(11)共鳴
朝ご飯の片づけが終わると、エルナはまた畑へと戻った。トマトはすべて赤く熟れていたので、早く収穫してしまわないとダメになってしまうだろう。
エルナはハサミを片手に、赤いトマトを手で包み込むように持つ。
ずっしりと重いその実は、皮がツヤツヤとしてみずみずしく、生命力にあふれている。彼女はひとつひとつ丁寧に収穫し、かたわらのカゴに入れていった。
ポムはカゴをのぞき込んでは、トマトの甘やかな香りをクンクンと嗅いでいた。
「さあ、次はサツマイモよ」
「キュー!」
大きなカゴいっぱいにトマトを収穫し終えると、エルナは昨日植えたサツマイモのところへ移動した。
一夜のうちにツルが伸びて、青々とした葉がたくさんついている。エルナはそれをつかんで引っ張ってみるが、葉がブチブチ切れるばかりだ。
「キュウ?」
「これはツルを切ってから掘らないとダメかも」
エルナは物置から鎌を持ってきて、葉っぱやツルを刈り取る。
あらわになった土を手で掘ると、やはり大きなサツマイモが出てきた。男の人の靴よりも大きい。
「わ、わあ……」
呆れすぎて、もはや言葉が出ない。
「これはしばらく天日に干しておこうね」
「きゅ?きゅぅううう!」
だが、「今すぐ食べたい」と言うように、ポムが腕にすがりついてくる。
「ポム、お芋は掘りたてよりも、お日さまにしばらく干しておいた方が甘くなるのよ。この間のお芋は、あまり甘くなかったでしょう?」
「キュ……キュッ」
どうやら思い出したようで、渋々という感じでポムがうなずく。ポムは本当に食いしん坊だ。
「ふふふ、甘くなったら、焼き芋にして食べようね」
「キュー!」
今度は元気の良い返事が返ってきた。
「さあて、このトマトをどうしましょうか?」
収穫したトマトをキッチンへ運ぶと、エルナは両手を腰に当てた。
トマトは30個くらいあるだろうか。とてもじゃないが、ポムと自分では食べきれない。
カボチャは涼しい所に置いておけば日持ちがするので、それほど問題はない。
だが、トマトは完熟なのですぐに傷んでしまうだろう。スープなどの料理に使うとしても、数日で食べ切れる量ではない。
(こういう時、確かお母さまはドライトマトにしていたわね)
エルナは母のやり方を思い出して、ドライトマトを作ることにした。
(お母さまお手製のドライトマトは、とっても甘くて美味しかったわ)
上手に乾燥させれば日持ちがするだけではなく、旨みが凝縮されてさらに美味しくなるのだ。
そう決めたなら、早い方がいい。
さっそくトマトを洗って水気をよく拭くと、ナイフで薄めの輪切りにし、さらにそれを四等分にする。魔法のナイフが引いた線が見えるので、ばらつきなく均等に切ることができた。
「きゅぅうう」
水分の多い種の部分を取り除いていると、作業台の上のポムが甘えた声を出した。トマトが食べたいらしい。
「う!」
上目づかいのうるうるした瞳に抵抗できず、エルナはいくつか口に入れてやる。満足そうに口をモグモグさせるのが可愛い。
全部切り終わると、作業台の下から平らなザルを取り出し、トマトを乗せて塩を振る。こうすることで、トマトの水分が早く抜けるのだ。
エルナは少し考えて、それを風通しのいい寝室の窓辺に置いた。あとは自然が仕上げてくれるのを待つだけだ。
だが、振り返ると、こちらを見上げるポムと目が合う。
「こ、これは食べちゃダメよ、ポム」
「きゅぅうう」
「あのね、トマトは干すともっと美味しくなるの。あとでこれで美味しい料理を作ってあげるから」
「キュ、キュッ!」
「美味しい料理」と聞いてポムの目が輝く。どうやらつまみ食いは回避できそうだ……恐らくは。
(ついでにスパイスも作っておこう)
ヒールシャワーは毎日使っているので、当然減るのが早い。ムーンライトとイグニッションも、いつ必要になるかわからないので、切らさないように気をつけていた。
エルナは計量のための秤や、スパイスを入れるための空き瓶などの道具を揃える。元からそのために使っていた小屋だから、必要な物は全部揃っていた。
窓辺に干してあった薬草や棚のスパイスも、迷いなく選び出していく。
「キュウ!」
エルナがスパイスを調合して行くのを、作業台のうえのポムは興味津々の様子で眺めていた。
実のところ、秘伝のスパイスは何度も作っているので、母のレシピ本がなくても三種類のスパイスを作ることができる。
あのノートを大切にしているのは、ただ母の手書きの文字が懐かしいからだ。ページを開いて眺めているだけで、思い出がよみがえって心が慰められる。
「さあ、大切なのはここからよ」
出来上がった三種類のスパイスの前に、エルナは跪く。両手を顔の前で祈るように組み合わせ、意識を集中させた。
「このスパイスを食べた人が、健康になりますように」
心を込めて、母から教わった言葉を唱える。
エルナの体全体から、金色の光が発せられた。光はスパイスに向かって伸び、小瓶に溶け込むようにして消えていく。
エルナは立ち上がり、瓶に入ったスパイスを確認した。
「うん、大丈夫そうね」
三つの小瓶を棚にしまうエルナは気がつかなかった。自分がいつもよりも多く金色の光を発していたことを。
そして、同じタイミングで、ポムも光っていたことを。




