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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第3章:美味しい香りが引き寄せた運命の出会い

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(10)ソレはなんだ?

(私ったら、何を動揺してるの!)


小屋のドアを閉めたエルナは、その場にへたり込んだ。ヒューバートの色気に完全に当てられてしまっている。


顔が熱くなって、無意識に手でパタパタと扇いだ。


「キュウ?」


エルナのおかしな様子に気づいたポムが、寝室の入り口から首を出した。心配そうにこちらを見るつぶらな瞳ともふもふのほっぺ。その愛らしさが、彼女の気持ちを落ち着かせてくれる。


「ごめんねポム、何でもないの」


エルナはひとつ息を吐くと、トレイを手に立ち上がった。早くパスタを作らないと、二人を待たせてしまう。


彼女はかまどへと近づき、お湯の沸いた鍋にパスタを投入する。パスタがくっつかないように、時々鍋をかき混ぜつつ、皿の準備に取りかかった。


そうするうちに、パスタはちょうどいい具合に茹で上がる。短時間で柔らかくなるように、朝のうちにある仕込みをしてあったのだ。


エルナは棚からキノコのオイル漬けを取り出し、かまどにフライパンを乗せた。オイル漬けのオイルとニンニク、刻んだ唐辛子を少量入れ、弱火で炒める。


熱せられたオイルの中でニンニクが踊り、食欲をそそる芳ばしい香りが弾けた。


そこへオイル漬けのキノコも投入し、軽く炒める。黒真珠の芳醇な香りがニンニクと重なり、濃厚な香気が小屋に満ちていく。


最後に茹でたパスタとショーユーを入れて、手早く和えた。


「きゅ、きゅうううう!」


香りに誘われたのか、ポムが足元にやって来ていた。


エルナに向かって、空になった皿を持ち上げてみせる。どうやらクロケットを全部食べてしまったようだ。


「あらあら、もう食べちゃったの?」


エルナは笑って、皿にパスタと残してあったクロケットをよそってやった。ポムを一人にしてしまうのは、仕方がないとはいえ気が引ける。


「ごめんね。一人のご飯になっちゃうけど、寝室でお利口にしててね?」


「キュウ!」


彼女の心配をよそに、ポムは上機嫌で寝室へと戻っていった。エルナは二つの皿にパスタを盛りつけると、外で待つ騎士へとそれを運んでいく。


無心でフライパンを振るうちに、先ほどの動揺はすっかり凪いでいた。パスタを手にエルナが外へ戻ると、二人の騎士はクロケットを口に運ぶ手を止めて、こちらを振り返った。


「お待たせしました」


「「美味そうだな!」」


香ばしいパスタの皿に、目を輝かせる。フォークを手に、さっそく口に運ぶ。まるで子供のように。


「このニンニクの香りがたまらん!キノコの旨みもパスタによく絡んでる」


豪快に食べるオリバーに対して、ヒューバートは噛みしめるようにパスタを味わう。


満足げに最初の一口を飲み込むと、エルナに尋ねた。


「このパスタ、すごくもちもちとして美味いな」


「はい、朝から水に浸しておいたのです」


「水に?」


聞き返すヒューバートに、エルナは説明する。


「乾麺を半日くらい水につけておくと、水分を吸って柔らかくなるんです。茹でる時間が短縮できて、もちもちの食感になります」


「それはいいアイディアだ」


ヒューバートは感心した。薪の節約になるし、独特の食感がなんとも楽しい。彼は重ねて問う。


「この香りは、黒真珠か?」


「はい。今年はキノコが少ないので、オイル漬けにしてみたんです」


「なるほど!だが、他にも何か入れていないか?調味料かな?」


「まあ、よくお分かりですね!」


エルナは目を丸くしてヒューバートを見つめた。あんなに深刻そうに味覚障害だと語っていた彼が、隠し味のショーユーにまで気づくなんて。


「どうも私は、君の料理なら味がしっかりと分かるらしい」


彼は少し照れたような顔でそう言うと、クロケットをフォークで刺し、エルナに掲げて見せる。


「このクロケットも素晴らしい。カボチャとベーコンの塩味が絶妙だ」


クロケットを口に放り込むと、目を閉じてゆっくりと味わった。


その喉仏がゆっくりと上下し、ごくりと官能的な音を立てて飲み込む。形の整った唇から、満足げな熱い吐息が漏れた。


(や、やだ、またドキドキしてきちゃった)


