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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
家を追い出された伯爵令嬢、謎のモフモフを拾う

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(4)隠されていた事実

数日後、エルナは無言のまま父とふたりで馬車に揺られていた。 身内だけの簡単な葬儀を済ませ、さきほど母を墓に埋葬して来たのだ。


(お母さまが亡くなったのに、お父さまは悲しくないの?)


エルナは向かいに座る父の様子をうかがう。でっぷりと太った体は、実年齢よりも彼を老けて見せていた。


父親は仕事が忙しく、家には月に二、三回しか帰ってこない。家に居る時はたいてい不機嫌そうにしているので、エルナは父とろくに話した記憶がない。


(これからはお父さまは家にいてくださるのかしら?)


使用人たちがいるから生活に不便はないけれど、エルナは不安で仕方なかった。あまり交流のない父だとしても、屋敷にいてくれるだけで心強いに違いない。


父にたくさん尋ねたいことがあった。


だが、この歳までろくに話したこともなく、母が亡くなっても悲しい顔ひとつ見せない父に、どう話しかけていいのか分からない。


迷ううちに、馬車は屋敷へとついてしまった。 


「お帰りなさいませ」


馬車のドアが開けられ、父はひとりでサッサと降りていく。まるでエルナなど乗っていないかのように。


使用人の手を借りて馬車から降りた彼女は、玄関の前に見知らぬ婦人と、自分と同じ年くらいの娘が立っているのに気づいた。


(この方たちはいったい?)


エルナは少しだけ眉をひそめた。


まるまると太った、母娘らしいふたり。


彼女たちは、喪中の家を訪問するにはふさわしくない、とても派手な服装をしていたのだ。


「あなた、お帰りなさいませ」


婦人が進み出て出迎えの挨拶をすると、父はエルナがこれまで見たこともないような満面の笑みを浮かべた。


「おお、ジャネット!先に着いていたのか」


婦人のそばへ歩み寄って肩を抱き、頬に軽く口づけをした。


(えっ!どういうこと?)


エルナが戸惑っていると、今度は娘がバタバタと駆け寄る。


「おかえりなさい!」


そう言って父に飛びつくように抱きついた。勢いでフリルがたくさんついたドレスの裾がひるがえる。


服装を見れば貴族の令嬢のようではあるが、それにしてははしたない振る舞いである。


「アガサ、今日もかわいいな」


しかし父はそれを咎めるでもなく、いかにも愛おしそうな表情で頭を撫でた。アガサと呼ばれた娘も、無邪気なようすで笑い返す。


「お父さま、このお屋敷はとっても広くて素敵ね!私こんなお屋敷で暮らせるなんて嬉しいわ」


(ここで暮らすですって?)


エルナはあっけにとられてぽかんと口を開く。


この屋敷で暮らすとはどういうことだろう?見知らぬ娘が自分の父を「お父さま」と呼ぶのも解せない。


「あの、お父さま、その方たちは?」


戸惑いを含んだその問いかけに、父はやっとこちらを振り向いた。ようやく存在を思い出したというように。


「今日から一緒に暮らすジャネットとアガサだ。喪が明ける三ヶ月後には、ジャネットを正式に私の妻に迎える。お前もこれからはお義母さまと呼びなさい」


その声は冷たく、母娘に向けていたような優しい笑顔はない。


そして、傍らの娘の肩に手を置いて言った。


「アガサは私の実の娘だ。お前とは血のつながった妹なのだから仲良くしなさい」


「……え?」


その言葉は、母を亡くしたばかりのエルナの心に、冷たい楔のように打ち込まれた。


(いったいどういうこと?だって、あの子は私といくらも歳が違わないわ)


そう考えて、彼女は答えに行き着く。それは、貴族の家にはよくある話だ。


(もうずっと前から、お父さまには別の家庭があったのね)


足元の地面が急にふわふわと頼りなくなったように感じる。


父の冷たい態度の理由が、今やっと分かった。父の愛情は自分ではなく、ずっと前からこの母娘に向けられていたのだ。


呆然とするエルナに、アガサが父の腕のなかから笑いかける。瞳に敵意と悪意を宿した笑みだ。


横に並んだジャネットは勝ち誇ったように顎を上げ、冷たい目でこちらを見ていた。


「お父さま、そんな、待ってください!」


エルナの抗議の声を無視し、父は背中を向けてふたりを連れて屋敷に入ってしまった。


その後を追うことができなかった彼女は、救いを求めて周囲に視線を泳がせる。長年務めている老執事と目が合う。


彼は気まずそうな顔で、そっと目を伏せた。


(ああ、そうなのね)


エルナはすべてを悟った。


知らなかったのは自分だけで、母も周囲も知っていたのだろう。父が帰ってこないのは仕事のせいではなく、愛人とともに別の家庭を持っているからなのだと。


(お母さま)


目を閉じて母の優しい笑顔を思い浮かべる。


母と、祖父の代からの使用人たちに囲まれた暮らしは、温かくて心安らぐものだった。


母はこのブルック伯爵家の一人娘であり、父のアーサーは入り婿。この政略結婚がうまくいっていないことを、母はエルナにだけは必死に隠していたのだろう。


「お父さまはお疲れなのよ」


たまに帰ってくる父に冷たくあしらわれたとき、母はそう言って慰めてくれた。自分の前で父を悪く言うことなど一度もなかったのだ。


あの時、母はどんな気持ちでいたのだろうと思うと、胸が締めつけられた。



この三ヶ月後、父は宣言どおりジャネットと結婚した。一歳違いのアガサもブルック伯爵家の正式な次女として届けられる。


母の親戚からは抗議の声が上がったが、どんなに早く再婚しようが法的な問題はない。父親そっくりのアガサにも、文句のつけようがなかった。


「いいこと、これから私のことは『奥さま』と呼びなさい」


新しく雇った使用人たちの前で、ジャネットはエルナにそう命じた。彼女は結婚すると同時に、使用人たちを全て入れ替えたのだ。


エルナは屋敷の中で孤立し、ドレスなどの高級品を取り上げられて、狭い屋根裏部屋に追いやられた。


そして、使用人以下の扱いを受けるのである。


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