(6)私のオリジナル
ポツポツと窓ガラスをたたく音で、エルナは目が覚めた。
夜中のうちに雨が降り出したらしい。
窓を少しだけ開けると、雨と濡れた土の香りが寝室に忍び込んできた。恵みの雨に、森の木々や草は生き生きと輝いている。
エルナはポムと一緒に朝食をとると、手早く小屋の掃除を済ませた。今日は家で試してみたいことがあったのだ。
「キュゥウ?」
作業台の上に、様々なハーブや薬草を並べていくエルナを、ポムは不思議そうに見ている。
「あのね、ポム。今日はハーブティーを作ってみようと思うの」
昨日のように、お茶にムーンライトを入れることは、これまでにもあった。
(でも、はじめから同じ効能を持ったお茶があれば、もっと便利なはず)
ずっとやってみたいと思っていたが、使用人として忙しく働いていたエルナには、その時間がなかった。 だが、今ならたっぷりある。
台に並んだ薬草やハーブには、どれも懐かしい母との思い出があった。それらを見ていたら、思い出が一つ、よみがえってきた。
「お母さま、どうしてスパイスにするの?」
子供の頃、母にそう聞いたことがあった。料理に直接魔力を注いだ方が、簡単だと思ったのだ。
「スパイスや薬草の力を借りた方が、思った通りの効果が出せるのよ」
どうやら、料理に直接だと効果が薄かったり、ムラが出たりするようだ。秘伝のスパイスのように、「ムーンライトを使えば心に効く」といった、確実な効果が得られないのだ。
エルナも何度か試してみたことがあるが、母の言った通りだった。
(ハーブティーも、調合する材料を工夫すれば、秘伝のスパイスみたいになるはず)
母だって、試行錯誤して秘伝のスパイスを作り上げたのだ。きっと自分にもできる。
(まずはムーンライトからね)
うまくできたら、あの銀髪の騎士さまに渡すつもりだ。寝る前に飲んでもらえば、きっとぐっすり眠れて体調も良くなるはずだから。
「お茶のベースは、サンニーにするわ」
エルナはポムに話しかけながら、楕円形の大きな葉を両手で持って見せた。
それはサンニーという薬草の葉で、ブルック領に多く自生している。裏の畑の周囲にも、たくさん生えていた。
「キュ!」
「賛成」と言うように、ポムがうなずく。
サンニーには、心を落ち着かせる作用があるので、ムーンライトにも使われている。ハーブティーとして親しまれているし、葉に抗菌作用があるので、弁当などを包むこともある。
エルナはサンニーを細かく刻み、ボウルに入れた。ムーンライトに使われている薬草を、少しずつそこに混ぜていく。
「ここからは私のオリジナルよ」
乾燥したナツメの実をひとつ取り出し、できるだけ細かく刻んでお茶に混ぜる。ナツメの実には、心の緊張をほぐす効果があるのだ。
そして最後に、乾燥させたキンモクセイの花を加える。
(あの方に渡して、寝る前に飲んでもらおう)
銀髪の凛々しい騎士、ヒューバートの顔が浮かぶ。
優しい気持ちでハーブティーに混ぜ込むと、キンモクセイの甘い香りが広がった。雨の香りと混ざって、何か懐かしいような、切ないような気持ちになる。
「さあ、最後の仕上げね」
「キュ!」
エルナは床に膝をつき、両手を組み合わせる。スパイス作りの時と同じように、真剣に祈った。
ふわっ……!
エルナの体から金色の光が放出される。それは、前回スパイスを作った時よりも、さらに強く温かな光だ。
共鳴するようにポムもキラキラと光るが、目を閉じて真剣に祈りを捧げるエルナは気づかない。
エルナの魔力の光は、ハーブティーの方へと伸びていき、ハーブの一つ一つを包み込む。
やがて、土に水がしみこむように、ハーブティーのなかにスーッと吸収されていった。
「うまくできたかな?」
「キュイ!」
目を開いたエルナは、立ち上がってハーブティーを確認した。
(あれ?)
彼女は首をかしげる。
(……気のせいかな?)
ハーブティーのなかに、キラキラと小さな星が散らばっているように見えたのだ。だが、二、三度瞬きをしている間に見えなくなってしまった。
「キュウ!」
ハーブティーを見つめていたエルナは、ポムの鳴き声にハッとする。
「キュキュウ!」
頬のぷっくりしたその顔には、好奇心いっぱいの表情が浮かんでいた。どうやら、「早く次を作って」と催促しているようだ。
「じゃ、じゃあ、次はヒールシャワーのハーブティーね」
エルナは疑問をいったん頭の片隅に追いやる。今はハーブティー作りに集中しよう。
彼女はレモングラスをベースに、ヒールシャワーの材料をバランスよく配合していく。
爽やかなレモングラスの香りが心地良い。頭と体をリフレッシュしてくれる香りだ。
(でも、これだけじゃ物足りないわ)
エルナは少し考えて、乾燥させたミントを少し足した。雨の湿り気を帯びた空気の中に、清々しい香りが漂う。
鼻を抜ける清涼感は、まるで雨上がりの森を吹き抜ける風のようだ。
「ああ、なんだかスッキリする香りね!」
「キュウ!」
ポムもピンクの鼻をヒクヒクさせている。
ハーブティーをしっかりと混ぜ合わせた彼女は、床に膝をついて祈りを捧げた。ポムはエルナと一緒に光る。
エルナの発した光は、先ほどと同じように、ハーブティーへと向かっていった。キラキラと輝きを放ちながら、ハーブに溶け込んでいく。
だが、残った星の輝きは、エルナが目にする前に見えなくなってしまった。
「うん、今度は大丈夫ね」
やはりさっきのは見間違いだったのだと思いながら、エルナは棚からフタ付きの容器を二つ取り出した。それぞれにヒールシャワーとムーンライトを入れて、しっかりとフタをする。
「キュイ!」
だが、ポムが棚の方を指して、何か訴えてきた。エルナは首をかしげる。
「どうしたのポム?」
「キュイ、キュイ、キュ!」
ポムは三つのスパイスをしまっている辺りを見ながら、じれったそうにポムポムと跳ねた。