何だか見てはいけないものを見た気がして、エルナは頬を染めて彼から目をそらす。耳元で、心臓がドクドクと脈を打ち始めた。


「んん、コホン!」


二人のやり取りを生温かい目で見ていたオリバーが、わざとらしい咳ばらいをした。そして、エルナをさらに追い込むような爆弾を落とす。


「うん、料理は上手いし、賢いし。エルナちゃんが嫁に来てくれたら幸せだろうな!」


「なっ!?」


ヒューバートは振り返って彼をにらみつけた。それは、獲物を横取りされそうになった猛獣が放つような、凄まじいまでの威圧感だった。


「じょ、冗談だってば!」


オリバーは引きつった笑みでごまかそうとするが、氷の視線は彼に突き刺さったままだ。


「ええっと、お土産を持ってきます!」


場の空気に耐えられず、エルナは再び小屋へと駆け込んだ。



(落ち着くのよ、エルナ!)


小屋のドアにもたれて息を整えながら、エルナは自分を叱りつけた。ただの冗談にこんなに動揺する必要はないのだ。


社交界に出入りする令嬢なら、あんな軽口など笑って受け流すに違いない。


(伯爵令嬢として教育を受けてきたはずなのに……)


自分の子供っぽさが情けなくて、エルナは悲しい気持ちになる。


(とにかく、今は落ち着こう)


深呼吸をひとつして、クロケットの入ったバスケットを持ち上げる。まだ動揺の残っていた彼女は、手にしたバスケットの不自然な重さに気がつかなかった。



外へ出ると、二人の騎士はなぜか憮然とした表情で座っていた。エルナが近づくと、オリバーが立ち上がって頭を下げる。


「先ほどは、下品な冗談を言ってすまなかった」


「とんでもないです!私は気にしてませんから」


年上の騎士に頭を下げられ、エルナは恐縮して手を振った。


「……そのカゴには、いったい何が入ってるんだ?」


傍らでオリバーをにらみつけていたヒューバートは、ふと、何かに気づいたように、エルナのバスケットを指した。


「クロケットがたくさん出来てしまったので、お土産に持っていっていただこうと思って」


「クロケット?」


なぜかヒューバートが不審そうな顔をしているので、エルナは中身を見せようと、バスケットのフタを開けた。


「???!!!」


だが、またすぐにパタンと閉じてしまう。


今、目にしたものが信じられない。


慌てた様子のエルナに、オリバーまでもが怪訝そうな表情をこちらに向けてくる。


(……う、嘘よね?)


見間違いであって欲しいと願いながら、エルナはバスケットを顔の近くまで持ち上げ、少しだけフタを開け覗き込む。


「キュウ!」


バスケットの中には、フォークを持ったポムが満足そうに収まっていた。周りにサンニーの葉が散乱し、クロケットの食べかすが、白い毛のあちこちについている。


(ど、ど、ど、どうして!?)


エルナは頭の中が真っ白になった。どうしたらいいのかと考えを巡らすが、ただ焦るばかり。


「ん?どうした?その中に何がいるんだ?」


ヒューバートの声に、エルナは体を固くした。優しく問いかけるようでいて、その声音には、いっさいのごまかしを許さない鋭さがあった。


視線を向ければ、微笑むように細められた目の奥では、アイスブルーの瞳が射抜くような光を放っている。


(どうしよう!?)


ヒューバートの視線がバスケットへ注がれて、心臓が跳ねる。咄嗟にそれを背後へ隠し、エルナは血の気の引いた唇を強く引き結んだ。


(な、何か、言わないと)


だが、震える唇からは、言い訳のひとつも出はしなかった。




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