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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第4章:幸せな日々に忍び寄る悪意

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(9)ポムの剣術修業

王宮周辺の人ごみをようやく抜けた二人は、エルナが待つ森に向かって馬を進めていた。


オリバーは、ヒューバートが一人で出かけてしまった理由を問い詰めてみたが、はぐらかされてばかりで、はっきりとした答えは返ってこない。


らちが明かないので、ずっと気にかかっていた、もう一つの質問を投げてみる。


「それで、あの小っちゃい毛玉の正体は分かったのか?」


ハリーも毛玉の魔力を警戒していたが、いったいどんな力なのだろう?エルナと同じように、癒しの力を使うのだろうか?


「いや、まだ……」


歯切れの悪いヒューバートの答えに、オリバーは友の横顔を盗み見た。無表情な仮面の下に、微かな不安と迷いの色が見て取れる。


それは、付き合いの長い彼にしか分からないような、ほんの小さな表情の揺れだった。


(お前は何を恐れているんだ?)


彼はそう聞きたい気持ちをグッと抑える。きっと、「まだ言えない」なにかがあるのだろう。


(時期が来れば話してくれるさ)


もどかしくはあるが、友の判断を信じよう。そう心に決めて、オリバーは前を向いた。


二頭の馬は歩調を合わせながら、目的地へと進んでいく。



二人が馬の背に揺られている頃、エルナは小屋の前で焚き火をしながら、ヒューバートが来るのを待ちわびていた。


隣では、大きな焼き芋を抱えたポムが、ご機嫌で芋にかぶりついている。彼女が火をつけている間に、干してあった芋をポムが自分で持ってきたのである。


……くぅうう!


漂ってくる甘い匂いに、エルナのお腹が小さく鳴った。もうお昼の時間を過ぎていたので、実のところお腹はペコペコだった。


「きゅ……きゅう?」


食べかけの焼き芋を、ポムがおずおずと差し出してくる。その顔には、「ちょっと惜しいけど、少しなら食べてもいいよ」と書いてあった。


その小さな頭の中では、エルナを喜ばせたい気持ちと焼き芋を独り占めしたい気持ちが、戦っているに違いない。


エルナは「ぷっ!」と噴き出す。


「ありがとうポム。でも、お二人とももうすぐ来ると思うから、私はいらないわ」


もふもふの頭を撫でて、そう言った。


「キュウ!」


ポムは元気に鳴くと、ガブリと焼き芋に食らいつく。どんなに待たされても、エルナはヒューバートと一緒に食べたかったのだ。


「エルナ!」


それからいくらも経たないうちに、遠くから自分の名を呼ぶ声が聞こえた。腰かけていた丸太から立ち上がって見ると、道の先に馬に乗った二人の騎士の姿がある。


(ヒューバート様だわ!)


