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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第2章:美味しいご飯とモフモフを堪能する日々

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(13)開いた口がふさがらない

翌朝、エルナは早起きしてポムと一緒に朝食を済ませ、身支度をして市場へと向かった。


もちろん、朝ご飯のスープにはイグニッションを入れて飲んだ。背中にポムを入れたリュックを背負い、両手には布製のバッグをさげている。


袋には四つのオイル漬けの瓶、昨日収穫した生のキノコ、早朝にもいだばかりのトマト、そして巨大なカボチャがひとつ入っていた。


左手に持っているバッグは、カボチャだけで大きく膨らんでいて、ずっしりと重い。だが、今のエルナには、これくらいどうということはなかった。


イグニッションがなければ、これだけ荷物を持って市場まで歩くなど、絶対にできないだろう。



「おはようございます」


「ああ、この前の娘さん。今日は早いですね」


例の八百屋につくと、エルナは女将におずおずと声をかけた。女将はエルナを覚えていてくれたらしく、笑顔で迎えてくれる。


できるだけ人目につかないように、客の少ないであろう早めの時間を狙ってきたのだ。


「今日は黒真珠はないんですけど、またキノコを買っていただけないかと思いまして」


エルナはおずおずと袋を差し出す。


「ああ、今回も質が良いですね。黒真珠よりこういったものの方が売りやすいんで、喜んで買い取らせていただきますよ」


袋の中身をあらためて、女将は嬉しそうに言った。


今回はよく考えて、貴重さよりも領民になじみの深い種類を選んできたが、それで正解だったようだ。


「他にも見ていただきたいものがあるんです」


勇気づけられたエルナは、本題のオイル漬けの瓶を取り出した。割れないように包んできた布を外し、野菜を置いた陳列台の隅に並べる。


「キノコのオイル漬けには、少しですけど黒真珠が入っています」


女将は瓶を手に取って眺め、エルナの説明にうなずいた。


キノコとドライトマトの二種類だが、どちらもオイルに浸かった具材がツヤツヤと美味しそうに見える。 

「どちらも良くできてますけど、娘さんが作ったんですか?」


「はい、あの、ダメでしょうか?」


キノコもトマトも品質は良いはずだが、作ったのは素人の自分だ。断られたらと思い、自然と眉尻が下がってくる。


その顔を見て、女将は笑い声をあげた。


「いえいえ、よろしゅうございますよ。あんまり良くできてるんで、誰が作ったのかなと思っただけです」


「母が作っていたのを、見よう見まねでやってみたんです」


女将の笑い声に、エルナの緊張は一気に緩んだ。


最初に思った通り、明るくて優しい女将さんだ。この店を選んだのは間違いではなかったようだ。


「料理が上手なお母さまだったんですね」


「はい!」


エルナは少しはにかみながらもハッキリと答えた。自慢の母だったのだ。


気持ちが通じたのだろう、女将もニッコリと微笑む。


その笑顔に勇気づけられて、エルナは野菜の買い取りをお願いしてみる。


「それで、最近畑も始めたんですけど……少し作りすぎてしまって。良ければ買っていただけないでしょうか?」


「では、見せてもらいましょうか」


まだエルナのバッグが膨らんでいるのに気づいていたらしい女将は、あまり驚いた様子もなくうなずいてくれた。


だが、エルナの出したトマトを見て、女将は目を丸くする。それはどう見ても素人が作った野菜ではなかったからだ。


「ずいぶんと立派なトマトだわね」


女将は口のなかで呟いた。


丸く形の整った大きなトマトは、全体が均一に赤く、完熟の状態だ。皮にはみずみずしい張りがあって、宝石のように輝いて見える。


毎日トマトを見ている女将でも、思わずかぶりつきたくなるような品だった。


「あと、カボチャもあるんですけど……」


(…………え?)


エルナが出したカボチャを見て、今度は口があんぐりと開いたままになってしまう。


目の前の娘が片手で軽々と持ち上げたソレは、一抱えもある巨大なカボチャだったのだ。ポムの魔力が効きすぎたらしく、昨日よりさらに大きく育ってしまった逸品だ。


(な、な、な、なんだい!?このオバケみたいなカボチャは?こんなもの見たことがないよ!!!)


