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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第3章:美味しい香りが引き寄せた運命の出会い

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(14)伯爵邸に吹き荒れる嵐



この日、ブルック伯爵家のアガサの部屋では、ドレスの試着が行われていた。


数日後に見合いを控えているアガサは、自分を華やかに見せるための一着を選ぶのに、執念を燃やしていた。


「ちょっと!私に全然合わないじゃない!!」


金切り声を上げる彼女が今身につけているのは、上質なシルクで作られた真っ赤なドレス。胸を飾るフリルが、アガサを太った金魚のように見せていた。


そのうえ、背後の金具がどうしてもはまらず、むちむちした背中が丸出しの状態だ。


「あんたたち、ドレスもまともに着付けられないの!?」


アガサは地団駄を踏んだ。


その周囲に散らばるのは、鮮やかな原色のドレスの数々。どれもたっぷりのフリルで飾られていて、南国の花のように絨毯の上を彩っている。


それらは全て、アガサの好みに合わせて特注されたものだ。


だが、今の彼女には一つとして合わない……サイズが。


侍女たちがコルセットをどんなにきつく締めても、豊満な体をドレスの下に押し込もうと頑張っても、どこからか肉がはみ出てしまう。


「アガサお嬢さま、こちらのドレスはいかがでしょう?」


侍女の一人が、びくびくしながら真っ黄色のドレスを差し出す。


「そんなもの着ないわよ!」


「あっ!」


アガサはその手からドレスをむしり取り、床に投げつけた。


どうせこのドレスも着られやしないのだ。


それは侍女たちのせいではないと分かっているのに、イライラがどうしても抑えきれない。


「まったく!どいつもこいつも役立たずね!!」


そう叫んだアガサの周囲に、不格好なつむじ風が巻き起こる。それは感情のままに振り回すだけの、制御のできない、生ぬるい風だ。


「お、お止めください!」


「アガサお嬢さま、落ち着いて下さいませ」


侍女たちの制止の声は、すぐに悲鳴に変わる。


部屋に嵐が巻き起こり、床に散らばったドレスが宙を舞い、テーブルランプや花瓶が倒れて床に転がる。天井のシャンデリアがゆらゆらと揺れ、ベッドの天蓋を囲む布がはためいた。


侍女たちは寄り添って床に屈みこみ、頭を下げて嵐が過ぎ去るのを待った。


アガサの魔力量など、たかが知れている。ほんの少し我慢していればすぐに収まることを、侍女たちは分かっていた。


やがて、風の勢いは弱くなり、宙に浮いていたドレスが音もなく床に落ちた。侍女たちはホッとして顔を上げる。


「はあ、はあ、はあ!」


魔力を使い切ったアガサは、肩で大きく息をしている。赤らんだその頬には、化粧で隠しきれない吹き出物がいくつも出来ていた。


「お茶にするから、着替えさせて!」


「か、かしこまりました」


侍女たちがいっせいに立ち上がり、床に散乱する物を避けながらアガサに近づく。震える手で背中の開いたドレスを脱がせ、楽な普段着のドレスに着替えさせた。


「ふん!」


アガサは鼻を鳴らし、鏡の中の自分をにらみつける。最近作ったウエストの緩いドレスを着た自分は、以前よりもずっと太って見えた。


(違う。太って見えるんじゃなくて、太ったのよ!)


現実を直視せざるを得なくなって、彼女は唇を噛む。


最近は何もかもが悪い方向に向かっている。どんどん肉付きが良くなるし、肌は荒れるし、体はいつもだるくて重い。


食の好みも食べる量も以前と変わらないのに、どうしてだろう?


アガサは昨夜の食事風景を思い出す。



「あのコックはどうも、脂っこい料理ばかり出し過ぎるな」


父のアーサーが、胃のあたりをさすりながらそう言った。大好きなはずの脂ののったステーキは、まだ半分ほど残っている。


彼が最近は胃薬を手放せなくなったのを、アガサは知っていた。


「あら、どれもあなたの好物じゃないですか」


母のジャネットは相変わらず食欲旺盛だが、ナイフを握る指は以前にも増して太い。ドレスもピチピチで、今にもはちきれそうだ。


肉を咀嚼するたびに、たるんだ顎が揺れる。そこに並んでいるのは、ブツブツとした吹き出物の跡。


アガサは急に食欲をなくして、好物のポテトフライを残した。


(ちょっとおやつを食べ過ぎたかな?)


最近はなにを食べても美味しいと感じられない。


以前は楽しかった食卓。それが今では、正体の分からない重い空気に支配され始めていた。



(これってみんな、お姉さまを追い出してからじゃない?)


散らかった自室で、アガサは鏡のなかの自分に問いかける。以前と変わったことと言えば、それくらいしか思いつかない。


エルナは家族の健康に気を配って、食事の用意をしていた。母の言うように、「くだらない」と思ってきたけれど、結局は姉が正しかったのかもしれない。


両親はまだ、エルナを屋敷に入れる気はなさそうだが、自分が頼めば呼び戻すことが出来るだろう。


(今頃はきっと、みじめな生活を送っているんでしょうね)


あのオンボロ小屋で、食べるものもなくて震えている姉を想像し、アガサは口元に笑みを浮かべた。


自分が手を差し伸べてやれば、きっと泣いて喜ぶに違いない。恩を着せて連れ戻し、今まで以上に姉をこき使ってやろう。


(奴隷のように、ね)


エルナが自分の前にひれ伏す姿を想像し、アガサの口角はさらに上がった。


自分のために膝をつき、あかぎれだらけの手でドレスの裾を捧げ持つ姉。その屈辱に満ちた表情を想像するだけで、イライラがすっと消えていくようだ。


「部屋を片付けておいてね!」


アガサは侍女たちに言い放って、廊下へと続くドアに足を向ける。


お茶のために居間へ向かうのではない。あの赤毛の騎士を探しに行くのだ。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次章から物語は大きく動いていきます。

ここまで読んで面白いと思っていただきましたら、リアクションや評価、感想をいただけますと励みになります。

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