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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第3章:美味しい香りが引き寄せた運命の出会い

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(1)ふたりの騎士

この日、ブルック伯爵家の森には、馬に乗る二人の騎士の姿があった。


先を行く長身で銀髪の青年は、魔獣討伐騎士団団長のヒューバート・アルスター。


誰もが振り返る美貌の持ち主ではあるが、表情が厳めしく、そのアイスブルーの瞳には冷たい輝きが宿っていた。


その後に付き従うように馬を歩ませるのは、副団長のオリバー・ゴードンだ。


ゴードン伯爵家の三男で、ヒューバートとは子供のころからの付き合いになる。人の好さそうな印象を与える、明るい金髪の快活な青年である。


(この森は、しばらく人の手が入っていないようだな)


馬をゆっくりと進めながら、ヒューバートは思った。魔獣討伐のために各地の森を訪れている彼には、この森が放置されていることがひと目で分かるのだ。


魔獣討伐騎士団は、必要があれば私有地でも許可なく立ち入ることが許されている。


調査や討伐のたびに所有者の許可を取っていたら、対応が遅れて被害を広げることになりかねないからだ。


「それでな、呼ばれて厨房に行ったら、こーんなでっかいカボチャがあったんだよ」


片手で手綱を握ったオリバーは、空いている方の腕で大きな半円の輪を作って見せた。彼は先ほどから、騎士団の厨房で起きた「珍事」について話しているのだ。


「バカを言え、そんな大きなカボチャがあるものか」


何でも大げさに言うヤツだと、ヒューバートは鼻を鳴らす。


「本当なんだよ!いつもの八百屋が持ってきて、騎士二人がかりで荷台から降ろしたらしいぞ」


「そんなオバケみたいなカボチャがあったとして、なんでお前が厨房に呼ばれるんだ」


騎士団には専任の料理人がいるし、手伝いがいるとしてもそれは新人の役割だ。副団長のオリバーには関係がない。


「これだから高貴なお方は困るねぇ。カボチャってのは、けっこう固くて切るのが大変なんだぜ」


オリバーにしか言えないであろう軽口を、ヒューバートは黙殺する。二人だけの時なら、こんなやり取りも珍しくないのだ。


「つまり、大きすぎて包丁じゃ切れないから、俺の風魔法で切ってくれって言われたんだよ」


「そんなくだらないことに、お前の魔法を使うんじゃない!」


ヒューバートは眉根を寄せる。


オリバーの魔力はそれほど強いわけではないが、コントロールが抜群に良い。


魔力を使いこなすためには、鍛錬が必要なのだ。


鋭い風の刃で、狙った魔獣を見事に仕留めるその技は、本人の努力の賜物と言える。「それをなぜ、カボチャなどに使うのか」と、彼は本気で腹を立てている。


「そんなに怖い顔をするなよ。だからご令嬢方に敬遠されるんだぞ」


「私は別にかまわん!」


ヒューバートはそっぽを向いてしまう。その頑なな態度に、オリバーはそっとため息を漏らす。


(真面目すぎて少し頑固な面はあるが、思いやりのある優しいヤツなんだけどな)


彼は銀髪と氷のような瞳の色のせいで、見る人に冷たい印象を与えてしまう。


さらに、職務を優先しているため、社交の場に出ることがあまりない。たまに出ることがあっても身にまとう雰囲気が冷たいので、貴族の令嬢たちは恐れて寄り付かないのである。


「それで、謎の魔力の元は見つかりそうか?」


オリバーは気を取り直して、話題を本日の目的へと戻すことにした。


魔力量が桁違いに多いヒューバートは、周囲の魔力を探知する力にも長けている。


つい先日、魔獣討伐の遠征から帰る途中に、騎士団はこの森の近くを通った。その時彼は、今までに感じたことのない魔力が、この森にあるのを感じたのだ。


それは魔獣の禍々しい魔力とは違う。


清らかで純粋で、太陽のような力強さを持つ魔力だ。


その魔力の元は何なのか、彼は「どうしても知りたい」という欲求に駆られていた。


「いいや。さっきまで感じられていたのだが、見失ってしまったようだ」


ヒューバートは首を横に振った。オリバーはその苛立たしげな顔に、チラと目をやる。


整い過ぎて冷たい印象を与える顔だが、ここ数年はある事情により、さらに険しい表情をしていることが多くなった。


(体調だって良くないだろうに、無理をしすぎだ)