驚きのあまり、声が出ない。よろけて近くの陳列台に手をついた。


(この娘さんはいったい何者かね?)


女将は口を開けたまま、エルナの華奢な手首を見つめた。


カボチャの大きさもすごいが、それを片手で持ち上げているこの娘もすごい。


それに、持ち込んでくるキノコや野菜は、すべて特級品ときている。


貴族は不思議な魔力を持つものが多いと聞くけれど、やはり貴族の血でも混じっているのだろうか?


「あの……」


女将がいつまでも黙ったままなので、エルナは遠慮がちに声をかけた。やはり素人が作った野菜を持ち込むなど、迷惑だっただろうか?


「え?あ、あっ、そうですねぇ」


女将は我に返って、考え込む。


トマトはものが良いので喜んで買い取るが、カボチャは大きすぎて売れるかどうか分からない。過ぎたるはなお及ばざるが如し、だ。


(うーん、でも、騎士団に納品するぶんにはいいかね?)


店では騎士団に野菜を配達していた。


王都のはずれ、ブルック伯爵領との境界に近い場所に、騎士団の拠点のひとつがあるのだ。あそこなら、このオバケカボチャもすぐに消費できるだろう。


(騎士さま方、これを見たらさぞ驚くだろうね)


日ごろから偉そうに振舞う騎士を、これで驚かせてやるのも面白いかもしれない。騎士には貴族出身の者が多く、野菜の品質などにも何かとウルサイのだ。


「いいですよ、全部買い取らせていただきます!」


女将はにんまりと悪い笑みを浮かべて言った。



女将から代金を受け取ったエルナは、次に薬草を買い取ってくれる店へと向かった。八百屋の女将が勧めてくれた薬屋だ。


前回のような大金にはならなかったが、オイル漬けも野菜も全部売れたので、その足取りは軽い。


背中のポムは寝てしまったらしく、「クゥクゥ」という微かな寝息が聞こえた。


(ここだわ)


そこは市場から10分ほど歩いた場所にあった。とても小さな店で、両隣の店に押しつぶされてしまいそうに見える。


入り口のドアにはめられたガラスから中の様子をうかがうと、奥のカウンターに年配の男性が座っていた。きっちりと整えられた豊かな白髪とメガネが印象的な、品の良い老人だ。


エルナは意を決して店のドアを開けると、奥のカウンターまでまっすぐ進んでいった。


「いらっしゃい」


帳簿のようなものを広げて見ていた老人は、目を上げると落ち着いた声で挨拶をした。エルナは会釈を返す。


狭い店舗の壁は、全ての面が棚になっていた。薬草や薬の入った瓶が、天井近くまでびっしりと並んでいる。


薬だけでなく、ハーブティーやアロマキャンドルなどもある。小さい店ながら、品ぞろえは充実しているようだ。


「あの、ここでゲンノウを買っていただけると聞いたのですけれど」


そう言いながら、手にさげていたバッグの中からゲンノウの束を取り出す。


老人は黙ってそれを受け取ると、薬草を束ねていた紐をほどいて、触ったり香りを嗅いだりして薬草を確かめる。


穏やかそうな外見に反して、薬草を検分する眼光は驚くほど鋭かった。


エルナは緊張しながら待つ。


「良いゲンノウですね。こうして同じ品質のものを揃えてくださると、こちらも助かります」


そう言った老人の瞳には、穏やかさが戻っていた。エルナはホッとして、小さく息を吐く。


「銅貨25枚でどうでしょう?」


「それでお願いします」


予想していたよりも少し多い金額だ。


「ゲンノウだけでなく、他の薬草もありましたら、買い取らせていただきますよ」


薬草の代金を差し出しながら、老人はいくつかの薬草の名を挙げた。どれもエルナにはなじみのある薬草で、森で採取できるものばかりだ。


「ありがとうございます!また来ますので、よろしくお願いします」


定期的に薬草を持ち込める店がみつかって良かった。エルナは丁寧に頭をさげると、店のドアを開けて外へと出た。


(……いったい何だろうねぇ)


その後姿を見送る老店主の首が、ほんの少しだけ傾いた。


あの娘のリュックから微かに聞こえていた、「クゥクゥ」という奇妙な音。


最初は子猫でも連れているのかと思ったが、あの娘と同じ不思議な魔力があるのを、彼は感じ取ったのである。


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