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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第2章:美味しいご飯とモフモフを堪能する日々

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(12)黄金色の瓶詰め

数日後、エルナとポムはまた森に出かけた。自分達で食べるだけでなく、また市場で売れるような食料を見つけるためだ。


(このあいだのお金はまだ残っているけれど、蓄えは多い方が安心よね)


今日のエルナの目当てはふたつ、キノコと薬草だ。


キノコはまたポムにお願いするしかないけれど、黒真珠は少なめにしてもらうつもりでいた。その方がポムの負担も少ないだろう。


それに、誰に見られるか分からない市場では、目立つようなことはできるだけ避けたい。


(あの八百屋の女将さんは、何も聞かずにいてくれたけど……)


皆がそうとは限らないのだ。


エルナは少量でも黒真珠の風味をうまく生かせる商品を思いついたので、たくさん採れなくても問題はない。


(薬草はゲンノウがいいわ)


「ゲンノウ」は腹痛に効く薬草で、乾燥させた葉を煎じて飲む。


この国では、たいていの家庭が常備している。それほど高い値はつかないと思うが、ほかの薬草と混ぜて薬として使うことも多いので、需要は多いだろう。


両脇に草が生い茂った道を進む。


高くそびえた木々の間からは、穏やかな秋の陽光が差し込んでいる。だが、風が少し肌寒く、エルナは秋が深まってきたのを感じた。


「ポム、少しでいいからね?特に黒真珠は少しだけよ」


先日、ポムがキノコを生やした場所まで来ると、エルナはそう念を押した。


「キュ!」


ポムは短く返事をすると、いつものように合掌のポーズをとった。


フワリと体から光が発せられる。金の光は周囲に広がり、ゆっくりと地面に渦を巻いた。


何度見ても神々しい光景だ。


「ありがとう、ポム」


光が消えると、先日のようにキノコがたくさん生えていた。


量は最初の日に比べれば控えめだったけど、それでも持ってきたカゴがすぐにいっぱいになる。ポムの魔力は本当にすごい。


「さあ、今度は薬草を摘みに行きましょう」


「キュウ」


ポムと一緒に、木の少ない日当たりの良い場所を探して歩く。ゲンノウはお日さまが好きなのだ。


あまり小屋から離れてしまわないように気をつけながら、エルナは薬草を摘んでいった。


「キュー!」


ポムが「見て」というように呼びかけてきた。見れば小さなゲンノウを握っている。


「それじゃあ小さすぎてお薬にはできないわ。ほら、茎がこれくらい太いものを、できるだけ根元から切るのよ」


薬草を摘みながら、エルナはポムに説明した。


よく育った良質な薬草だけを摘み取り、丁寧にそろえて束ねていく。質の良い物を見分ける目と、優しく扱うことが大切だと母に教わっていたのだ。


「キュー!」


「まあ!」


ポムはすぐに教えた通りのものを摘んで持ってきた。その頭の良さに、エルナは改めて驚かされた。


(一度で理解できるなんて、ポムってすごく賢いのね)


それに、手を合わせてお互いの魔力が交わって以来、意思疎通がさらにスムーズにできるようになった気がしていた。


キノコのカゴと薬草の束を抱えて小屋に戻ってくると、エルナはさっそく「あるもの」を作る準備を始めた。


かまどに火を入れて水を入れた鍋を置き、そのなかにガラス瓶とフタを四組入れる。ジャムを入れていたような広口の瓶で、キッチンの棚の中に入っていたのを見つけたのだ。


「きゅぅうう」


鍋のなかで熱せられていく瓶を見て、ポムが不服そうな声を上げた。「これは食べられないよ」と言っているようだ。


「ふふふ、これは食べるんじゃないのよ。お昼もすぐに作ってあげるからね」


そう言いながら、ニンニクを二粒とドライトマトを一握り持ってくる。


トマトはあれから毎日収穫しているので、ドライトマトは大量にあった。


エルナはナイフでニンニクをスライスし、一部を細かく刻む。ドライトマトも食べやすいように半分に切った。


「さあ、そろそろいいかな」


沸騰した鍋からお玉とフォークを使って瓶を取り出し、作業台に敷いた布巾の上に置く。このまましばらく置いて自然乾燥させるのだ。


エルナは鍋をどかすと、深めのフライパンを火にかける。


オリーブオイルを少量入れて刻んだニンニクを入れた。熱せられた油のなかでニンニクが踊りだすと、キッチンに食欲をそそる香りが漂う。


「きゅぅううう!」


とたんにポムが目を輝かせ、「コレコレ!」と言うように鳴いた。ついでにお腹もグーッと鳴いている。


エルナはフライパンに溶き卵を流し込み、その上に残りの冷やご飯を投入した。切ったドライトマトも入れて、お玉で手早くかき混ぜる。


これはチャーハンというもので、東国でよく食べられる料理だそうだ。前に世界の料理を紹介する本で見たことがあって、一度作ってみたいと思っていたのだ。


溶き卵にコーティングされたご飯が、いい感じにパラパラになってきた。


エルナは、塩、コショウ、 ヒールシャワーで味を調えると、最後に鍋肌からショーユーを回し入れた。


ジュゥウウ!!


