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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第3章:美味しい香りが引き寄せた運命の出会い

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(9)再会

昨日の雨のせいか、森には清涼感のある空気が漂っていた。ヒューバートとオリバーは、約束通りの時間に小屋へと着く。


コンコンコン!


オリバーが小屋のドアをノックすると、なかで何やら慌ただしく動いている気配がする。


「お待たせしました」


しばらく待たされた後、ようやくドアを開けた娘は、こちらに向かって愛らしい微笑みを浮かべた。


秋の陽光を受けて艶めくハニーブロンドと、ほんのりバラ色に染まった頬。新緑の瞳は、森の空気のように澄んでいる。


(ああ、本当に伝説の乙女のようだな)


エルナの何もかもが眩しく感じられて、ヒューバートは目を伏せた。


アイスブルーの瞳が、小さくて履き潰された靴を捉えて止まる。


(こんなところに暮らしていながら、なぜこれほどまでに美しいのだろう?)


身につけている服や靴がくたびれているのを見れば、余裕のある生活をしていないのは明らかだ。化粧品など持っていないだろうに、髪や肌は手入れの行き届いた貴族令嬢そのもの。


いや、宮廷の舞踏会でも、これほど美しい令嬢はめったにお目にかかれない。エルナにはやはり、何か不思議な力が働いているのだろうと、彼は思う。


「いらっしゃいませ、ゴードン様、アルスター様」


「あっ、ああ……約束通り、お昼をご馳走になりにきたよ」


エルナが挨拶すると、オリバーがハッとした様子で答える。珍しくぼんやりしていたようだ。


(コイツも見惚れていたな!)


ヒューバートは無意識のうちに眉をひそめ、へらへら笑っている部下に、冷ややかな視線を向けた。


「今、準備しますから、どうぞ座ってお待ちください」


「うん、ありがとう」


「よろしく頼む」


小屋の奥へと消えるエルナにそれぞれ礼を言うと、二人は焚き火のそばの丸太に腰を下ろした。オリバーが怪訝そうな顔でヒューバートを見る。


「……なんか急に、機嫌が悪くなってないか?」


「そんなことはない!」


その顔を見て、オリバーは何か感づいたように、ニヤリとする。


「顔が怖いって。そんなんじゃ『エルナちゃん』に嫌われちゃうぞ」


「なっ!?」


馴れ馴れしい呼び方に、ヒューバートは頭にカッと血を上らせる。


「気安く呼ぶんじゃない」と続けようとした彼は、エルナが小屋から出てきたので慌てて黙った。


(だ、ダメだ。これでは本当に彼女を怖がらせてしまう)


ヒューバートは心を落ち着かせようと、深い呼吸を何度か繰り返した。


「お茶と一緒にこちらもどうぞ」


テーブル代わりの切り株に、エルナが山盛りのクロケットを乗せた皿を並べる。


「カボチャのクロケットです、味が三種類あって……」


「美味そうだな!」


エルナの説明に、オリバーが目を輝かせた。実はお腹がすごく空いていたのだ。


「お口に合うといいのですが。すぐにパスタを用意しますので、先にこちらを召し上がってお待ちください」


彼女はヒューバートのカップに、ムーンライトのハーブティーを注いだ。


辺りに甘い花の香りが立ち上る。ティーポットから流れるお茶は、透き通った黄金色をしていた。


「いい香りだな。この前のお茶とは少し違うようだが?」


「はい、ベースは同じですけれど、配合を少し工夫してみたんです」


ヒューバートはカップのお茶をしばらく眺めたあとに、静かに口に運ぶ。


目の端でオリバーが眉を上げるのが見えたが、この場で毒味など必要ないことは、彼にはもう分かっていた。


彼は目を閉じて、じっくりと味わう。


(ああ、生き返るようだ!)


黄金色のお茶が、彼の胸の内を安らぎで満たしてくれる。心に積み重なっていた長年の苦しみと悩みが、胸の外へ押し流されていくようだ。


心が軽くなると、自然に肩の力も抜けていく。オリバーの言う「怖い顔」は、努力せずとも自然に消えていた。


「素晴らしい!とても美味しいお茶をありがとう」


ヒューバートがそう告げると、エルナはパッと花開くように笑った。


(……可愛いな)


魅了されたように、アイスブルーの瞳が細められる。


「あ、ありがとうございます」


その艶っぽく熱を帯びた視線を受けたエルナは、どぎまぎとして視線をあちらこちらに泳がせた。陶器のように白い顔が、みるみる赤くなっていく。


「あ、あの、パスタを作って来ます!」


耳まで真っ赤になった顔をトレイで隠すようにして、彼女は小屋へと駆け込んでいった。


「あー、俺もいるんだけどなぁー」


小屋のドアがバタンと閉まると、オリバーはそうぼやいた。


エルナが持ってきた空のカップに、自分でお茶を注ぐ。ついでにクロケットをヒョイとつまみ、口に放り込んだ。


その瞳がパッと輝く。


「何だこれ!?めちゃくちゃ美味いぞ!!」


オリバーは、一つ、もう一つと、ポムも顔負けの早さでクロケットを口に放り込んでいった。


「おい、一人で食べるんじゃない!」


ヒューバートも慌てて皿に手を伸ばす。


キツネ色のクロケットをサクッと齧ると、カボチャの生地に混ぜ込んだチーズがとろりと伸びた。カボチャと玉ねぎの甘みに、チーズの塩気とコクが絶妙に絡んでいる。


「んんん!チーズのコクがたまらない!」


ヒューバートはうめくように言った。


サクサクの衣とホクホクのカボチャの食感を楽しみ、野菜の甘みとベーコンやチーズが織りなす味わいに喉を鳴らす。


「ヒューバート、こっちの丸いのはクルミとチーズが入ってるぜ!」


「こら、私より先に食べるな!」


オリバーの手から、ヒューバートがクロケットを奪う。


「何を言っている、俺はお前の毒見役だぞ!」


オリバーはクロケットを両手に取り、次々と口に放り込んだ。


「なっ!?子供か、お前は!」


ヒューバートも負けじとクロケットを口に入れた。


「「美味い!!」」


子供のように競い合いながら、二人は夢中でクロケットにかぶりついた。


(ヒューバートの奴、美味そうに食いやがる!)


オリバーの瞳には、嬉し涙がほんのり滲んでいた。

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