今日はもう諦めよう。


オリバーがそう声をかけようとした時、ヒューバートはいきなり馬の向きを変えた。あの魔力が急に強くなったのを感じたのだ。


「こっちだ!」


「ちょっと待てよ、おい!」


今度こそは見逃すまいと馬を走らせるヒューバート。その後をオリバーは慌てて追いかけた。



二人の騎士が森を調査していた同じ頃、エルナは小屋のまえで焼き芋の準備をしていた。


今日は天気も良いし、外で焚き火をしながら色々焼いて食べることにしたのだ。


小屋の前のスペースには、焚き火ができるように石が円形に置かれていた。その両側には、焚き火を囲んで座るためのベンチ代わりの丸太が寝かせてある。


きっと森番がいた頃は、森の整備の際に皆でお茶を飲んだり、休憩したりする場所として使っていたのだろう。


「きゅっきゅう~、きゅきゅ~」


ポムは鼻歌(?)を歌いながら焚き火の周りをポムポムと跳ねまわる。干していたサツマイモがようやく食べごろになって、嬉しくて仕方ないようだ。


「さあ、焚き火で色々焼けるように準備しましょうね」


焚き火の炎が落ち着いたところでサツマイモを入れると、エルナはご機嫌なポムに声をかけた。


せっかく焚き火をするのだから、焼き芋を作るだけではもったいない。昨日市場に行ったときに食材を買ってきたので、焚き火の火であぶって食べるつもりだ。


ポムとキッチンにもどると、エルナは朝にポムと集めた細い枝を出した。


これに食材を刺して火であぶるのだ。もちろん、井戸端で念入りに洗ってある。


作業台に飛び乗ったポムに見守られながら、エルナはチーズ、鶏肉、ウインナー、マシュマロなどをせっせと枝に刺していく。


チーズと鶏肉は食べやすい大きさに切って、鶏肉にはショーユーを塗ってヒールシャワーをかけた。


「今日はパンもあるのよ」


食材を全部枝にさし終わると、市場で買った小麦粉をボウルに入れた。


エルナには、焚き火でやってみたいことがあった。子供の時に絵本で読んだ、「焚き火パン」を作ってみたかったのだ。


絵本のストーリーは忘れたが、男の子が枝にパン生地を巻きつけ、焚き火で焼いて食べるシーンがあった。キャンプや焚き火に無縁だったエルナには、それがとても美味しそうに見えた。


パンは発酵させるのが大変だが、パンケーキ風の生地で作る「パンもどき」なら簡単だ。


小麦粉を入れたボウルに、ベーキングパウダー、砂糖、塩、オリーブオイルなどを入れ、生地の様子を見ながら水を少しずつ足していく。


(トマトも入れたら美味しいかな?)


最後に思いついて、オイル漬けのドライトマトを小さく切って入れてみることにした。 瓶詰とは別に、自分たちで食べるぶんも少し作っておいたのだ。


「きゅぅうううう」


ふた付きの容器からドライトマトを出すと、ポムが上目使いでねだってくる。いつものことなので、エルナはその口にひとつ入れてやった。


ポムが幸せそうな顔をして、パーッと光った。


「もう、本当に食いしん坊ね!」


エルナは手を動かしながら、そんなポムに笑いかけた。


パンもどきの生地をこね、細長い棒状に伸ばす。それを枝にクルクルと巻きつけていった。


ポムは尻尾を揺らしながら、その様子をじーっと見ていた。


キッチンの窓からは秋の日が差し込み、遠くで鳥の鳴くのが聞こえる。キャンプ気分で外で食事をするのにピッタリな、穏やかな日だった。


コンコンコン!


だが、その平和を破る音が、突然小屋の中に響いた。


誰かが小屋のドアをノックしているのだ。



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