳の熱さに耐えかねて、エルナは慌てて言葉を継いだ。


「あ、あの、今日はお米の料理を作ってみました」


「米か!保存がきいて腹持ちがいいから、遠征にはよく持っていくんだ」


ヒューバートが嬉しそうに答えたので、エルナは少し安心する。国内ではまだ馴染みのない穀物なので、少しだけ心配だったのだ。


「だが、これは普通の炊き方とは違うな?」


「はい、鶏ガラスープで炊いてみたんです」


皿から立ち上る香りを愛おしそうに嗅ぐヒューバートに、エルナは嬉しくなって炊き込みご飯の作り方を説明した。


料理のことなら、いつでも落ち着いて話ができるのだ。


(でも、普通の貴族令嬢なら、もっと色んな話題で楽しませてあげられるのよね)


華やかな社交界での会話術。伯爵令嬢として当たり前の経験を積んでいないことを、彼女は少し情けなく思った。


「おーい!早く飯にしようぜ!」


「キュウ!」


すっかり仲良く(?)なったらしいオリバーとポムが呼んだ。


ヒューバートとエルナは顔を見合わせてクスリと笑い、焚き火の側へと並んで歩く。


「お待たせしました。今日は炊き込みご飯とパリパリチキンステーキです!」


ヒューバートの持つトレイから皿を取り、エルナはテーブル代わりの切り株に並べた。皿の上には、ご飯と切った鶏肉が盛りつけてある。


「ポムはこっちね」


「キュー!」


ポムの分は食べやすいようにお椀に入れ、鶏肉も小さく切ってある。ポムは自分のフォークを手に取ると、焚き火の近くの地面にペタンと座って、さっそく食べ始めた。


(この毛玉は、フォークを使うのか?)


上手にフォークを操るその姿に、ヒューバートは驚く。オリバーも目を丸くしていた。


だが、最初の時にフォークを握っていたのはそういう訳かと、合点がいった。毛玉はやはり、普通の獣ではないのだ。


「さあ、お二人も冷めないうちにどうぞ」


エルナの声に、二人は皿を取って丸太に腰かけた。オリバー、ヒューバート、エルナの順に座る。


「美味い!」


鶏肉の一切れを食べたオリバーが叫んだ。


ヒューバートも肉を一切れ口に入れ、ゆっくりと味わって食べる。肉汁と香ばしい皮の脂が、口のなかに溢れた。


「うん……美味いな」


肉は柔らかくてジューシーなのに、皮はパリパリに焼けている。シンプルな味付けが、肉そのものの旨みを引き立てていた。


美味しいものが味わえる幸せ。その喜びと共に、彼は香ばしい肉を噛みしめた。


「どうしたら皮がこんな風になるんだ?」


喉を鳴らして飲み込むと、彼はエルナに聞いた。


「皮を下にしてフライパンに入れたら、肉の上に水を入れた鍋を乗せるんです」


「水を入れた鍋を?」


「はい、そうやって上から押さえつけながら焼くと、皮がパリパリになります」


それを聞いて、オリバーが横から口をはさむ。


「エルナちゃんは料理の知識が豊富ですごいな!この米の料理も凄く美味しいぜ!ちょっと焦げたところが香ばしくて」


「ありがとうございます!炊く時にショーユーを入れてみました」


エルナは嬉しくなって、パッと顔を輝かせる。笑顔を向けられた彼に、ヒューバートの氷の視線が突き刺さる。


(はいはい、もうしゃべりませんよ!)


いちいち鬱陶しいヤツだと思いながら、オリバーはやけになって、炊き込みご飯を口いっぱいに頬張った。


「確かに、このおこげの所が美味い。ショーユーか、この前も隠し味に使っていたな」


ヒューバートは感心して言った。鶏ガラの旨みをたっぷり吸い込んだご飯は、香ばしいショーユーと相性抜群だ。


「はい、お米を買ったお店でいただいたんですけれど、遠い東の国の調味料だそうです」


「そんな未知の調味料まで使いこなすとは、君は本当に素晴らしいな!」


「いえ、そんな……」


並んで座った二人は、微笑みを交わす。エルナの心臓が、また早鐘を打ち始めた。恥じらいに頬を染めながらも、向けられた熱い眼差しをまっすぐに受け止める。


その熱い眼差しは太陽の光のように、彼女の心を心地よく温めてくれた。


「キュウ!!」


その時、地面に座っていたポムが立ち上がり、丸太に向かってぴょんと跳んだ。二人の間の僅かな空間に、無理やり体を押し込むようにして座る。


「お、おい!」


ヒューバートが抗議の声を上げるが、ポムは知らんぷりだ。彼には一瞥もくれず、エルナに空になったお椀を見せる。


「あらポム、もう食べちゃったの?」


エルナは少し体をずらし、ポムのために場所を空けてやった。その分、彼女はヒューバートから少し離れる。


(くっ!この食いしん坊め!)


ほんの少し離れただけなのに、心に冷たいすきま風が吹き込んできたようだ。


「しょうがないわね」


「きゅぅうう」


エルナは笑いながら、自分の分をポムのお椀に入れてやる。ご飯を移すために手を動かすその膝に、ポムは甘えるようにすり寄った。


チラ!


ほんの一瞬、ポムが短い首をひねってヒューバートを見やった。


その円らな瞳の奥に、明らかな勝利の輝きを見た瞬間、ヒューバートの額に青筋が浮かぶ。


(コイツ……わざと!)


エルナと自分がいい雰囲気になったのを察して、わざと間に割り込んだに違いない。


あの大きな尻尾をつかんで、向こうの木立に放りこんでやろうかと思ったが、エルナの手前どうすることもできない。


ヒューバートはギリッと奥歯を噛みしめる。


その後ろでは、オリバーがポムに向かってこっそり親指を立てていた。



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