フライパンから香ばしい香りが立ちのぼる。 ニンニクと一緒になって、容赦なく食欲を刺激してくる香りだ。


「あれ?ポムがいないわ」


集中していたフライパンから目を離すと、作業台の上にいるはずのポムがいなかった。 振り返ると、スプーンを握ったポムは、もうテーブルについている。


どうやら我慢ができなかったらしい。


「おまたせ」


「きゅ、きゅううう!」


エルナが皿に盛ったチャーハンを置いてやると、ポムは夢中になって食べ始めた。フォークと同様にスプーンも上手に使っている。


キラキラとした光を発しているので、美味しいのだろう。


「いただきます!」


ポムの向かいに座ったエルナも、初めてのチャーハンを口にした。ニンニクと焦がしたショーユーの香りが鼻を抜けていく。


(んんん!美味しい!)


しっかりと味のついたパラパラご飯、フワフワの卵、肉厚な歯ごたえのあるドライトマト。三種の食感が口の中で混ざり合う。


何より、ドライトマトと卵の相性が最高だ。ドライトマトの凝縮された甘みと酸味が、卵のコクを引き立てている。



「さて、お腹もいっぱいになったし、そろそろ始めましょうか」


昼食の後片付けが済むと、エルナはエプロンの紐を締め直した。


ポムはといえば、チャーハンをお腹いっぱい食べたあと、床に置いてあったカゴに入って眠ってしまった。


(ちょっと寂しい気もするけど、つまみ食いをねだられる心配がないのはいいわね)


クスリと笑ったエルナは、今朝収穫したキノコとドライトマトを持ってきた。これらを使って、二種類のオイル漬けを作るのだ。


ドライトマトのオイル漬けは、酒の「つまみ」としてそのまま食べたり、パンに乗せて食べたりしても美味しい。パスタや魚料理のソースにも使える。


キノコのオイル漬けは卵とよく合うので、オムレツの具材にするといい。オイルにもキノコの旨みが移るので、パスタソースや炒め物の油として使うこともできる。


どちらも家にあると重宝するので、旬の時期に大量に買ってオイル漬けを作る家も少なくない。


エルナはまず、ドライトマトを手にする。干す時間を短くしたセミドライなので、オイル漬けを作るのに最適だ。


四つある瓶のうちの二つに、エルナはドライトマトを詰め込んだ。そして、先ほどスライスして取っておいたニンニクを何枚かと、ヒールシャワースパイスを入れる。


それは、ついこのあいだ、ポムが見ている前で作ったスパイスだ。


ドライトマトが完全に浸かるまでオリーブオイルを流し込み、最後にスプーン一杯の酢を加えた。


「うん、なかなか上手くできたんじゃない?」


瓶のフタを閉め、目の前に瓶を掲げて眺める。


(わあ、とても綺麗!)


窓から差し込む日差しのせいだろうか、中身のオイルが黄金色に輝いて見えた。ドライトマトが赤い宝石のようにキラキラしている。


エルナは出来栄えに満足すると、次はキノコのオイル漬けにとりかかった。


ポムと収穫した様々な種類のキノコを、それぞれ食べやすい大きさに切る。黒真珠だけは一個の半分だけを使い、細切りにした。


オイル漬けにすると、黒真珠のナッツのような香りがオリーブオイルに移るので、少量でも珍重されるキノコの香りを楽しめるのだ。


切ったキノコはニンニクと一緒にフライパンに入れ、オリーブオイルで炒める。


それを残りの二つの空き瓶に入れ、ドライトマトと同じようにオリーブオイルで満たした。ヒールシャワーと唐辛子を一本、隠し味にショーユーを少し入れて、フタを閉める。


「うん、これもいい感じ」


きらめく黄金色のオイルのなかに、ツヤツヤとしたキノコが浮かんでいる。秋の恵みがいっぱいに詰まった瓶からは、森の生命力が感じられるような気がした。


(明日、あの八百屋さんに置いてもらえるか聞いてみよう)


午後の日差しで暖められたキッチンでは、昼寝をするポムの寝息だけが聞こえる。


エルナはその静かで優しい時間を楽しみながら、完成したオイル漬けの瓶を丁寧に布で包んだ。

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