エルナはヒューバートの名前を呼ぼうと思ったけれど、なんとなく恥ずかしい。代わりに、頭上で両手を大きく振った。


「いらっしゃいませ!」


待ちきれずに、エルナは木に馬を繋いでいる彼らに駆け寄る。こげ茶のポンチョの上で、ハニーブロンドの髪が揺れた。


「着てくれているのだな……よく似合っている」


「あ、ありがとうございます。とても暖かくて、着心地が良いです」


目を細めたヒューバートに、エルナは頬を染めながら返した。


「エルナちゃんは可愛いから、何を着ても似合うよ」


オリバーは意味ありげに笑いながら、心の中で(コイツには昨日もそう言ったけどな)とつけ足す。


そんなオリバーに冷ややかな一瞥をくれると、ヒューバートは馬に積んだバッグから小さな箱を出し、エルナに差し出した。


「遅くなって悪かったな、これは土産だ」


それは王都の高級菓子店のチョコレートだった。王宮からの帰りに、少し遠回りして寄ったのである。


「用があって王都の中心まで行ったんだ、その、たまたま店の前を通ったものだから」


その言葉に、今度はオリバーが冷ややかな視線を向ける。


素直に「君のために買いに行ったんだ」と言えば良いものを、菓子ひとつで何故そんなに照れるのか。


「まあ、よろしいんですか?ありがとうございます!」


凝った装飾を施された小箱を受け取り、エルナは目を輝かせた。チョコレートなんて、何年ぶりだろう。


家では使用人扱いだったので、お菓子なんて食べさせてもらえなかったのだ。


貴族令嬢としてはしたないと思いながらも、子供のようにウキウキと弾んでしまう。その様子に、ヒューバートは目を細める。


(ふっ……可愛いな)


こんなに喜ぶなら、これからは毎回菓子を買ってこよう。この可愛い姿をいつも見られるように。


ヒューバートの胸に、新たな欲望が生まれた。


それは、オリバーの頭痛の種となる欲望だ。なんせ明日から、王都中の人気菓子店を調べさせられることになるのだから。


「では、食事の用意をしてきますね!」


チョコレートの小箱を胸に抱えて、エルナは弾む足取りで小屋へと戻る。


「ああ、頼む」


その後ろ姿を見送ると、二人は焚き火へと歩み寄った。


火のそばの丸太には、白い毛玉がちょこんと座っている。ちなみに特大の焼き芋は、もう全部ポムのお腹に入っていた。


「おう、小さいのもいたのか」


「キュウ!!」


オリバーが腰をかがめて声をかけると、ポムは丸太の上に立ち上がって、ヒューバートに敵意のこもった目を向ける。


「……なんだ?」


「昨日の戦いの続きをしたいんじゃないか?」


いぶかしげなヒューバートに、オリバーは言った。


「キュ!」


ポムは「そうだ!」とばかりに腰に手を当て、芋で膨れたお腹をぽよんと突き出した。


「お前……意外としつこいな」


昨日、「明日にしよう」と言ったのは確かだが。ポムの記憶力の良さに驚きながら、ヒューバートはどうしたものかと思案する。


こんな小さな毛玉を黙らせるのに、魔法を使うまでもない。だが、エルナの大事な家族である毛玉を、少しでも傷つけたくはなかった。


そんな彼の心中を察して、オリバーが口を開いた。


「おい毛玉!ヒューバートは魔法も使えるし、強いぞ。コイツを前にしたら、大きな魔獣だって震え上がるくらいだ!」


オリバーは魔獣の真似をして、「ガオー」とやって見せる。


「きゅ、きゅう」


薪を切った風魔法を思い出したのだろう、ポムは少し怯んだ様子だ。


「今のお前の腕じゃ、到底コイツにはかなわない」


オリバーはしゃがんでポムと視線を合わせ、ゆるゆると首を横に振る。


「だから、俺がお前に稽古をつけてやろう!」


「キュ?」


「……は?オリバー、何を言ってるんだ?」


ポムが丸い目をさらに丸くして、首を傾げる。ヒューバートも呆れた目で彼を見た。


「こんな小さな毛玉だって、鍛えておけば、エルナちゃんの役に立つかもしれないだろ」


「馬鹿を言うな」


ヒューバートは鼻を鳴らした。もちろん、オリバーだって、本気でそんなことを考えている訳ではない。


だが、またエルナとヒューバートの熱々の姿を見せつけられるくらいなら、この毛玉と騎士ごっこでもしていた方がマシというものだ。


仲良くなったら、そのうちコイツの正体も分かるかもしれない。


「キュ、キュウ!」


ポムは「よし、やってやる!」とばかりにうなずいた。


「よし!毛玉、まず基本のかまえはこうだ!」


彼は手ごろな小枝を拾ってポムに渡し、自分も長い枝を持って、剣のようにかまえた。


「キュウ!」


ポムは短い後足で丸太の上に立つと、キリリとした表情で小さな枝を前方に突き出す。芋で膨らんだお腹が、ぽよんと揺れた。


こうして、ポムの剣術修行が始まったのである。


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