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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第3章:美味しい香りが引き寄せた運命の出会い

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(7)マッチョクッキー?

(うーん、何が言いたいのかしら?)


「ギュウ!!」


首をかしげるエルナに、ポムは両腕を上げて曲げるポーズをしてみせた。心なしか表情もキリッとさせている。


まるで、たくましい男性が、筋肉を誇示しているようだ。


「あ!もしかして、イグニッションのハーブティーを作るの?」


「キュ!」


ぽんと手を叩いたエルナに、ポムは深くうなずいた。


「ポム、あれは辛いから……」


残念だけど、ハーブティーにはできないと言いかけて、エルナは黙る。


(ハーブティーじゃなくてもいいのでは?)


例えば、ちょっとピリ辛な「塩味クッキー」はどうだろう?


イグニッションは急に使いたい時が多いので、すぐに食べられるようにしてあれば便利だ。この前のように、水で無理やり流し込まなくても済む。


クッキーなら、生地にイグニッションスパイスを少し混ぜるだけでいい。


「クッキーにしてみる?」


「キュー!」


ポムが賛成してくれたようなので、さっそくバターや小麦粉などの材料を揃える。


バターが柔らかくなるまで待つあいだ、試しにヒールシャワーのハーブティーを飲んでみることにした。


コポコポコポ……。


ティーポットを傾ければ、澄んだ黄金色のハーブティーがキラキラと流れ出る。ポムと自分の分、ふたつのカップに注いだ。


爽やかな香りが、湯気とともに立ち上った。


「いい香り!それに、すごく綺麗!」


「キュ!」


初めて作ったハーブティーの出来栄えに、エルナは大満足の声をあげる。


一口飲んでみると、お腹のあたりに温かな空気の塊のようなものを感じた。その熱が、体全体へジワジワと広がっていく。


ぬるい薬湯にゆったりと浸かっているような、心地よく癒される感覚がする。


「きゅぅううう……」


ポムを見れば、こちらも満たされたような顔で、優しい光を放っていた。


(なんだか、スパイスよりも効果が高くなってる?)


それは、ポムの力に共鳴してエルナの魔力が高まったからなのだが、彼女はまだそのことに気づけていない。


彼女にとって、自分の魔力は「人に隠さなければいけないもの」だった。


これまで魔力について学んだり、人と話したりする機会がなかったので、魔力について無知なままだったのである。



「さて、クッキーを作りますか!」


ティータイムが終わると、バターがちょうどよい状態になっていた。泡立て器でクリーム状になるまで混ぜ、そこに砂糖、小麦粉、卵黄を入れて生地を作る。


辛みと合うかなと思って、チーズのすりおろしも少し加えた。チーズと甘いバターの香りが混ざり、美味しくなる予感に期待が膨らむ。


(イグニッションは少しだけね)


取り過ぎは体に無理がかかる。エルナはイグニッションの小瓶を傾けて、少しずつ生地に混ぜていった。


「あっ!!」


しかし、「このくらいでいいかな?」と思ったとき、うっかり手が滑ってドバっと入ってしまった。


「えええええ!?」


「キュゥウ~」


エルナは頭を抱えた。ポムも残念そうな声を上げている。


(ど、どうしよう?でも、捨てるんじゃ食材がもったいないし)


せっかく作ったのだし、とにかく焼いてみよう。


エルナは生地をこねて丸く成形した。オーブンはないので、フライパンで焼くことにする。


油を薄く伸ばしたフライパンに、丸いクッキーを並べていく。


フタをしてしばらくすると、バターと砂糖の甘い香りが漂い出す。スパイスの刺激的な香りも、少し混ざっているようだ。


「うん、そろそろいいわね」


焼き色を確認してクッキーを裏返し、反対側も同じように焼く。こうして弱火でじっくり焼けば、フライパンでもサクサクのクッキーができるのだ。


(これを食べる時は、ちょっと……ちょっとだけかじればいい)


そうすれば、きっと大丈夫。焼きあがったクッキーを網のうえで冷ましながら、エルナはそう自分に言い訳をした。


「何でもかんでもうまくはいかないよね」


「キュ~」


今日はハーブティーがうまくできただけで十分だ。森に降る雨の音を聞きながら、エルナはそう自分を慰めた。



日が暮れる頃、雨がようやく上がったので、エルナはポムと温泉に向かった。


「はぁ~、いい気持ち」


温かいお湯に浸かると、言葉が自然にこぼれた。立ち上る湯気からは、微かな硫黄の匂いがする。


頬を撫でる秋風はひんやりとしていて、それがかえって心地いい。


月が放つ白銀の光が、森の濡れた葉を宝石のように輝かせている。草むらでは虫たちが競い合うように歌っていた。


「きゅぅううう……」


ポムも気持ちよさそうに、へそ天でプカプカと浮いている。そのお腹がポッコリと膨らんでいた。


エルナはクスクスと笑う。


(ポムったら、食べ過ぎよ)


夕飯にカボチャのクロケットを作ったら、ずいぶんと気に入ったらしく、何度もおかわりしたのだ。


先日畑で収穫したカボチャは、大きいだけでなく、とても美味しかった。ホクホクして、本当に栗のように甘かったのだ。


(そうだ、明日も作って、騎士さまに食べさせてあげよう)


カボチャはまだたくさんあるし、きっと気に入ってくれるに違いない。


ふと、アイスブルーの瞳と、大きな手の温もりが脳裏によみがえる。


とたんに、のぼせたように体が熱くなった。体の奥から、ジワジワと熱が湧いてくる。


「や、やだ!」


「キュ、キュー!?」


手で顔を覆って思わず叫んだエルナに、ポムが何事かと泳いで近寄ってきた。エルナは両手で受け止める。


「な、なんでもないの」


そう言って、ポムを胸に抱きしめた。胸元に尻尾の毛が当たってくすぐったい。


見上げると、夜空はすっかり晴れて、こぼれ落ちそうなほどの星々が瞬いていた。きらめく星空のなかにひとりポツンと残されたようで、エルナは急に不安になる。


(こんな私なんかが、騎士さまの役に立てるかな?)


明日、料理を出して失望させたらと思うと、怖くなってきた。


幼い頃から何度も浴びせられてきた、父の冷たい視線が脳裏をよぎる。


(騎士さまにも、あんな目で見られたら……)


一見、冷たそうに見えるアイスブルーの瞳は、その奥に温かな光を宿していた。だが、失望がその光を消してしまった時、あの瞳はどんな眼光を発するのだろう?


「ぎゅ、ぎゅぅううう!」


腕のなかから苦しげな声が聞こえて、エルナは我に返った。考え事をしているうちに、ポムを抱きしめる力が強くなりすぎてしまったようだ。


「ごめん、ポム」


「キュ!」


エルナが腕を緩めると、ポムは彼女の頬に両手を当て、「めっ!」と言うようにひと声鳴いた。その愛らしい顔に思わず吹き出す。


「そうよ、私にはポムがいるもんね」


「キュー!!」


ひとしきり笑ったあとにそう言うと、ポムも元気に答えてくれた。


(もうひとりぼっちじゃないんだわ)


そう思うだけで、エルナの心は軽くなった。

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